page.23 バックログ-B


―――


明(蒼人さんは、私の家で見た荘厳な着物の事は覚えていますか?)


蒼「あぁ、望が文字を読んでくれたあの着物か」


明(じゃあ、冷泉の夏会も覚えていますか?)


蒼「あー、そういえばそんなことを望がうわごとのように言っていた気が」


明(その冷泉の夏会は、元々冷泉町で行われていた夏祭りに関する言葉でした。この辺は冷泉町史にも書かれていましたし、おばあちゃんの手記の中にも出てきました)


明(それは、冷泉町で夏祭りが行われていた頃、神様がもたらした気候に対して行われる奉納の舞いの事だったそうです。それは当時、冷泉神社で毎年行われていて、その都度舞い手が決められていたらしいです)


蒼「舞い手が」


明(その舞い手は、冷泉町に存在した幾つかの古い家がその役を担っていて、舞い手の選定はその家のお仕事だったそうです)


明(そしてその舞い手は、女性でなければならない)


蒼「なんだか内輪的だな。まあそんなのとは縁のない俺には何とも言えないが」


明(………)


蒼「明乃?」


明(すみません、話を続けますね)


明(そしてそれらの家は今でも冷泉町に残っています。珍しい苗字ばかりですからすぐにわかりました)


蒼「へぇ。珍しさなら家も引けを取らないけれど、そんな家が冷泉町には多くあったのか」


明(………はい)


明(…それで、その舞い手を担当していた家なのですが、冷泉町史やおばあちゃんの手記などを合わせた結果、7つあったそうです)


蒼「珍しい苗字があと7つもあるっていう事か?」


明(いえ…蒼人さん的に直すのなら、という事になります)


蒼「………は?」


蒼「………もしかして」


明(その7つの家と言うのが、蓮華坂れんげざか四王寺しおうじ大三柱おおさんばしら花袋かたい宇都井うづい久我橋くがはし、そして………)


明(…祭ヶ原まつりがはら


蒼「っ!待てよ、それじゃあ俺の家は冷泉町の舞い手の一家だったっていうのか!?」


明(他に居なければ、そういう事になりますね。もっとも、祭ヶ原という家が他に一切無いようですから、調べるまでもなくそういう事なのでしょう)


蒼「そう…なのか。いや、珍しい名字だから何か逸話でもあるのかと思ってたけど……まさか」


蒼「…ってちょっと待った。そんな関わりのある家がどうして今までそんな祭事の事を知らなかったんだ?関わりあるのなら、俺も、母さんだって知ってなきゃ…」


蒼「そうだ、母さんはその夏会の踊りが出来る立場だった。母さんの頃がどうかは知らないけど、母さんだって………!」


明(………えぇ)


明(………少なくとも、おばあちゃんの頃には、祭ヶ原も関りがありました、けど)


明(………おばあちゃんが冷泉の神様と出会って何度目かの夏に、夏会の舞い手を決める選定会があったそうです)


明(しかし、その年に舞い手の家柄に属する家の中に、適した女性がいなかったようです)


蒼「まぁ、そういう事も、あるんだろうな」


明(そしてその年に選ばれたのは………祭ヶ原家でした)


蒼「うちか」


明(はい…けれど、それは誰も望まない選定でした)


明(なぜならその時選ばれることになった祭ヶ原の舞い手は、夏会では禁忌とされていた男性の舞い手だったんです)


蒼「男性…?」


明(夏会で男性が舞いを務めることは、固く禁じられていたみたいです。ですがその年は、男性が舞う事が決定された…しかも裏付け付きで)


蒼「裏付けってなんだよ」


明(………神様ですよ)


明(夏会を担うことになった人物にだけ、冷泉町の神様の姿が見えるようになる………)


明(そして、選定された祭ヶ原の男性には、神様を見ることが出来た)


蒼「つまり、神様を見ることが出来たから、その祭ヶ原の男は禁忌にも関わらず舞い手として決定されてしまったと」


明(そうです)


明(そして、その選定が、私が一番知りたがっていたことを全て教えてくれた選定だったんです)


蒼「知りたかった事………冷泉神社と、不在の神様の事…?」


明(はい)


明(………男性の舞い手が決定されたその年、夏会は行われ、祭ヶ原の彼は舞いを終えました)


明(しかし、その次の日から、冷泉町に神様がいなくなったんです)


蒼「神様が………いなくなった?」


明(それは………どうやらおばあちゃんも神社の神様も気づいて恐れていた事のようで、どうやら祭ヶ原の男性とその時の冷泉の神様は、禁断の恋に落ちていたのです)


