Chapter.4

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望「おはよう、蒼人くん」


蒼「ん、おう、おはよう」


望「なんかボーッとしてるね」


蒼「あぁ…どうも休みが続くとボケて敵わん」


望「お休みだと疲れるの?」


蒼「ずっと働いてて、いきなり長く休むとな。身体が余分に力を抜くんだよ」


望「大丈夫?私に出来ることある?」


蒼「心配するな。少し延びをすればなんとかなるさ」


望「そう…」


蒼「なぜ残念そうにする?」


望「何か、手伝いたいなって」


蒼「じゃあ前屈でもするから背中を押してくれ」


望「あ…うん!」


蒼「そういえばっ…今日は…明乃とっ、図書館にっ、行く予定だったな、」


望「そっか、もう夏祭りから3日も経つんだね」


蒼「っふう…早いもんだ。夏休みも今日を含めて残り2日…それが終わればまた仕事か」


望「咲希さんは8月はずっといるって言ってたよね」


蒼「らしいな。お前は幸いにも一人で留守番してないで済むわけだ」


望「まあね、家には咲希さんが居るからね」


蒼「家には」


望「う、うん」


蒼「………」


望「な、なにかなぁ?」


蒼「…仕事の合間に来るつもりだろ?」


望「えっ!?ま、まさかぁ…」


蒼「泳いでる視線をこっちに合わせろ」


望「うぅ………」


蒼「まあ、来るなと厳命するつもりはないが」


望「ほんと?」


蒼「うちの会社に馴染みまくってるからな。今さら止めるだけ野暮だと思ってるよ」


望「じゃあ遠慮なく」


蒼「そこは少しは遠慮しろ」


望「遠慮しないもーん!」


………


咲「おはようお二人さん」


望「おはようございます」


蒼「今日は明乃と三人で出掛ける予定があるんだ」


咲「デート?」


蒼「何にでもデートで返すのは如何なものかと」


咲「望ちゃんもいるのにデートじゃないの?」


蒼「半分は違う」


蒼「いや、望の事で色々と興味深い事があったから、明乃の調べ物の手伝いをと思ってな」


咲「調べ物って…何を調べるの?」


蒼「明乃曰く、冷泉町の歴史だそうだ」


咲「………」


蒼「母さん?」


咲「あっ、ごめんちょっとボーッとしてたわ」


咲「明乃ちゃん的には、学校の課題か何かかしら?」


蒼「そう言ってたな」


咲「珍しいこと、あんたが人の学業の手伝いだなんて」


蒼「我ながらおかしな話とは思ってるよ」


望「蒼人くんは勉強は苦手?」


蒼「やりたがらない派ではあったな」


蒼「大学はともかく、中学高校とあまり勉強はしてこなかったよ」


咲「いつも赤点ギリギリで生きてたものね」


蒼「お恥ずかしながら」


望「私は勉強がどんなものなのかはわからないけど、大変そうだね」


蒼「何なら今度少しやってみるか?」


望「でも、難しそう…」


蒼「大丈夫、簡単なものもあるから」


望「蒼人くんが言うと説得力が…」


咲「そうよねぇ、今の話聞いちゃうとねぇ…」


蒼「自覚はしてるから、そんなまち針で刺すような言葉はやめて」


………


蒼「じゃあ行ってきます」


咲「ごゆっくりー」


望「久しぶりの明宮だね」


蒼「そう言えば最近行ってなかったっけ」


望「お祭りが終わってからは、蒼人くんが色んな所に電話を掛けてたり、あまり外に出なかったりで私も何もしてなかったから」


蒼「そうだな、退屈させてたよな」


望「大丈夫だよ。だって私は蒼人くんの側に居られて嬉しかったから」


蒼「歯が浮く台詞は禁止で」


望「えー…」



「あのー、すみません」



蒼「はい?」


望「ん?」


「この辺のお家を探してるんですけど…」


蒼「え、あぁどのお宅ですか?」


「その、珍しい名字ですぐ見つかるかと思ったら中々見つからなくて…祭ヶ原というお宅なんですけど」


望「あれ?蒼人くん?」


蒼「それ、間違いなく家ですね」


「あらー!そうなんですか?それは、ちょうど良かった」


蒼「と言っても、俺達も今から出掛けるので…」


「あらら、それは残念ですね」


蒼「一応ここからの地図書いておきましょうか?今家には自分の母がいるので」


「あら、そうしていただけると助かります~」


蒼「えっと、ここが今の場所で………」


………


「本当にありがとうございました」


蒼「いえいえ、どういうご用件かは存じませんが」


「その内、ちょっとしたお礼をしますね」


