page.18 バックログ-B

望「屋台のクレープ、美味しいねー」


明(さすが蒼人さんです。何も言わずに二人分買ってくださるとは)


蒼「目で催促していたくせによく言うよ」


明(なんのことやら)


望「心配しなくても、はい」


蒼「相変わらず急だな」パクッ


望「でも食べるんだね」


蒼「自分で買ったんだから、遠慮はしない」


明(二人で食べること、気にしないんですね)


蒼「………まあ、気にならん訳じゃないさ、特に、今はな」


明(蒼人さん………?)


望「うーん、私も少しは気になってたけど、蒼人くんなら…いいかなって」


明(望さん………)



………



蒼「さて、一通り回って海辺近くまでやって来た訳なんだが」


望「ん?どしたの?」モグモグ


明(何か問題でも?)モグモグ


蒼「何でそんなに食べてられるんだお前たちは」


明(何って…)


望「別腹?」


蒼「たこ焼き片手に言う台詞じゃないな」


明(お祭りで食べるのがいいんですよ)


望「うん、なんだかこの雰囲気で食べるとクレープだってなんだって違う味に感じるよ」


蒼「食い気に煽られて太っても俺は責任は持たんぞ」


明(出来れば、ピンポイントでそうなって欲しいところでもありますが)


蒼「ん?」


蒼「そして、そうこうしてる間に6時か」


明(花火は8時からでしたっけ)


望「花火かぁ…少しだけ見たことはあるけど、近くで見るのは初めてかな」


蒼「この辺を離れなければかなり近くから見ることができるな」


明(迫力ありそうです)


望「………あっ!」


タタッ!


蒼「お、おいっ!」


望「咲希さん達が見えた気がするから私行ってくるー!」


蒼「…声をかけるまもなく」


明(行ってしまいましたね)


蒼「ほんと、そそっかしいんだよ」


明(そう…ですね)


蒼「………」


明(………)


蒼「…どうした?」


明(…蒼人さん、まだ少し時間もあるので、あちらの外れの公園で休みませんか?)


蒼「え、あぁ…構わないが」


明(…少し、手を繋いでもいいですか?)


蒼「お前から言ってくるとは」


明(…はい)


………


蒼「道の外れの公園か」


明(涼しい場所ですね。祭りの空気とは全く違います)


蒼「あぁ、騒がしさが嘘のようだ」


明(そう言えば、花火って音と光が別々に来るんですよね。近くで見ると、どうなるんでしょうか)


蒼「おい、明乃」


明(また来年もお祭りに参加できたらいいですね。その折には私から蒼人さんにちょっとだけお返しを)


蒼「明乃、」


明(…はい)


蒼「さっきからやたらとしゃべってるが、どうかしたのか?」


明(………すみません、こうでもしないと踏ん切りが付かなくて)


蒼「踏ん切り?」


明(………蒼人さん。私、伝えたいことがあります)





明(………家の神社の事で、ちゃんと話を聞いてくれた初めての人…真剣に話を聞いてくれて、時には助言をくれた人…そして、私のことを知ってなお、私の事を見てくれて、私の側に居てくれた人………)


明(蒼人さん。私、蒼人さんの事…好きです)


明(最初に出会ってから、私の話を聞いては色々な反応を返してくれて、学校では経験できなかったそんな会話がとても新鮮でした)


明(そして、神社のことにかまけていた私を外に案内してくれたのも蒼人さんでした)


明(そんな、蒼人さんをもっと知りたくて…蒼人さんともっと一緒に居たくて、私は蒼人さんに伝えます)


明(歳の差とかお互いの現状とか、考えるべき事があるのはわかっています。だけど、それを理由に気持ちを伝えないのはもっと嫌だったので…私は蒼人さんにこうして伝えます)


蒼「………」


明(私もまだ高校生です。今すぐとは言いませんが、それでも伝えるだけなら)


明(私が自分で付き合えるようになったならその時は付き合いたい…そんな思いも込めて、私は蒼人さんが好きです)



蒼「………はぁ」


明(蒼人さん?)


蒼「いや、10ほども歳の離れてる女の子にそういうことを言わせた自分に、自己嫌悪したんだ」


蒼「うっすらと気付いてた事が、こんな形で的中するとは思わなかったよ」


明(き、気付いてたんですか?)