蒼「禁断の恋って、もしかして夏会が男子禁制だったのって、以前からそういう事があったから…?」


明(恐らくは、そういう事だと思います)


明(そして、その異変が起きたタイミングで神社の神様は………おばあちゃんの友人は神社から姿を消しています)


明(…それから、私の神社にはおばあちゃんだけが残りました)


蒼「全ての神様がいなくなったのか」


明(そういうことです)


明(………そんな経緯があって、この神社には神様がいなくて、冷泉町が普通の夏を過ごすただの町になったみたいですね)


蒼「………なんていうか、色々知らされ過ぎて整頓が追い付かないが、とりあえず家がすごく迷惑をかけてると言うのはよくわかった」


明(そんなこと言わないでくださいよ。恨みを吐けなくなっちゃいます)


蒼「………ごめん」


明(…こちらこそ、ごめんなさい)


蒼「でも、明乃にとって祭ヶ原って存在は許しがたい存在だ。お前の家が守ってきた祭を何十年も止める事になった原因なんだから」


明(はい………)


明(正直、今はどうしていいかわからなくて、心が落ち着きません)


明(蒼人さんの事は好きです。私の話に付き合ってくれて、ここまで真実にたどり着けたのも蒼人さんが居たからだと思っています)


明(けど、その蒼人さんの家が私の知りたかった事に一番深く関わっていると言う今、私は………わたし………)




明(………どうしたらい…)




