第18話なんでわからないんだろ?
ほんとうに疲れたのだが、そういってもわかってくれる人はいないであろう。
そう、わたくしは被災者の身内というだけで、なにか困ったことに面しているのでもない。
一方的に話を聞くだけ、ごはんを食べるだけ。
そういえば、東北の震災の被害者は、炊き出しと聞いてひたすら感謝をしたという。熊本では文句を言うのだそうだ。「古古米」「味が……」「食べられるというだけだ」と。自衛隊のごはんもおいしいものではないと。普段よほどおいしいごはんを食べているのだろう。ボランティアの人たちもなんで反応がこうなのかと不思議がっていたらしい。
震災当時、伯母たちは災害時の避難所である小学校の体育館を目指したという。
しかし、古い校舎はガラスが飛び散り危険だった。そのうえ、運動場も体育館も人でいっぱい。なので、隣りにあった新しい校舎の中学校へ、みんな車で押し寄せたそう。やっぱりガラスを踏むのは嫌だったので。そして時間が経つと、冷え込んでくる。伯母は旦那さんに言われて家まで毛布を取りに行き、地面だったか床だったかの上で、毛布一つに包まって寝たそうである。
そして、まさかの震度七、再び!
「余震に注意してくださいて。まるで裏切られたようたい。(大地震は)いつでん来ると思ってなきゃだめたい!」
と伯母は語る。後に、ニュースで「余震といういい方はしない」と改められたのはそういうことなのだと納得した。
祖母の家も、庭側ががくんと落ちたので、業者さんに直してもらったそうだ。額面にして五十万! 部屋の中を見ると、壁と床にくっきりとまっすぐ折れた後のようなひびが残っていた。石垣は白い漆喰のようなもので補正されており、母は坂下のミニスーパーで牛乳と飲料を買った帰りに見つけて、
「KSくんが(弟である)してくれたのかね!?」
と、しきりに言っていた。わたくしは以前からのように思えるし、そうでないようにも思えるし、とにかくわからない。ご近所の壁にも鋭いひびが入っており、屋根にはブルーシートがかけられていた。地下水をくみ上げている水道管が、地上にむき出しだったため、昼間は太陽熱で温められていて自然にぬくい。
「あらあ、昼間にシャワーしたら、電気代がいらないわよ、おばあちゃん!」
と言うのは、母。
伯母の家は一部損壊だったらしいが、役所で、もう一度査定すると税金の都合上なんでもなかったことになるかもしれませんよ、と恐ろしいことを言われたと告げたら、旦那さんの強い要望で再申請することになった。そうしたら「半壊」あつかいになったそうだ。どこも被害がひどいので、手当が行き渡らないようになっている、という話。
そして、被災者の心によぎる闇もまた身を浸されたように広がっていた。
伯母の近所はほとんどが半壊で、集まって話すそうだが、みんな二キロくらい痩せたそうである。病院代が無料になっていたので精神科へ行ったら「鬱」だと診断され、先生に体の調子がおかしいことを訴えると、先生は「わたしもですよ」と……。周りじゅう鬱だという話であった。
わかったのはいろいろと頭が痛い、ということだけだ。
熊本に来てから二日目、家じゅうが唸るような音がして、わたくしが「今揺れてるよ」と言うと、母が「そうお?」という反応。
しかし、その後すぐにTVで震度一、と表示された。
「よくわかったね」
と言われたが、なんで気づかないのかがわからない。空気が唸っていたじゃないか。訴えたが理解されなかった。そういうものである。
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