蒼「お構いなく」


「それじゃあ地図を頼りに私は向かいます。ありがとうございました、




蒼「…なんか、ふんわりした人だったな」


望「うん。麦わら帽子に黒髪で…何て言うかきれいな人だった」


蒼「惜しむらくは帽子を深くかぶってて顔はあまり見えなかったってところか」


望「そんなに見たかっ………あれ」


蒼「どうした?」


望「今の女の人、蒼人くんと私の名前を呼んだよね?」


蒼「あぁ、呼んだな………おかしいな」


望「私、名前なんて一回も言ってないよ?」


蒼「あ、あぁ………」


蒼「今の人、俺も望の事も知ってる………?」


望「何だったんだろう………?」


………


望「こんにちはー」


明(こんにちは。今日はよろしくお願いします)


蒼「浴衣から一変、女の子らしい格好になったのな」


明(あまりそう言うことを言わないでください。恥ずかしいです)


望「赤のスカート、かわいいよ!」


明(ありがとうございます)


蒼「なぜ、俺の時の反応は一様に辛辣なのかと」


望「蒼人くんは褒めるのが下手なんだよ」


明(望さんみたいに単純に言ってくれればいいんです)


蒼「そう言うもんか」


明(でも一番の理由は好きな人だから褒められると恥ずかしい。ですけどね)


蒼「おい」


蒼「それ、俺の努力ではどうにもならない原因じゃないか」


明(一度嫌われてみれば…)


蒼「リスクが大きすぎるなぁ…」


望「でも、蒼人くんの言葉が嬉しいのは間違いないよ。ねっ、明乃ちゃん」


明(はい…まぁ…)


蒼「照れられても困る。ともかくよかった、じゃあそろそろ行くか」


………


蒼「明宮には何度かいってるけど、図書館は知らんなぁ」


明(ショッピングモールのある側とは反対ですから。山側出口から歩いてすぐのところにあります)


望「山側?」


蒼「明宮は海が遠いからな。ピンと来ないのも無理はない」


蒼「で、明乃が手に下げてるのはレポートの道具一式か」


明(はい。出来れば今日で半分は終わらせようかと)


蒼「半分?全部じゃないのか?」


明(自分の見解も書かなきゃいけませんし、家の方でも少し資料が見つかるかもしれませんから)


蒼(…浅晴さん、まだあの事を話してないのか)


明(今日中に冷泉町史を全て読み明かしたいので)


蒼「なんか大仰に聞こえるんだが…どのくらいあるんだ?」


明(辞書みたいなものがあと2冊と3分の1残ってます)


蒼「マジですか」


明(マジです)


望「辞書って、とても分厚い本だよね?」


蒼「あぁ、今日は長くなりそうだぞ?」


望「そうなの?」


明(でも、冷泉町の事を調べれば、もしかしたら望さんの事もわかるかもしれません)


望「そう、なのかな?」


蒼「まあ、行くと言った以上覚悟は決めてるさ。とことん付き合ってやるよ」


明(それが、あの公園での台詞だったなら…)


蒼「あ、」


望「明乃ちゃん……」


明(冗談です。友達の彼氏を誘惑するほどの勇気は私にはありません。それに、今の距離が私にとってもちょうどいいので)


蒼「はあ………?」


明(安全に蒼人さんを弄れるので)


蒼「こらー」



………



明(と、言うわけで明宮に着きました)


蒼「着いたはいいが、今までとは雰囲気が違うな」


望「人はいっぱいいるけど、何だか落ち着いてるね」


明(こっち側は明宮の人の住む側です。ショッピングモールのある場所は交通の大動脈ですから)


望「この雰囲気も、何だかいいね」


蒼「人に酔いそうになったらこっち側を見に来るのも手か」


明(この大通りをまっすぐ進めばすぐに図書館に着きます)


蒼「通っていながらこっち側を知らない人間だよ」


望「反対側だもんね」


明(それを言ったら私もこっち側に来たのは最初に図書館に行ったのが初めてです。やっぱりショッピングモールの印象が強いので)


蒼「だよなぁ」


望「こっち側は、道が何だか素敵だね」


蒼「レンガ造りの車道か」


明(風情がありますね)


明(はい、着きました)


蒼「本当にすぐなんだな」


望「明宮町市立図書館?」


明(市立図書館自体はいくつかあるみたいです)


蒼「道場みたいだな。書道文字の看板なんて」


明(趣があります)


望「おもむき?」


蒼「珍しい木の名前だよ」


望「嘘だ、口が笑ってる」


………


明(初めての方は受付の人から利用カードを借りてください)