蒼「明乃?」


蒼「あきの……!?」



?「あらあら、考えすぎて倒れちゃったのね」



蒼「その声…冷泉さん………」


冷「どうも、神出鬼没の冷泉さんですよー」


蒼「えぇ知ってます、それより明乃が………」


冷「あぁ、大丈夫。明乃ちゃんずっと考えっぱなしでヘトヘトになっちゃっただけだから。ほら、私の膝の上に」


蒼「あ、はい」


スッ………


冷「よしよし、明乃ちゃんもよく頑張りました」


冷「それに、蒼人君も」


蒼「俺?」


冷「明乃ちゃんのお話、ちゃんと聞いてくれたんですもの。途中で止める事も出来たのにしなかった…いいことだわ」


蒼「それは…俺も知りたかったからで…それにそんな話だとは思っていなかったからですよ」


冷「そうねぇ…明乃ちゃんもさることながら、蒼人君も割と大変なのよねぇ」


冷「ほんと、私と忍が止められなかった事が、これだけ長く影響するとは思ってなかったわ」


蒼「忍………明乃のおばあさん…」


冷「そう。夏会があった最後の年に、その最後を見届けた人、冷泉町の祭を西泉に移すことを決めた人、冷泉神社の神様を手放した人」


冷「祭ヶ原たくまに、最後の最後まで警告を入れた人」


蒼「たく、ま………」


冷「そろそろ全部が繋がってきた頃よね?うっすらしてた糸がはっきりと見えてきて、蒼人君の周りの全てが無関係ではないこと」


蒼「なんで………どうしてそんな………でも、のぞ」


冷「望ちゃん?関係がない筈のないこと、分かっているでしょう?」


蒼「ぐ………」


これは、ずっと続いてきたお話


それぞれがどれだけ別の道を歩いても、必ず全部元通りになる


それは、理屈とか理論じゃない


神様に関わったから


冷「祭ヶ原蒼人君」


冷「そして、あなたの周りの人達が、全てを知る時が来てるわね」


蒼「冷泉さんは………望は、やっぱり冷泉町の神様なんですか?」


冷「正解。私はずっと放っておいたけど、今でも望ちゃんと同じ冷泉の神様。まぁ冷泉町を元に戻す役割はもう失ってるけどねー」


蒼「じゃあ望は………」


冷「…蒼人君の思ってる通り。望ちゃんは冷泉町の神様。この町的には…50年ぶり位の新しい神様かしら?」


冷「蒼人君、望ちゃんと初めて会った頃から薄々気付いてたんじゃないかしら?」


蒼「さすがにそこまで勘は鋭くはないです」


冷「ふふっ。そして、そんな神様と祭ヶ原のお話」


蒼「俺の祖父さんが、あなた達と関わりがあって、そのせいで今まで神様がいなかった」


蒼「その一部始終を、冷泉さんと明乃のおばあさんは知っている」


冷「厳密に言えば、忍は全部知ってるはずで、私は全ては知らないわね」


冷「けど、蒼人君が知りたいことならほぼ全て話せるはずよ」


蒼「一体、どんな出来事があったんですか………?俺はっ!」


冷「おっと、もうすぐ日が暮れちゃうわね。夜が遅くなると明乃ちゃんのご両親が心配するわ」


蒼「またそうやって…」


冷「いやいや、今回ははぐらかすつもりはないわよ?みんないっぱい調べてくれて、こんなに悩んでくれたんですもの。今度は私が責任を持たなくちゃ」


冷「………でないと、何よりも忍に会わせる顔がないもの」


蒼「冷泉さん………?」


冷「とりあえず、明乃ちゃんをお家に入れてあげましょっか」


………


夜「お世話になりました」


冷「いえいえ、とても研究熱心な娘さんですから、きっと疲れちゃったんでしょうね」


浅「本当にありがとうございます。蒼人君も明乃の話を聞いてくれてありがとうね」


蒼「俺もこういう話は好きになりましたから、それに明乃が…嬉しそうにしゃべってくれるのを見ているのも楽しいですし」


浅「そう、かい」


夜「明乃には追ってお礼をさせますので、今日は夜も更けてきましたから遅くならないうちに帰ってあげてください」


蒼「ありがとうございます。それでは」


………


冷「で、私はどこへ帰ればいいのかしら?」


蒼「知りませんよ。なんでそれをあなたが先に言うんですか」


冷「ふふっ、蒼人さんの顔に"それで冷泉さんはこれからどこに帰るんですか?"って聞こうとしてるって書いてたからよ」


蒼「それなら自分で答えを見つけてくださいよ」


冷「あら?それは今までの経緯を含めた自分への戒めかしら?」


蒼「………」


冷「ごめんなさいね、いたずらなことを言ったかしら」


冷「だけど、そうでもしないとあなたは全てを知ることはなかったでしょうね」


蒼「冷泉さんは、結局俺に何をさせたいんですか?」


冷「うーん…あえて一つだけ言うのなら、幸せになってほしい?」


蒼「ものすごく曖昧ですね」


冷「でも、こんな飄々としている私の切実な願いよ」


冷「私も不要に長く生き過ぎているし、どこかでけじめをつけないとね」


蒼「………」


蒼「冷泉さん」


冷「はい」


蒼「あなたは…そして冷泉というのはいったい何なんですか」


冷「それを帰りの道すがらで聞くっていう事は、もう色々と知って覚悟はついたって事かしら?」


蒼「俺はそのつもりです」


冷「そう…」









冷「じゃあ少しお話ししなきゃいけないわね」


蒼「はい」


冷「蒼人くんは、もちろんこの冷泉町れいせんちょうと、冷泉地区という場所の歴史は知っているわよね」


蒼「この町を暑さから守る神様と、それを巡る争いの話は明乃と一緒に調べました」


冷「それなら、私や望ちゃんの存在の意味…もちろん分かるわよね?」


蒼「………」


蒼「神様、なんですね。冷泉さんも、望も」


冷「えぇ」


冷「私は冷泉・フリージィ。この冷泉町の元の神様で、今も神様のまま生きることになった女性よ」


冷「そしてあなたの彼女になった冷泉・望=フリージィ」


冷「彼女は、この冷泉町の今の神様。この町を、また50年前のような涼しさが巡る町に戻すかもしれない存在よ」


蒼「…そう、ですか」


冷「と言っても、蒼人くんは薄々気づいてたんじゃないの?」