蒼「ほんの少しだけな」


明(そうですか、隠してたつもりでしたが)


蒼「巧妙に隠れてたよ、本当に今聞くまで分からなかったくらいに」






蒼「……だけどな」


蒼「………悪い。明乃の気持ちには、答えられない」


明(………)


蒼「別に歳の差は問題じゃない。お前の言った通り何年か経てばあまり問題じゃなくなる」


蒼「回りを取り巻く環境も、決して悪くはないだろう。お互いの両親もあまりとやかくは言わない…と思う」


明(………望さん、ですか)


蒼「………」


明(やっぱり、そうでしたか)


蒼「本当に悪い」


明(いえ、望さんでしたら安心ですから)


蒼「安心?」


明(私は蒼人さんと同じくらい望さんの事を知っています。そして望さんは私よりも蒼人さんのことを知っています。望さんの思いも、私はどことなく知っていました…)


明(これは、私にとって賭けでした。望さんがいるのに、自分の思いを伝えるんですから)


明(望さんが、蒼人さんを好きなこと…わかってたのに…)


蒼「明乃………」


明(蒼人さん。正直にお話ししてくれてありがとうございます。お陰で少しスッキリしました)


明(あの…蒼人さん)


蒼「なんだ」


明(…せめて一度だけ優しく抱き締めてはくれませんか?)


蒼「…いいのか?」


明(最初で最後です。それが終わったら、私は蒼人さんと望さんを応援しますから)


明(………蒼人さんの、心臓の音が私の耳を打ってます)


蒼「ちょうどの高さなんだな」


明(…蒼人さんの鼓動と体温が私に伝わります)


蒼「夏場に伝わりたくないものじゃないだろうか」


明(好きな人の鼓動と体温なら、私は感じていたいです………)


明(………明日からは、私も普通の高校生の女の子です)


明(蒼人さんが彼氏だったなら、私はちょっと変わった高校生だったのに)


蒼「………そうだな」


明(蒼人さんのせいで、普通の女の子ですよ)


蒼「………悪いな」


明(………本当に、悪い………人…です……)



………



望「あっ、いたー」


蒼「おう、ようやく戻ってきたか」


咲「それはこっちの台詞よ。海の近くにいるって望ちゃんから聞いて待ってたんだから」


蒼「悪い悪い。人混みを避けて休憩してたんだよ」


明(私が人気に酔いそうだったので)


浅「花火まであと一時間か。結構あるね」


夜「何か空の花見の肴でも探してきましょうか」


咲「いいですね。私も手伝いますよ」


明(あ、私お手伝いします。お父さん、二人をよろしく)