蒼「なるほど、これでゲートを開けられるのか」


明(それは中で読む専用です。貸し出しには私が持ってるような図書館カードが必要になります)


望「明乃ちゃんは借りたことは?」


明(う…)


明(それが…まだカードを作っただけで本を借りることはしてません。それに、冷泉町史は重要な図書なので貸し出しが禁止になっていますし)


蒼「でも、とりあえずカードは持っていると」


明(いずれ借りる時のためです)


蒼「じゃあ町史の棚に行こうか」


ピッ


明(…こちらがこの市に属する町の町史一覧になります)


望「おぅ………」


蒼「冷泉町だけ百科事典並みなんだな…」


明(最初見たときは私も目を疑いました。なぜそんなことになってるのかと)


スッ…


明(とりあえず今日は一巻の後半からです)


蒼「冷泉町ってすごい町なんだな。いや、正確には冷泉地区という場所か」


望「元々は、今よりすごく広い場所が冷泉って言う名前だったんだね」


明(はい。しかし、特徴的な気候があって、そのせいでいさかいが絶えなかった場所でもあります)


蒼「神様故、か」


望「冷泉は何回も涼しい夏と普通の夏を繰り返してるんだね」


明(みたいですね。ここ最近だと数十年前がそうだったみたいです)


望「もしかして、近いうちに冷泉町が涼しい町に戻るのかな?」


蒼「可能性はあるな」


望「見てみたいなぁ、涼しい冷泉町」


………


明(…一巻を一通り読んでみましたが、これは主に最近までの歴史の話みたいですね)


蒼「そうだな、冷泉って名前が長いこと続いてる事がわかった位だ」


明(じゃあ二巻を取ってきます)


望「うん」



望「…本当に、冷泉って重要な名前なんだね」


蒼「望?」


望「私もそんな名前を持ってるけど、それらしいことが出来ないなぁってさ」


蒼「気にしなくていいだろう。これは町の名前であって、お前の冷泉は人としての名前だ。偶然かもしれないんだから」


望「でも、偶然じゃなかったら………?」


蒼「それは、どういう………?」


望「私の、この名前に意味があるとしたら、私は何をすればいいと思う………?」


蒼「…そんな不安そうな顔をするなよ。まだ分からないんだ。それに、もし意味があるのなら、お前はその体質で町の人たちを冷やしてあげればいい。お年寄りなんかは喜ぶだろうさ」


望「う~ん…なんか手軽過ぎていまいちピンと来ないよ」


蒼「それでも、そういう仕事が大事なんだよ。俺らと同じ、小さくても仕事は仕事だからな」


望「………うん、わかった。ありがと、蒼人くん」


蒼「どういたしまして」


明(お待たせしました)


蒼「重そうだな」


明(重いです)


望「一緒に持つよー」


明(ありがとうございます)


蒼「机の上を空けようか?」


明(大丈夫です、一巻に重ねますから)


明(さて、今度はどんな歴史が見られるやら)


望「一巻よりも厚いみたい」


明(………どうやら、これは文化史のようですね。様々な資料から冷泉町の文化を読み解くための巻みたいです)


蒼「文化ってことは冷泉の祭り…夏会についてもわかるんじゃないか?」


明(楽しみです)


蒼「これほど町の歴史に対して興味をもって接する高校生も珍しいかもしれん」


明(一つの趣味ですよ)


望「あ、ねぇこの文字!」


明(………家の着物の文字と少し似ていますね)


蒼「えっと、古い書物であるが解読はされていない…」


蒼「出土から十数年が経っているが、この文書の解読は終わっておらず、専門家を悩ませている」


明(冷泉町は謎が多いようです)


望「でもこれ、私は読めるよ?」


蒼「は?」


明(えっ)


望「ただ…これただの手紙だよ。多分…ラブレターのような」


蒼「それで、どんな内容なんだ?」


望「人の恥ずかしい手紙を読めだなんて、蒼人くん…」


明(変態ですか)


蒼「お前らなぁ」


望「んー…どうやら、書いてるのが女の人で、送る先は男の人みたい」


望「中の暮らしは、不自由はないけど自由もない、夏が過ぎれば私は眠り、また次の夏まで目を覚まさない。あなたが次の夏に居るかもわからないのに、私は夏を待たなければならない…こんな感じだね」


蒼「ふむ」


明(何だか寂しい手紙ですね)


蒼「初めのページから、結構重要そうな内容になったな」


明(やっぱり望さんは凄いです)