蒼「おとぎ話的にはそう思ってましたけど、それを真実だとは思っていませんでしたよ」


冷「あら、妙な所現実主義的なのね。冷泉町の人だからもうちょっとファンタジーに生きてると思ってたわ」


蒼「神様、町の人の事をなんだと思ってるんですか」


冷「それに、あなたは祭ヶ原家だし」


蒼「そっ………」


冷「ふふっ、ちょっと悪戯が過ぎちゃったかしら?」


冷「まぁ、明乃ちゃんにあれだけ言わせて、明乃ちゃんにとっては一番の障害になっちゃったことを責めるのはわかるけど」


冷「だけど、私から言わせて」


冷「あなたはそれをきちんと理解する必要がある。あなたのお家の事も何もかも」


蒼「…祭ヶ原たくまの事をですか」


冷「そう。あなたが今この瞬間にここに立っている理由として、きちんと知らなきゃいけないことよ」


冷「さて、立ち話も疲れてくるわけだし、せっかくだから飲み物も交えてお話ししましょう?自動販売機ももう懐かしいでしょ」


蒼「冷泉さんは、俺たちの事をいつから見ていたんですか?」


冷「さぁね?」


………


冷「アイスココアの甘さとほろ苦さ、私は好きよ?」


蒼「ほんとにどこから見てたんですか」


冷「まぁまぁ細かいことは気にしないの」


冷「さて、色々散らかしたまま教えちゃったから少し整頓しないとね」


蒼「はい」


冷「まずは冷泉町の神様の話」


冷「さっきも言った通り、この冷泉町には神様がついてる。だけどその神様も二通りあってね」


蒼「二通り?」


冷「そう。一つは原神げんしん、これはこの町にどこからともなく生まれる親のない神様。冷泉町という場所に生まれ落ちて、あるいは何も知らされることなく生きる神様」


冷「私は、その原神の一人で、今でも神様のまま生きている一人よ。と言っても、生まれたのももう両手では数えられないほど昔の話だから何も覚えてないけれどね」


蒼「それってひゃ」


冷「言わないでいいの」


冷「こほん…それでもう一つは神子みこ。これは神様の子どもという意味よ。と言っても、冷泉町の神様は女の子しか生まれないから、普通なら旦那さんが必要になるけれど」


蒼「けど?」


冷「神子に限ってはつがいは必要ないわ。原神であれ神子であれ、神様として生きていると、そのうち自然と自分の子を体に宿すの。相手なしでね。それが神様から生まれた子ども、神子っていうわけ」


蒼「その二つには、何か他の違いはあるんですか?」


冷「生まれで違いが出ることはないわね。いずれにしても神様は神様、原神だろうと神子だろうと、この町の守り神として生きられれば持つものは一緒。あとは人間らしくそれぞれの個性があるかどうかだと思うわね」


冷「それで、あなたの彼女さんでもある冷泉・望=フリージィは、私の娘のさらに娘、つまり、神子の神子に当たるのよ」


蒼「つまり、冷泉さんの言っていた望の祖母に当たるっていうのは」


冷「そう。私は原神として生まれて、冷泉・望=フリージィという最初の娘を神子として生んだ。そして娘の望はあなたの彼女でもあるもう一人の冷泉・望=フリージィを生んだ」


冷「そうして、神様は受け継がれていったのよ」


蒼「けれど待ってください」


冷「なぁに?」


蒼「もしそれが本当なら、その…冷泉さんの娘である望さんが生まれて、今の望が生まれて、神様が途絶えることなくこの町に居続けたことになります。なのにどうしてこの町の気候は昔のような涼しさを持っていないんですか?」


冷「そうね………ここまでの経緯を知っている蒼人くんならそういう疑問を持ってもしかたないわよね」


蒼「町から神様が失われたときに、冷泉町の気候も失われる。それは冷泉町史にも歴史的な資料として書かれています」


冷「そう、その解釈は正解だし、現に今でもその脈絡は続いているわね」



冷「じゃぁ、もっと深い話を聞いてみる?」



蒼「深い話?」



冷「ここまでは私たち神様のお話し、神様だけがかかわるお話しだったけど」


冷「ここからは、今に至るまで、この町の50年間に何があったのかというお話しよ」


蒼「50年」


冷「蒼人くんの言う通り、神様が活きているうちは冷泉町の気候は他とは違う初秋のような涼しさを保った気候をしている。だけど、神様の力が失われた時にはそれがなくなる」


冷「今の冷泉町が他と同じ機構をしているに至ったのは、その50年前が始まりなのよ」


蒼「それは…忍さんたちの頃の」


冷「そう、そしてあなたのおじいさんの頃よ」


蒼「………祭ヶ原たくま」


冷「明乃ちゃんから聞いたのよね、たくまくんが冷泉の夏会の踊り手を務めたこと」


蒼「…はい」


冷「その時に全部に気が付いたんじゃないの?」


蒼「………」


蒼「………え」


冷「あらら?もしかして蒼人くん、話を全部結んでなかった感じなのかしら?」


冷「まぁ、それならそれであなたには実直にお話が出来るからいいのかもしれないけどね」


蒼「実直に、ですか」


冷「そう」


冷「50年程前、その頃の私は、すでに"娘の望"に神様の役割を引き継いでいた。と言っても、私自身は人間としての生き方に関して何も知らない純朴な神様だったから」


冷「私は生まれて最初に私を神様として生かしてくれた場所…更月家にその身を置くことにしたの」


蒼「明乃の家。いや、冷泉さん的には忍さんの家という事になるんですか」


冷「そうね。まだ忍もそんな家を守る年じゃなかったけど、忍は神様の私を見守るという役目を家からもらったのよ」


冷「それで、私が身を置いて何年もしたころ、私と忍の耳に、男性の踊り手が生まれたという話が舞い込んできたの」


蒼「それが」




冷「そう、当時の祭ヶ原家の一人息子だった



蒼「俺の、じいさん」


冷「当時の忍にとってはたくまくんは一つ下ぐらいの後輩で、この町の近所づきあいの良さや、祭ヶ原家と更月家という縁故もあって、赤の他人と言って切れる縁でもなかった関係なのよね」


