第5話 辻馬車のうーたん

 隣町まで買い物に来ていたルル。

 雨が強く降り出したので、辻馬車を拾って帰ることにした。


 「へい、辻馬車さーん」

 『どうどう……はい。どうされました?』

 「ミレーネの町まで行きたいんだけど」

 『あー、ミレーネですか。そこの道をまっすぐ3㎞程歩くと着きますよ。じゃ』

 「おいおい、じゃ!じゃなくて……乗せてってよ」


 『……あっはっはっは!お客さん、これ辻馬車ですよ』

 「だからだろ!目的地までお客乗せるのが辻馬車でしょうが」

 『やっぱりそーゆー流れになります?』

 「どーゆー流れだよ!大丈夫かこの子」


 ルルはひょいと座席に座る。

 馬車は勢いよく走り出した。

 

 『運転を務めさせていただきます。ベアトリクスです。

 うーたんって呼んでください』

 「女性の辻馬車って珍しいね。しかも若い。あたしと同い年くらい?」

 『16歳でぇす♪趣味はボルダリングでぇす♪』

 「へー、辻馬車って16歳でも営業できるんだ」

 『お客さん、バカ言っちゃいけませんよ。働けるのは18からですよ~』


 「……」

 『……』


 「……今何歳?」

 『18っス(無表情)』

 「うそつけ!さっき16て言ったろ!違法営業じゃねーか!降ろしてくれ!」

 『お客さん、飛ばしますねー!』

 「きけー!」


 馬車はみるみるスピードを上げる。


 『どうです?この馬速いでしょう!』

 「うぅ、揺れがひどくて酔いそう……」

 『どうです?この馬速いでしょう!!』

 「わかったよ!速い速い!」

 『手塩にかけて育て上げましたぁ!私、馬が大好きなんです。逞しくてカッコいい。何より速い。こんな素晴らしい動物は馬以外いません。馬LOVE!もう馬と心中してもいいくらいです!』

 「へぇ。結構いい子なんだね」

 『照れるなぁお客さん。心中しちゃいます?』

 「やめろやめろ!」

 『お客さんがいつまでたっても趣味のボルダリングに触れてくれないから、私、死にたくて死にたくて』

 「面倒くせぇ!へぇー、ボルダリングやってるんだぁ!」

 『やってません。あんな危険な行為をする人間の気が知れないですよ』

 「お前何なんだよ!」


  数分後


 「あら、速度が落ちてる」

 『ちっ、もうバテたのか。しっかり走れよこの馬鹿馬がぁ!』


  うーたんは鬼の形相で馬に何度も鞭を叩きつけた。


 「うーたん、もっと優しく接しなよ。大事な馬なんだろ?」

 『何言ってるんですかお客さん、ただの馬ですよ?私から見れば所詮走る肉の塊ですわ』

 「さっきの馬熱弁はどこいった!」

 『ちなみにこいつの名前はピー子。親友と同じ名前なんです。かわいいでしょう。

もはや親友にしか見えない。ああ、ピー子。可愛いすぎる。それだのに、鞭で叩くたびに憎しみという感情が溢れだすのは何故でしょう』

 「うーたん、それ心の病気だ!」


 『あ、着きましたよ』

 「助かった」

 『お代は300ゴールドになります』

 「安いね」

 『違法商売ですから』

 「やっぱりそうじゃねーか!ありゃ?このお馬さんハンサムだねー。それに綺麗な毛並み」

 『ちょっと、この子デリケートなんでもっと優しく触ってもらえます?』

 「おまえが言うな!」




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