第14話 ブルーのワイシャツ

「心の声って知っていますか?」


キョウコ先生の声に


「はい、知っています」


とミナミは、答えた。


「何か、聞いていますか?」


ミナミは、頭の中でいろいろ考え、どう答えるか迷ったが


1つ1つ整理して丁寧に答えようとした。


「最初に、冬休みに夫が認知症ですと聞こえてきました。それが、


心の声かどうか分かりません。でも、後に短い言葉でいくつか


聞こえてきた言葉があります。それが心の声でしょうか?」


と落ち着きながら返事をした。


キョウコ先生が、


「短かいというのは?」


ミナミに続けて質問した。


「片耳で聞いてです」


ミナミは、そう答えた。


続けてキョウコ先生は聞いてくる。


「他にありますか?」


ミナミは、いくつかある中のどれを答えていいのか迷った。


「詳しくは言えません。でも名前は誰か聞いてませんが、


その人と結婚してほしいんですと言われました」


いくつかある中の1つを迷いながら返事をした。


するとキョウコ先生は慎重な面持ちで


「これは、告知というものではありません。心の声で聞いた事は大切


ですが、心の声というネーミングはありません」


と言ってきた。


ミナミには、この状況をどう受け取っていいのかよく分からなくなった。


キョウコ先生は、


「ちょっと待っていて下さい。また後で話があります」


とミナミに言い残し、その場を去ろうとした。


ミナミは、去ろうとしたキョウコ先生を止めた。


「待って下さい!私、結婚しているんです!」


ミナミは、結婚している事を必死に伝えた。


キョウコ先生は


「私たちは、全員医師です。安心して下さい。また聞きたい事があります。


とにかく待っていて下さい」


と言い残し去ったようだ。


ミナミは、当たり前の日常の中でこんな大切なやり取りを医師と


時々するようになった。


そして、当たり前の日常に少しずつ変化が見られるようになった。


ミナミには、この変化が、何がなんだかさっぱり分からなかったが、


夫に女性の影も疑い始めてきた。


ミナミは、誰かに言いたかった聞きたかった。でも「言わないでほしい」


という事から始まった事を誰にも言えない状況に置かれていた。


そんなミナミを救うように、声をかけてきていたのがサヤカ先生と


和也でもあった。










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