浅「ん。あぁ、行ってらっしゃ…い?」


蒼「明乃…」


望「~♪」


浅「蒼人君」


蒼「はい」


浅「明乃は、君に告白をしたかい?」


蒼「それを聞くということは、浅晴さんも…夜子さんも知っていたんですか?いろいろと」


浅「まあね。君には申し訳ないかもしれないけど、明乃がどう思ってるかは聞いてたよ」


蒼「そうですか」


浅「…どうやら、明乃は残念だったみたいだね」


蒼「………」


浅「君は気にしなくていいよ。むしろ君が、正直な気持ちを明乃に言ってくれたであろう事を感謝してるんだよ」


蒼「正直かどうかは聞かないんですね」


浅「この短い付き合いで、君がそういう人だと直感してたからね」


蒼「………明乃も浅晴さんも、おおらかなんですね」


浅「そうかい?」


浅「僕は、明乃がこれだけ自分を出せた事自体がとても嬉しいことだから」


浅「なかなか人に表立って意見を言わないあの子が、告白なんて言う一番重要な言葉を伝えられるようになったことがね」


蒼「………明乃は、これで良かったんですかね」


浅「そこは君が心配しなくてもいい所だよ。明乃が自分で立ち直れなくなるからね」


蒼「浅晴さんは、よく知っていますね」


浅「そりゃあ、僕に似てるからね。今の明乃は」


蒼「浅晴さんに似ていると?」



望「蒼人くん!花火まだかな?」


蒼「ん?あぁ、もうすぐだろう」


望「わくわく」



浅「僕も、やっぱり引っ込み思案で奥手で、人に好きだなんてなかなか言えなかったから」


蒼「確かにその辺は似ていますね」


浅「だから、僕は明乃を受け止めるだけ。手をとったり引っ張っていったら本当に立ち直ったことにならない…」


浅「…って、そう思うのは酷なのかな?」


蒼「………さあ、どうでしょう」



望「なんのお話?」


浅「ん?どんな形の花火が打ち上がるかの話だよ」


望「えっ、花火って真ん丸じゃないんですか!?」


蒼「近頃は形も見所の一つだからな」


夜「みんな揃ってるわね」


牧「ん?おーい!あおとー!」


蒼「牧人か、それに芙由も」


芙「こんばんは。屋台を見ながらここまで来ちゃいました」


部「あら、製作所のみんな揃ったのね」


牧「おおぅ、完全にお花畑な浴衣の部長…」


部「牧人くん、後で裏公園、ね」


蒼「大分集まったな、身近な人達が」


芙「みんなこのお祭りに関係がある人たちですから」


牧「望ちゃんとか更月さんとか手伝ってくれたしな」


明(私は飲み物を同行しただけですよ)


