第一章その6.神羽屋の考察

 あれから、随分ずいぶんと時間が経った。自分達は住宅街の路地という路地を駆け抜け、広い空き地に辿り着いた。そして、ここに来るまで三匹の狼達とは出会でくわすことも無かった。内心、狼達を巻いたのではないかと自分は思っていた。すると突然、隣にいる神羽屋が神妙しんみょうな面持ちで呟いた。

「おかしいよ…」

 そう言うと神羽屋は、ある事を自分に尋ねてきた。

「市村君は狼の長所を知ってる?」

「…嗅覚きゅうかく?」

「そう、嗅覚が鋭いの。私たちをおそおうとした狼達は、あの後にでも嗅覚を使って追えたはずなのに追って来なかった。怪しいと思わない?」

「確かに…」

 神羽屋の言うようにあの時は砂埃と目くらましのせいで狼達は身動きを取れなかったかも知れない。しかし、狼の嗅覚は並大抵のものではないと歴史書に記述きじゅつされていた事を覚えている。あの後、狼達は直ぐにでも自分達を追いかけれたはずだ。なのに何故…。すると神羽屋が、おもむろに辺りを見渡す。

「つまり罠にはめられたという事らしいね…」

 神羽屋に釣られるように自分も見渡した。周りはすでに三匹の狼達に囲まれていた。

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