第48話 失踪

 捜索願が出されてから一週間ほど経った。生徒達は彼らの捜索願が提出されていることは全く知らされていないため、二人が学校に来ない理由もわからなければ、行方不明になっていることも知らなかった。

 水谷と山根は二人が行方不明になっている事実は知っていても、捜索願が出されていることまでは知らない。杉本は「俺に見られて学校に来にくくなったんだろうな」くらいにしか思っていなかったが、とにかく一言でも漏らせば自分の恥ずかしい写真をばら撒かれると思い、ひたすら貝になっていた。

 坂田の親と学校の間には必ず弁護士が入ってやり取りをしていたため、坂田の父に一つだけ伝わらなかったことがある。それは坂田が『斉木と一緒に』行方不明になっている事だった。学校は斉木と坂田それぞれの家に連絡はしていたが、二人同時に居なくなったことを関連付けて説明はしていなかった。その為、坂田の父は優弥だけが行方不明になっていると思っていたのだ。

 その状態で捜索願を出しているので、当然警察には坂田優弥に関する捜索願は提出されていても斉木和也に関しては全くのノータッチであった。つまり、坂田優弥が一人で何かの事件に巻き込まれた可能性があるとみて捜索していたのだ。

 この間の一週間、完全なロスタイムとなっていた事は言うまでも無く、水谷が「日本の警察はヘボばっかりかよ!」と喚いてもそれは警察のせいではなかったのである。



 何らかの事件性を考えた警察が学校に聞き取り調査に来ると言うので、全校生徒が彼ら二人に関する情報についての事前調査をされた。勿論だが、杉本は水谷が怖くて何も言えなかった。山根は坂田と一緒にジャズフェスに行き、そこで斉木の演奏を聴いた話はしたが、病院の事は一切話さなかった。

 こうして「坂田優弥」の失踪は「坂田優弥及び斉木和也」の失踪事件として漸く形を変えることになった。テレビや新聞にも「男子高校生二名が行方不明」として取り上げられ、情報提供が呼びかけられるようになった。

 これを受けて、生徒会では『みんなの力で二人を探そう』という運動が立ち上がった。二人がとっくに日本を出ていると踏んでいた水谷は、自分では海外の情報を手当たり次第に探しつつも、万が一国内に居た場合の事も考えてその運動に参加した。生徒会副会長でもある水谷は生徒会の運動をある程度思い通りにすることはできるのだ、参加しておかない手はない。

 生徒会だけでなくクラス委員や吹奏楽部員、仲の良かった友人からも有志が集まり、二人を探す運動はたちまち大規模になった。

 生徒会でビラを作成し、それぞれが自分の家の近くの駅などでそれを配り、塾や習い事の場でもそれを貼って貰って二人の捜索に協力をお願いして回った。ビラ配りに参加できない友人たちも、ツイッターやLINEを使って拡散し、情報提供を呼び掛けた。そこにちょうど動き始めたマスコミが便乗する形になり、二人の捜索は全国レベルにまでなっていった。

 にもかかわらず、一向に情報が入らない。

 確実に日本には居ない、水谷はそう確信した。

 それならば彼らにとってそれは幸せな事なのかもしれない、ここで探し出したりしない方が彼らの為になるのなら、このままそっとしておいてやった方がいいのかもしれない。だが、捜索願が出てしまっている以上、見つけ出すか取り下げられるまで捜索は続けられるだろうし、友人たちも探している。後には引けないのだ。

 それに、もし、海外にまで出ておきながら苦しい生活を強いられていたり、日本以上に苦しめられることになっていたら? そうなれば彼らは絶望して最悪のケースに行きつくことも考えられる。実際坂田は何度も自殺しようとしているし、斉木も引きずられないとは限らない。

 迷いに迷った水谷は、一人で警察に出向いた。

「あの二人の一番の親友として、思うところがあって来ました。多分、あいつら日本に居ません」

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