夜「あまりお役に立てませんで」


芙「そんなことはないですよ」


望「みんな勢揃いだね」


蒼「まったくだ。祭りってのは全く賑やかだな」


咲「ねえねえ、蒼人」


蒼「なんだよ母さん」


咲「あのね………」



蒼「………あぁ、なるほどな」


咲「どうかしら」


蒼「言いたいことはわかったが、何でそんな話を?」


咲「何故かは自分で考えなさいよ。明乃ちゃんと夜子さんの様子に挟まれてどうしていいかわからなくなったわ…」


蒼「………やっぱりな」


咲「あんた、決めたんでしょ?」


蒼「…あぁ」


咲「なら、準備をするに越したことはないでしょ?」


蒼「…まあ、確かに」


咲「だから、あんたも行くのよ」


蒼「そう、だよな」


咲「こういう日じゃないと、中々言い出せなくなるわよ。そういうことを伝えるって言うのは結構シビアなことなんだから」


蒼「…分かってるよ。明乃を見ててそれをつぶさに感じた」



望「蒼人くん!今何時?」


蒼「うぉっ!?」


望「どうしたの、やけに驚いてたみたいだけど」


蒼「あ、あぁすまん。考え事してたから気付かなかった」


望「そう?それで、時間はわかる?」


蒼「あぁ、今は7時過ぎって所だな」


望「う~ん、まだちょっと時間があるなぁ~」


咲「そう言えば望ちゃん」


蒼「なあに?」


咲「私達はここで見るんだけど、ここより更に見晴らしのいいスポットがあるから、どうせなら蒼人に案内してもらいなさいな」


望「花火がもっと見える場所?」


咲「そう。きっと驚くわよ」


望「…だって、蒼人くん?」


蒼「あぁ、それじゃあ今から行くか。確かあの場所って少し遠いよな」


咲「えぇ。今から行けばちょうど花火の時間に着くくらいの距離ね」


望「じゃあ早く行こう!」


蒼「おう、そんなに引っ張るなって!」


咲「行ってらっしゃ~い」



………



蒼「ふぅ………着いたな」


望「ここって?」


蒼「元々寺だった場所だけど、火事があってから更地になった場所だな。後々公園を作るとか言ってたが」


望「まだ更地のままなんだね」


蒼「海に近くて小高い場所だから、海側を覗けば………ほら」


望「おー」


望「海がよく見えるー」


蒼「花火は左側…ほら、人だかりが見えるだろ」


望「うん」


望「…にしても、誰もいないね」


蒼「寺が焼けた場所だからって曰く付きの場所扱いだからな。なかなか近寄らんよ」


望「いわく?」


蒼「お前ならそういうと思ったよ」


望「そういえば、結構歩いてきたけど今何時?」


蒼「あと数分で8時だな」


望「じゃあもうすぐだね、花火!」


蒼「………そう、だな」


望「あれ、蒼人くんどうしたの?疲れた?」


蒼「…いや、むしろ疲れるのは…」


望「?」



蒼「…望」


望「うん」


蒼「お前が家にやって来て、何だかんだでもう一ヶ月近くが経つ」


望「うん」


蒼「具合が悪くて家に運び込んできて、体調が良くなるまで看病してる内に、お前の出自を知って、居候として迎えた」


望「本当にありがとうだよ」


蒼「居候として家に迎えるにあたって、部長や母さん…少しだけど俺もここで暮らすための用品を揃えた」


望「頭が上がりません」


蒼「そして、俺は以前言った。遠慮せずに俺たちと並んで歩けるなら、その時はデートと呼んで出掛けてやる、と」


望「………そうだね」


蒼「望、今の暮らしは楽しいか?」


望「…うん」


望「他の何とも比べられない位、今の暮らしは楽しいよ」


蒼「今の暮らしは嬉しいか?」


望「うん。いろんな人が私と接してくれて、言葉もないくらいに嬉しい」


蒼「が終わったら、悲しいか?」


望「…うん」


望「…考えたくないよ。だってもう知っちゃったんだもん」


蒼「………もっと、過ごしたいか」


望「………」


蒼「前の暮らしに戻りたいか?」


フルフル


望「………やだ、今のままでいたい」


望「もっと色んなものを見て、もっとたくさんの人と出会って、もっと…もっと蒼人くんたちと一緒に居たいっ」


望「………蒼人くんと、一緒に居たい…」


蒼「望、今改めて俺から言わせてもらっていいか」


望「………うん」


蒼「…俺は、この短い時間を一緒に過ごしてきた望が好きだ」


蒼「望、お前が今何の遠慮もせずにやりたい事を言ってくれたから、俺もお前に居候としての遠慮をしない」


蒼「ハッキリと、お前に好きと伝える」


望「…っ、あ…おと………くん、うっ…」


蒼「…これからも、一緒に居てくれるか」


望「あおとくんっ!」


望「…わたし、あおとくんが話しはじめたとき、すごく怖かった………おわかれを…言われる、かと…おもっ……」


蒼「悪かったな。怖い思いさせて」


望「ううん…もうだい、じょうぶ…だって………もっといられるっ、てわかった…から………」


蒼「望………」


望「…んっ」


蒼「………」


望「……っはぁ、蒼人くん…背が高い」


蒼「これでもしゃがんだつもりだがな」


望「でも、ちゃんと出来た………」


蒼「あぁ…」


望「…いいん、だよね?私は蒼人くんに、こうしてもいいんだよね?」


蒼「…あぁ」


望「私も、出会ったみんなが好き…冷泉町とこの場所が好き………そして、蒼人くんが好き」


望「蒼人くん、もう一回、いいかな?」


蒼「花火、見なくていいのか?」


望「どっちもが、いいな」


蒼「わがままだな」


望「遠慮はしないからね」


望「…んっ」


蒼「っ………」


望「…私、初めてだ。こうして人と…き、きす…するのは」


蒼「俺は…言うだけ野暮だな」


ヒューー...


望「あっ、蒼人くん」


蒼「…始まったみたいだな、花火」


望「とてもきれい…」


蒼「最近の花火は鮮やかだからな」


望「…でも、どうしてかな。花火よりも、今は………」


蒼「せっかくの花火スポットで元も子もない事を言うのな」


望「へへ」


望「蒼人くん」


蒼「あぁ」


望「………だいすき、だよ」



………



望「蒼人くん」


蒼「なんだ?」


望「今日も一緒に寝ていいよね?」


蒼「まぁ、お前がどの部屋で寝るか決めたわけだしな」


望「それに、私と蒼人くんには一緒に寝られる理由もある」


蒼「その婉曲的な言い回し、なんか恥ずかしくなるな」


望「ふふっ、珍しい表情だね」


蒼「ほら、ベッドに入って来いよ」


望「うん」


ポフッ


望「蒼人くんを感じるよ」


蒼「俺はそんなに存在が強いのか?」


望「それも少し、かな?」


蒼「マジか」


望「でも、一番は好きな人だからだと思うよ。多分…その」


蒼「………明乃もそう思ってる?」


望「あ、」


蒼「余り言いたくはなかったんだけど、実は望に告白する前に、明乃に告白をされてたんだ」


望「明乃ちゃん、が?」


蒼「あぁ。言わずにおいてもよかったけど、多分二人なら何かしら気づくだろうし、言わない事も据わりが悪いからな」


望「そう、なんだ」


蒼「でも、俺は明乃のことは断ってきた。正直に話してな」


望「明乃ちゃんは…?」


蒼「望なら、安心できるって言ってたよ」


望「そっか、明乃ちゃんには悪いことをしたんだね」


蒼「心配しなくてもいい。多分、明乃も心配されることを望んではないから」


望「…うん、わかった」


蒼「それじゃ、そろそろ寝るか」


望「蒼人くん」


蒼「なんだ?」


望「おやすみに、もう一回…ね?」


蒼「…あぁ、おやすみ」


Date-8/9

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