第133話この程度のことなんだけれど

 さてと、一日ご苦労様。相棒。

 私は元気だよ。

 多分、視神経はくたびれてるけどね。


 わたくしは好きなものほど書きたくなる。

 あの瞬間、この瞬間におぼえた感覚を忘れないように、正直に書こうと思う。


 中学生の時を思い出したよ。

 外の陽気さに教室の薄暗さがマッチしてしまう瞬間。あったよね。

 ほとんどセピア色の影に四角く縁取られた青空が好きだった。

 校庭の桜の木々のその向こう、垣のように連なった雲が好きだった。

 私は幼い頃の自分を思い出している。

「日の照る方の空。明るい雲と暗い雲。吹いてくる風の強さ。一平方センチメートル内で動いた雲の変化の仕方」

 そんなことばっかり考えていた、あの頃。

「今日は雨かな、晴れのままかな」

 朝起きると心配なのは、お天気のこと。

 だったら、ニュースでも観ればいいのに、その頃の自分はTVを観ないフリをしていた。

 まあ、朝からそんな暇もあったもんじゃないか。

 じゃこと鰹節を乗せたねこまんまを、雌猫と一緒に食べた。そしたら、後は保育園に行かなくてはならない。

 雲ばっかり見たな。空。

 それだから思い出すのだ。

 曇りガラスの向こうに、青空が見えると、「きれいだ」と思う。

 空に張りついた紗織のような薄雲に、裏切るようにフレームを通り過ぎる白い影。

 天上と、空で、風の速さが違うのだ。

 また来ないか、まだ来ないかと思っていると、ひときわ大きな白い綿。

 乱れもせずに、そのまんまの姿で通り過ぎていく。

 いつまでも見ていたい。

 でも、外はちょっぴり眩しいから。

 しゃっと、カーテンを閉めてしまう。

 仕方のないことだ。今日はお天気だから。皮膚がんになりたくないから。嘘。

 あんまり外を眺めていると、首が痛くなってしまうからね。


 おや、長くなり申した。

 動く雲は、とらえどころがありませんからなあ。

 絵日記にも描けない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る