第一章その5.悪夢との対峙

 なまりいろの体をし、どの狼もけんするどものを狙う様に目を光らせている。中央にいる一匹の狼が一歩二歩と自分達に近づく。かさず式神を発動させた。自分達が投げてつちみちに貼りつけた二枚の式神の札はあいいろせんこうを放ちながら丸印の鳥居を地面に焼きつけ消失し、狼達がいる方向へむらさき稲妻いなずまを地面にめぐらせる。地面を駆け抜けた紫の稲妻は狼達におそい掛かり周囲の砂埃すなぼこりが舞う。

「やったか…」

 自分は独り言のように呟いた。噴煙ふんえんの様に舞い上がった砂埃が徐々にうすれ、視界が晴れてくる。近づいて来た一匹の狼は消えていたが、あとの三匹は無傷の様だった…。

「嘘だろ?」

「なんで!」

 きょうがくのあまり、神羽屋と顔を見合わせる。しかし、三匹の狼達はって来なかった。

「でも、何だか様子が変だ。どうなっているんだ?」

「もしかすると、体は無傷だけど目くらましになったのかも…」

 神羽屋の言う通り三匹の狼達は、その場をあたふたと蛇行だこうを繰り返して歩き回っている為、自分達の方向へは一向に近づいて来なかった。

「今のうちに逃げよう」

「うん」

 神羽屋は少し緊張が解けた面持ちで、うなずきながら答える。自分達は、その場を足早に去った。辺りを見渡しながら住宅街の路地を小走りで進む。光が差している方向へ向かい薄暗い路地を駆け抜ける。辿り着いた先は広い空き地だった。

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