第27話兄弟喧嘩の処方箋
九月。このほど、妹が三男を生んだ。
友人たちは「出産は三人目が一番キツイ」とこぞって言って聞かせたらしいが、感想としては、思ったほどではなかったという。
まず、生まれる、という気配がしたという。小水でもないのに、下着がびしょ濡れになるような水がでるらしい。これを破水といい、胎内で赤ちゃんを包んで守っていた羊膜が破けて羊水が出てくる。そうすると、あかちゃんが外界と触れる。その状態の放置が長く続くとばい菌などが入って感染症の恐れがでてくるという深刻な事態になる。
よって当然の措置として入院したのはいいものの、なぜか三日の間音沙汰無し。妹はスクワットなどして努力したが無理だった。ゆえに彼女は外出許可をとって息子二人を幼稚園バスが来るところまで迎えに行くという、完全な暴挙にでた。
喜んだのは長男と次男で、病院までついて行った。そのうちに陣痛が始まり、なんと五歳と三歳の息子二人と妹の母自身が出産に立ち会うこととなった。分娩室の中でいよいよ産まれる五分前、妹は明確な悲鳴をあげたそうだ。そして仕事中だった夫は出産に立ち会うことができず、悔しがった。
さて、問題は上の二人の息子たち。普段は険悪だった彼らだったが、すっかり絆を深めて、仲良く末の弟に接するようになった。目を疑うほどだった。泣いたり泣かせたり、かかと落としまでやって見せてくれたしスーパーボールを相手の目に当てたりもした二人だけれど、もうすっかりお兄ちゃんだね。うん、こちらが本来の二人なのよ、とついつい錯覚。そんなんだったら本当にいいのに……。
で、当の三男の名前であるが、RかTかとうだうだしてたが、Rに決まったらしい。
母方の曾祖母含め、長男の友人票で決定的になったというが……実際Tはないだろうと思っていた。
しかし聞いてみれば、産んだ母親(いもうと)がTが良いと言っていて、それに反対する形で夫とその他親戚が押してRになったという。次男は最後までふらふらとRがいいとかTがいいとか言っていたらしい。
どう思うかは人それぞれだが、母親が納得するに至ったのは、なんと「画数がよい」!
占いか!!
そんなわけで、生まれて二週間、ギリギリで父親が名前を届けたという。
このように、子供の名前一つで親戚中がやいのやいのと盛り上がるのは楽しい。わたくしは混ざらなかったが、眺めているだけでも面白かった。
名前一つでよくそこまで熱狂するよ、と……。
ちょっとわたくし、元気になれる機会を逸したようにも思うので、後になって話題にしてみた。
「Tってなんだか外国人みたいな響きね」
というと、「そこが良いと思ってたのよ」と妹。
「だって、同じ幼稚園の女の子はサラとエマっていうの、姉妹でよ?」
張り合いたいのか、時流に乗っかりたいのかはっきりしてほしいが、妹の性格からいって両方だろう。まあいい。趣味の問題だ。
Rを初めて抱っこさせてもらったときの感想は「ちいさい! あまりにもこれは」だった。衝撃を受けたので妹に言うと、
「これでも長男、次男と、全員ばっちり標準体重クリアして産んでるんですけど」
一瞬なんのことかわからず呆けたが、健康だということだろう。相当気を遣って育ててきたと言いたいのだ。
さて、すぐ下のもう一人の妹はというと、十月に唐突に実家へ寄って噂話をしていった。
「きっとあの子、本当は女の子が欲しかったんだわ。四人目まで頑張る気よ」
と、おそらく憶測を述べているんだとは思うが、そういう彼女の物言いは苦手である。彼女はすでに長男と長女を得ているから、ますますだ。最初の出産からニ十キロ増えた体重が、長女出産後に半年で十キロ減ったとかで、自慢げなのがひしひしと伝わる。古本屋で買ったダイエット本の知識をひけらかして、口うるさく言ってくる。いろいろ面倒な相手だ。……というのは、わたくしの個人的な悩みだ。
しかし、こうして逐一記録していって、いつかRに見せる日がくるのか、彼はおとなしく見てくれるのか、想像すると胸がそわつく。
よく育て。Rの命は、生まれてきた時点でこの上なく祝福されているのだ。彼の母には人に言いふらすような悩み事など一つもない。
Rは家族がとても幸せな時期に生まれてきた。彼のこれからも、すべてが誇らしくあるように、伯母の一人は祈っている。
甥っ子よ……。
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