第17話IN熊本(三日目)

 熊本着から三日目。



 この日、わたくしは夜一睡もできずに朝を迎えた。



 憔悴して気絶していたところへ、枕元に誰かが立った。



『イレギュラーで道を渡ってしまう人がいる』



 そう言っていた。



 うつうつとした日が始まった。



 しかし、表向きは真面目に働くのである。



 布団や洗濯物、シーツなどを朝から干して、祖父の優勝カップやトロフィーを整理して……。



 だが、やはり壊れているとは言っても、祖母にとっては大事な形見。



「思い出があるというなら、物置に、いや押し入れに入れておいたらいい」



と重ねて言った。



 祖父の壊れたトロフィーはガレージ行きとなった。丸い球やら、留め具やらが軸からずれて、すかすかに抜けてしまっていたのだ。壊れていようが形見である。しかし今日まで埃をかぶっていたのだから、この際しまっておく方が良いと思った。






 その日はK叔父が来て、三十分ほど話していった。



 お土産にお菓子をくれた。くまもんもパッケージについていて、祖母はくまもんの赤いほっぺたを「トマト」なのだと言っていた。



 わたくしがK叔父に、



「おじいちゃんに似ている……」



と言ったら、曾祖父のことと間違えられて、どうやって釈明しようか悩んだものである。



「じいちゃんにはあんまりあったことないからなあ」



と、最初はボケているのかと思った。



 K叔父は目鼻立ちがわたくしの祖父に、つまり彼の父親に似ているのだ。



 まず、彫りが深い、目鼻立ちがくっきりしているし、目に光がある。若いころの母に雰囲気がそっくりである。



 うまく伝えられなくて残念だ。



 彼は奥の部屋にあった、勉強机を部屋から出して、ガレージまで運んで帰った。



 ガレージのカギはわたくしが受け渡しした。その時のわたくしは、それをいかにも大事な使命のように感じていたものだ。ただ渡したり受け取ったりしただけなのに。



 だが、毎日親族に一人ずつ出逢うようなことが、こうも続くと、人との縁について考えてしまう。今日明日にでも自分の命はないのではないか?



 そして出会えなかった人はわたくしを疎んじているのではないか、と神経質になって、被害妄想にまで至ったりした。やはり寝ていないのがわるいのだ、とクーラーの下にごろりとなった。






 夜にわたくしは隣で寝る母に、



「わたし、周囲に美形が多いと思っていたけど、美人のおばあちゃんと美形のおじいちゃんが起源なのねえ」



と言った。母は寝ぼけてうるさそうにごろんごろんしていた。



 わたくしは諦めて3DSで文学全集を読んで、眠くなったら寝た。



 次の日には頭の中がぼんやりしていた。


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