第111話笑う門には福来る

 23日のクリスマス会に甥っ子のYが持ってきた『Larva』(らーば)という児童向けアニメをお正月用に借りてきた。

 これがとんでもないギャグの連続で。

 わたくしは、ディズニーの次にこの『Larva』を作ったオデッセという会社を推す。

 形式にのっとって、紹介すれば、二匹の『Larva』(幼虫・幼生/Web辞典より)が側溝の中で真摯に生き抜く、その悲喜こもごもの物語なのである。

 言いたいことは一杯あるし、感想も、感動もひとしおなのだが、やはり子供が面白いと思うものは大人が見ても面白いものだ。

 対象年齢は絵本を卒業して、皮肉やアイロニーを楽しめるようになった小学1年生以上だと思う。

 ところでわたくしは笑いに弱い。

 小学生の時に「ベロ出しちょんま」を読んで一日中笑い転げていた(比喩でなく、畳の上を転げまわり、腹の皮はよじれるわ腹筋は痛いわ息が苦しいわ)くらいで。後になって読んだら、なんとも悲惨な話で哀しい物語なのだ。おそらくわたくしは笑い上戸という以上に感覚が普通じゃないか、読む時期が早すぎたのだと思う。

 そんな、わたくしのツボを押して、取りこんでしまったこの作品。

『Larva』最高! 紹介してくれたYのセンスはたまらない。天才だよ……と浮かれた頭で思う。

 なにせ台詞なしで笑わせてくれるのだから、免疫力が上がって幸せである。


 お正月だからといって実家に来ている父は「アラモ」(?)とかいう西部劇を借りてきて、わたくしのプレイステーション4を乗っ取ってしまった。

 わたくしが目に焼き付いた『Larva』を脳内再生して笑い転げていると、

「うるさい! だまれ! これから戦争が始まるんだ!」

 というんだけど、わたくしは幸せ気分なのでこのまますぐに寝たい。

 なのに父は、プレイステーション4の電源の切り方を知らないし何べん教えても忘れる。

「私が見終わるまでそこで待て」と理不尽な要求をする。

 人のプレイヤーを借りているのに、狭量なのである。

 一時間ほど夢うつつですごし、もう一度

「あと何分くらいで終わるの?」

 と尋ねたらば、

「これから戦争が始まるんだ」

 と先ほどと同じ答え。全然話が進んでないじゃんか!

「わたくしはどれだけ待てばいいんですかね?」

 と半ばうんざりして聞いたら

「10:30PMまでかな」

 あと40分はある! しかも父の好きな戦争がまだ始まっていない。

 父のために、自分の時間を無為にするには、わたくしは彼に失望しすぎている。

 彼が借りてきた戦争物は長編か中編だから、明日まとめてみると言っていたのに、わたくしがプレイステーション4を起動させているのを見て、それなら自分も便乗しようと勝手にのっとった。

 おかげで『Larva』の一巻しか見られなかった。

 わたくしが「らーば! らーば! すてき! 楽しい! とても幸せ!」

 というと、

「(アラモが)聞こえない!」

 と日本語の字幕で見ているはずの父が言う。

 父の言うことによると、彼は戦争や喧嘩が好きなのだそうだ。

 人を傷つけておいて平気な性質なのは、そういう映画を観てきているからなのだな、と解釈しましたよ?

 なにをおふざけになっていらっしゃるの? わたくしのゲーム機本体を生ごみに出した自分をお忘れか。弁償もしてくれなかった。わたくしはそんな父に尽くさねばならない理由がわからないし、儒教者でもないから、年上というだけで尊敬する気にならない。

 だけど腹の底からおかしいのは、

「あまり勝手を言うと、電源切るよ?」

 の一言でひるむ姿である。

 やっぱり72さい(来年)にもなると、機械にうとくなる。

 そこは自覚しているらしい。

 よーし、その調子でちっさくなっててくれい、と思ってこれを書いている。

 もうそろそろ「アラモ」が終わるはずだ。

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