冷「だから忍はたくまくんにずっと警告を出していたのよ」


蒼「警告ですか」


冷「当時の更月家は、踊れる人を選出する七つの家の一つだったんだけど、私という、役割を終えた神様を管理するという仕事を選んで、踊りのための神社と典礼道具を管理する…つまり、この冷泉町の神様や歴史を管理することをメインにしていたのよ」


冷「そして、家系がそういう立場をとる以上、忍もたくまくんには厳しく当たらざるを得なかった」


冷「大人たちの会議で選出されて、私の娘の望を踊り手の権限で視る事が出来るようになった以上、踊りを踊ることは仕方がない。だけど、決して神様と恋に落ちてはいけない。それはこの町の歴史も数えきれないほど注意をしてきた事だったのよ」


蒼「さすがの忍さんですね。明乃や他の人から聞いた正義感の強い…」


冷「ううん。どちらかというとあの子は強いというより弱いのよ」


蒼「弱い?」


冷「あの子はずっと責任感と虚勢を背負ったまま動き回っていたのよ。自分の警告や行動に、この町の歴史がかかっているという重荷と、落ち着いて見えるのに、学生の頃の忍は、周りが思っているよりずっと初心な子だったから」


冷「だから、忍はたくまくんの気持ちを傷つけてまで神様との恋を止めようとしたのよね」


蒼「気持ちを傷つけて…」


冷「う~ん…あまり生々しい話は忍も好まないと思うからここまでにしておくけど、ともかく忍はそうして祭ヶ原たくまと神様…冷泉・望=フリージィが恋に落ちないように頑張っていたの」


冷「たくまくんの何倍も自分の心を痛めつけながら、ね」


蒼「それは…」


冷「だけど…結果は、見えてるわよね?」


冷「そこで何とかなっていたのなら、今冷泉町はこんな風にはなっていないわけだし」


蒼「…俺のじいさんは、忍さんも裏切ったんですね」


蒼「母さんには何も言わず、自分に警告をくれた人にも仇を返して」


蒼「そして町にすら…」


冷「………」


冷「きっと、たくまくんはね」


冷「蒼人くんにも、咲希ちゃんにも、恨んでもらってよかったって思ってるんだ」


蒼「あたりまえでしょう!」


蒼「俺のじいさんは、自分が関わるべき人を何人も裏切ってるんですよ!!」


蒼「自分が守らなきゃいけない人を…何人も裏切って………」


蒼「………俺ですら、明乃にどう顔を合わせたらいいのか」


蒼「芙由に…何て言ったらいいのか…」


冷「はぁ………」


冷「本当に、たくまくんは優しすぎるのよね」


蒼「どこが」


冷「蒼人くん」


冷「たくまくんの代わりに私から一つ言わせて」


冷「たくまくんがいなければこうはならなかったけど」


冷「たくまくんがあの時いたから、今が生まれているのよ」


蒼「何を…だからじいさんがいなければ」


冷「違う」


冷「違うのよ…」


冷「今のあなたには、せめて知っておいてほしいの」


冷「たくまくんは、結局何も裏切らなかったの」


冷「たくまくんは、死ぬ間際まで自分をとして背負い続けていた」


冷「忍とおなじ………あの子もね、不要な責任感を背負い続けた。忍は時間をかけてそれを諦めと一緒に降ろしていったけど」


冷「たくまくんは、今でもずっと積み荷を増やし続けている。自分の孫にすら恨まれるという形でね」


蒼「っ………」


冷「…あらあら、随分と暗くなっちゃったわね。ごめんなさいね、年甲斐もなく感傷的になっちゃって」


蒼「…こちらこそ、色々知った風に吐き出してしまいました」


冷「ううん。それがたくまくんの願いだからそれはいいと思うわよ」


冷「多分、もうすぐ全部が話せると思う。だから蒼人くん」


冷「怒ってくれてもかまわない。恨んでも、憐れんでも、切り捨ててもたくまくんはきっと納得すると思う」


冷「その代わり…たった一度だけでいいから、あなたは真実を知ってあげて」


冷「知るだけでいい…一度聞き入れるだけでいいから」


冷「あなたはこのお話しを知ってちょうだい」


蒼「冷泉さん…」


冷「たくまくんの代わり…というか、これには私のエゴも入ってると思う」


冷「でも、そうでもして知ってほしい」


冷「祭ヶ原蒼人くん」


冷「今度は包み隠さずすべて話すから」


冷「絶対に待っててくれる?」


Date-8/16

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