望「そ、そうかな、えへへ」


明(では、進めていきましょう)


………


明(………ふう。なんとか全部読み終わりました)


蒼「左に本、右にペンとは」


明(あまり時間もありませんから)


司「お客様方、当館は17時をもって閉館になりますので…」


蒼「あぁ、はい」


明(こう言うことです)


望「もう5時なの?」


明(それじゃあ私は本を片付けてきます)


望「あっ、手伝うよー」


蒼「じゃあ俺も手伝おう」


明(それなら…私は自分の道具を片付けますね)


蒼「じゃあ望は一冊、俺も一冊だ」


望「うん」


………


司「ご利用ありがとうございました」


明(お二人はカードは作らなかったんですね)


蒼「作ってもいいけど、あまり使うことは無さそうだからなぁ」


望「私は一人でここまで来ることがないから…あはは」


明(残念です)


蒼「でも、望だけが読める手紙は結構あったな」


明(そうですね。初めのページだけで載せられているかと思いきや、手紙だけで数十ページ…)


蒼「しかも驚くことに望はすべて読めると」


望「うん、でもやっぱり内容はラブレターばっかり」


蒼「それに、お互いの名前も一切出てこない」


明(なぜそんなものが…?)


蒼「まあ学者が分からなかったんだから無理もないだろう。望に読めたからこうして笑い話になってるわけで」


望「思いの強い手紙を笑い話って言わないの」


蒼「それはすまん」


明(でも、これと言って進展はありませんでしたね)


蒼「主には手紙と、気象記録と地区の区割りの変遷ぐらいだったからな」


蒼「俺達が住んでる西泉にしいずみの事も出てきたけど、冷泉町の東西南北ってだけで目新しい情報はないし」


望「あの場所が西泉にしいずみだって私は初めて知ったんだけどね」


明(これは、三巻に期待ですね)


蒼「俺は仕事に戻るけども、休みの日は何度かあるから、また一緒に調べられると思う」


明(また予定を立てて行きましょう)


望「私もね」


明(ぜひ)


蒼「俺より望の方が大事だろうな」


明(もちろんです)



………



明(それじゃあ私はこれで)


