第3話 雪だるま式
アカネさんによると心霊現象はこの家では日常茶飯事なのだという。
家相せいなのか霊の通り道になっていて、霊が溜まらないよう二階にドアが作ってあり、みなさんそこから昇天されていくのだとか。
それで僕にしがみついている連中だけど、神社に行けばこのていどの霊は簡単に落とせるので、夜が明けたら近所の八幡様にみんなで初詣でしようということになった。
叔父さんたちは片参りになるからと外宮と内宮の両方詣でたあと、二見浦の夫婦石で初日の出を拝むため帰りは遅かった。
霊が憑いていると言われたせいか妙に頭が重く首がだるく肩も痛くなってきた。
そう告げると「ただの肩こりだ、バカ」と怒鳴られた。
確かにずっとペンや筆を振るっていたし、アカネさんやヒトミさんも 同様に肩こりになっていた。
そのまま徹夜し夜食に食べるはずだった年越しのカップ蕎麦を朝食代わりに僕たちは家を出た。
僕らも八幡神社で初日の出を拝むことにしたのでまだまだ暗い時間だった。
歩き出してすぐ僕は側溝にはまって足をくじいてしまった。
かなり痛かったが神社に賽銭をほりこんで拝まないことには落ち着かないので我慢して再出発した。
そしてもうすぐ神社というところで階段に張っていた氷に足を滑らせ後頭部を強打したようだ。
正月早々救急車で病院に搬送されることになったがこのあたりの記憶が曖昧でよく覚えていない。
ニット帽がクッション代わりになったのか外傷はなかったが丸一日意識不明だった。
アカネさんによると救急車が来るまでうわ言を言いながらうなされていたらしい。
あとから少し記憶がよみがえり、なんとなく霊たちに「もう神社には行きません」と詫びていたことを思いだした。
それからの事はできれば忘れてしまいたい。
正月三が日を病院のベッドの上で過ごした僕はこれまた生まれて初めての金縛りにあった。
パニックに陥ってなんとか動こうとするのだが声すら出せない。
そして足先の方に気配を感じた。二つの気配だ。
それぞれ左右に分かれてベッドの脇に移動してきた。
右側が白っぽく、左側がドス黒い感じだ。
何か相談しているらしくひそひそ声が聞こえるが内容までは聞きとれない。
やがて白い方が出て行き、残された黒いのが覆いかぶさってきた。
呼吸が止まるほどの重みでこのままでは死んでしまうと、最後の力を振り絞ってようやくまぶたを開いたところで金縛りがとけた。
びっしょり汗をかき荒い息をしていた。そのまま朝まで眠ることはできなかった。
落ちがない話ばかりで申し訳ないが、気配の正体とかは不明のままだ。現実はそんなもんだ。
それ以外にも病院ではやたらと幽霊を目撃した。
昼夜関係なく病室にやってくる。廊下ですれ違う。トイレで連れションした奴までいた。
例外なく青白い顔をして輪郭がぼやけていた。
見舞いに来たアカネさんにははっきり見えていて時々生きている人間との区別がつかなくなるという。
その後の検査では異常もなく頭痛はあったがしだいにおさまっていった。
幽霊を見る頻度も下がっていったのは退院したからだと思った。
本当はアカネさんの手伝いをしなくなったからなのだがこの時はまだ知らなかった。
しかし逆につまらない怪我や事故に会いはじめた。
階段を踏みはずしたり、風にあおられたドアにぶつかったり、一番やばかったのは空から人が降ってきた時だ。
飛び降り自殺だった。あやうく巻きぞえをくうところだった。まさか五階ていどの小さなビルを死に場所選ぶとはよほど追い詰められていたのだろうか。
そしていよいよ修羅場をむかえたアカネさんから再び招集がかかった。
久しぶりに漫画部屋に踏み込んだ僕を見てアカネさんはのけぞった。
後ろに憑いていた霊たちが合体して悪霊化しているかもしれないという。
さらさらと描いた図解によると人間ムカデ状態。
その中には例の黒い奴や飛び降り自殺したはた迷惑な奴まで混じっていると教えられた。
「こんなの初めて見た。何か心当たりはないのか」
と、きかれたが他人に恨みを買った覚えもなければ、心霊スポットに突撃したこともなかった。
アカネさん的にはいつも仕事を邪魔する霊たちが僕に引き寄せられるため至極快適だと喜びヒトミさんも同意していた。
三日後やっと解放された僕は首なしライダーにはねられた交差点で櫛を拾ったことを思い出した。
あれから不運続きなので気味が悪くなってバッグから櫛を取りだし同じ場所に捨てた。
ビンゴ!
あとで祖父から教えられたのだけど、櫛は落ちていたのではなくわざと捨てられいたに違いないと。
クシはつまり「苦」「死」で新年を迎えるにあたって厄落としのため誰か、不幸な誰かが四つ辻に捨てたのだ。
それを間抜けな僕が拾ってしまったのだ、首なしライダーと一緒に。
そこから雪だるま式に事態は悪化し、はからずも呪いのような型にはまってしまったというのがあとからの推測だ。
もちろん雪だるま製造にあのアカネハウスが大きく関わっていたのは想像に難くない。
ただもはやは櫛を捨てたぐらいでは解決できるレベルではなかったのだ。
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