第19話ご先祖の墓参り
熊本に滞在四日目に、わたくしたちはご先祖の墓参りに行った。
祖母がお供えの花を事務所ではなく、地元のミニスーパーで入手したのにはわけがある。
いわく「自分で用意するということが大事なのよ」なるほど、心構えの問題でしたか。
小さいころ熱気でかげろうが揺れている中、墓石の並ぶ丘をぐるぐると登っていった覚えがある。今は伯母が車で送ってくれる。どうやら、お墓まで行くには二通りの道があり、長い坂道を徒歩で昇る道と、車で登れる道があったらしい。
水道からバケツに水を注ぎ、柄杓をもってご先祖の墓までたどり着いた。
伯母が墓石に水を柄杓であげて、祖母がろうそくと線香に火をともす。わたくしと伯母とで花を活け、みんな順番にお線香をあげる。良くなかったのはろうそくが一本しかなかったこと。不吉なのだろう。百物語をする時の用い方だ。
まあしかし。一通り終えてから、伯母と母とは、墓石が地震でずれたらしいと話していた。
母は、記念撮影をしよう、と言って、他家の墓の脇を踏み越えて、ごめんなさい、と言いつつデジカメを取り出した。
撮影者は母の次にわたくしが請け負ったが、カメラ越しに見ると、三人とも我々のご先祖の墓を後ろに並んでいるので、手前にあったNの家の墓の後ろになっていて、まるでN家の人々のようであるから、ご先祖の墓の後ろに並んでほしいと言った。
当然撮りなおしである。しかし他家の墓を踏んでもいいものか、疑問に思う。まあ、母もわたくしも「失礼いたします」と言って踏ませてもらったので、御堪忍を。
ご先祖の墓の裏には名前が彫ってあった。わたくしは母親の名前の由来を改めて知った。彼女は生まれてからすぐに「**おばあさんにそっくりたい」と言われて似た名前にされたのである。ああ、当時おばあさんは、すでに亡くなっていた方なので大丈夫だろう。
バケツと柄杓を入り口の備え付けの水道辺りに戻して帰ろうとしたら、さらに登ったところにある黒い石の墓が、よくバランスを保っているなあと思うほどずれていて、さらにその場所は石垣の上でちょうどフェンスが途切れていたところなので恐ろしいと思った。
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