蒼「またいずれな」


望「ばいばーい」


蒼「………さて、ずいぶん遅くなったな」


望「少しのつもりで明宮で休憩してたら遅くなっちゃったね」


蒼「もう7時だ。母さんもふてくされてる頃だろうな」


望「あはは…」


ガチャ


蒼「ただいまー」


望「帰りましたー」


咲「あら、早かったわね。デートだからそのまま朝までとか思ってたのに」


蒼「高校生連れててそれは犯罪だから」


「あら、お子さん帰ってきたの?」


蒼「ん?お客さんが来てるのか?」


咲「えぇ」


「…こんばんはー」


蒼「………ん?」


望「この人…今朝会った人だ」


「そうね、今朝ぶりよねー」


咲「祭ヶ原はこちらのお宅ですか?ってつい夕方に訪ねてきてね」


蒼「夕方って………今朝、道を地図に書いて教えましたよね?」


「それはその~…」


「あれからね、道がわかるならいつでもいいかなって、ちょっと町を散策してたら………その、道に迷っちゃってね…」


蒼「はぁ?」


「それで、あちらこちらと歩いてるうちに日が沈んじゃってね…それでついさっき見つけたのよ」


望「わ、うっかりさんだ」


蒼「他の人に聞けば良かったでしょうに。祭ヶ原は家しかないから聞けばすぐにわかるでしょう?」


「そうなんだけどね…おろおろしてるうちになんか……ね」


「とにかく…改めまして、こんばんは」


蒼「こんばんは…」


望「こ、こんばんは…」


「望ちゃんは…元気そうね。何よりだわ」


望「あ、そうだ!私を………私を知ってるんですか?」


「まあね」


蒼「そう言えば、お名前を伺っていませんでしたが……」


「あぁ、私ね…そう言えば言わなかったよね」


ファサッ………


蒼「なっ!?」 望「えっ!?」


蒼「み………水色の髪!?」


望「私と………同じ色の………?」


冷「改めまして、私は"冷泉れいせん・フリージィ"と言います。どうぞよろしく」


蒼「冷泉………フリージィ…」


望「あなたは………あなたは………誰なんですか?」


冷「まあ驚くのも無理はないわよね」


冷「とりあえず立ち話も疲れるから座って一緒に話しましょう。咲希さん、それでいいですよね?」


咲「あ、えぇ…もちろんよ」


………


冷「………さて、私が此処に来た以上は、色々と話さないといけないわよね………でも、それよりも何よりも」


望「ふぇ?」


ギュッ


冷「やっぱり望ちゃんはひんやりしてて気持ちがいいわね~」


望「ふゃあ!あ、ぁぅ…えっと………」


冷「もそこそこだったけど、あなたは特に体質に傾倒してるのよね~」


蒼「あ、あの………娘って…」


冷「あぁ、ごめんなさい、色々と過程を飛ばしてお話をしてましたね」


望「………」


冷「私は冷泉・フリージィ…今、此処にいる冷泉・望=フリージィとは…う~んと、祖母と言うことになるのかしら?」


蒼「祖母って………」


望「お、おば」


冷「ん?」


望「あ、なんでも…ない………です」


冷「私、おばあちゃんに見えるかしら?」


蒼「いえ、むしろ望の姉位にしか見えません」


望「私、妹なの?」


冷「ありがとうね。蒼人くん」


冷「それで、私が此処に来たのはね、自分の責任を果たすためなのよ」


蒼「責任、ですか?」


冷「そう。この望ちゃんの事で、私は責任を負ってるから」


蒼「とりあえず、まず一つの聞きたいんですけど、帽子被ってる間は黒髪でしたよね」


冷「そこなの?」


望「そこなの?」


蒼「一応な」


冷「水色の髪って目立つでしょ?だから麦わら帽子にウィッグを合わせてるのよ」


望「へえ」


蒼「へぇ」


蒼「しかし、ようやく望の事を知ってる人が現れたんだな」


望「う、うん………」


冷「望ちゃんには寂しい思いをさせちゃったわね、出来ればもっと早く会いたかったけど、私にも事情があったから」


望「いいえ、冷泉さんに会えたことは少しだけ安心です」


望「………でも」


冷「でも?」


望「………こんなことは言いたくないけど、今、すごく不安になってます」


蒼「望………」


望「自分の事を知ってる人が居ることは安心なのに、何だかドキドキして…いてもたってもいられなくて…」


冷「…まぁ、そうよねぇ」


冷「その気持ち、私にもわかるわよ」


望「冷泉さん…」


冷「私は、自分の事をよく知らないで生きてきて、時には全く知らないまま一生を終えることもあるからね」


冷「しかも、それを止める人がいないからもっと質が悪いし」


蒼「それって、どういう………?」


冷「………まあ、今は望ちゃんも不安になってるし、色々と話すのは望ちゃんが決心がついたときにしましょう」


望「冷泉さん………」


冷「私はこの西泉町に居るから、いつでも声をかけてきてね。あぁ、その時は必ず蒼人さんも一緒だとありがたいわね」


蒼「俺ですか」


冷「これは、あなたにも大いに関係のあることだからね。ねぇ、祭ヶ原 咲希さん?」


咲「へっ、あぁ…えっと………」


冷「今日のところは帰りますけど、お話とは別に時々望ちゃんに会いに来てもいいかしら?」


望「あ、それは…もちろん」


冷「それは良かったわ。せっかく出会えた孫娘ですもの、いっぱい可愛がってあげたいものだわ」


望「あはは…」


蒼「まあ、可愛いですからね」


望「あ…蒼人くん!」


冷「ふふっ、付き合いたては初々しいわね」


望「冷泉さんもー…」


冷「お邪魔しました」


望「さよならー」


蒼「またいずれ」


冷「二人とも仲良くね」


望「もう………」


パタン………


蒼「何だか意味深な人だったな」


望「うん、悪い人じゃないと思うけど………」


蒼「気になるか?」


望「うん、ちょっと不安で…」


咲「しかし、若いおばあ様よね」


蒼「ああ、望よりは幾ばくか大人びてるようにも見えたが」


望「殆ど私と一緒だったね」


咲「おばあ様だから、それなりにお年を召しているんでしょうけど、おいくつなのかしら?」


蒼「女性にとって年齢の話は禁句なんじゃないのか?」


咲「そうだけど、二人も気になるでしょ?」


蒼「まあ」


望「うん」


咲「そりゃあ見た目が相応なら聞かないけど、あれはやっぱり気になるわ」


蒼「まあ」


望「そうだね」


蒼「とりあえず、今は望を知ってる人間がいることを安心の種としよう」


蒼「そこで考えとどめてた方がお前も楽だろう?」


望「………そうだね、知るのはまだ先でいいかも」


蒼「今はその安心を抱えて寝ることだ」


望「うん。蒼人くんと一緒にね」


咲「あらあら」


蒼「はぁ、仕方ないな。じゃあ先に汗を流してこい」


望「はーい」


Date-8/13

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