page.18 バックログ-A

………くん



………とくん



………あおとくん!


蒼「………ん?」


望「おはよう、蒼人くん」


蒼「…あぁ、望か」


蒼「で、どうしてお前はまたがっているんだ?」


望「なんとなく。ずっと起きないから待ってたんだよ?」


蒼「先に起きてればよかったのに」


望「ところで昨日、私いつの間にか寝ちゃってたんだね」


蒼「あぁ、担ぐのが大変だった」


望「もー、私重くはないでしょ?」


蒼「まあな」


蒼「………」


望「………ど、どうしたの?私のほっぺに手なんか当てて」


蒼「…いや、涼しいなって」


望「それはもちろん、ひんやりしてるから」


蒼「そうだな」


望「あおとくん………?」


蒼「…さて、そろそろ起きようか…って、もう9時か」


望「そうだよ。ねぼすけだよ?」


蒼「夏休みだからな」


………


望「おはよう」


咲「おはよう。朝御飯出来てるわよ」


蒼「さて、夏祭りだな」


望「楽しみ楽しみ♪」


咲「そういえば、昨日帰ってきてからの記憶がないんだけど…」


蒼「しっかりしてたふりして酔ってたのかよ」


咲「そうみたい。珍しいわ」


望「お酒?」


蒼「お前は酒は飲めるのか?」


望「多分飲めないと思う」


咲「見た目は完全に未成年よね」


蒼「違いない」


望「その評価は嬉しいような悲しいような…」


蒼「いいじゃないか。若いって褒められてるんだから」


望「なんか悪意を感じるー…」


咲「蒼人は飲まない派ね」


蒼「酒を旨いと感じないからな」


望「そういえば、蒼人くんがお酒を飲んでる所は見たことないかも」


蒼「一回飲んでるんだがな。しかもつい最近」


咲「しょっぱいわね。大人の楽しみをもっと甘受しなさいよ」


蒼「どっかの誰かみたいに記憶をすっ飛ばしたくないので」


………


咲「じゃあ、行こうかしら」


蒼「まずは着付けからだな」


望「ねえねえ、昨日とは別の浴衣とか着られないかな?」


蒼「別のねぇ…」


望「だって、あんなに沢山あったから、もっと着てみたいなって思って」


咲「そこら辺は明乃ちゃんたちに相談してみましょう」


咲「あっちだってあの沢山の着物を腐らせたくはないでしょうし」


蒼「言ってみても損はない、か」


望「色々着てみたいな」


蒼「蛍光緑とか」


望「それってどんな色?」


蒼「すごく派手だ」


咲「そんな色あったの?」


蒼「着せられかけた」


望「見てみるだけなら面白いかも」


ピンポーン…


咲「あら、噂をすれば向こうから来たみたいね」


蒼「持ってきたんだろうか、それならチェンジは望めないが」


望「その時は仕方ないよ。それにウサギもかわいいからあの浴衣も気に入ってるし」


蒼「謙虚なことだ。はーい」


明(おはようございます。先日の浴衣ですが)


蒼「持ってきたのか?」


明(いえ、お父さんが言ってまして…もしかしたら他の浴衣を着てみるかもしれないからいくつか残しておこうって)


蒼「なるほど、浅晴さんがね」


明(?)


蒼「いや、なんでもない。それで?」


明(はい、お父さんとお母さんが私に行ってこいと…またうちの神社で浴衣を選び直しましょう、と)


蒼「ちょうど、他の浴衣も試したくてワクワクしてるやつがうちにいるんだ」


望「わくわく」


明(なるほど、これはいいタイミングだったようですね)


明(ではまず神社に行きましょうか)


咲「私は片付けたあとで行くわ。蒼人と望ちゃんは先に行ってらっしゃいな」


蒼「じゃあ任せるよ」


望「行ってきまーす」


………


明(まさか同じことを考えていたとは)


望「グッドタイミングだね」


蒼「うちの母さんが、沢山あるのに着ないままなのは勿体ないって言ってたよ」


明(そうですね。それは同意です)


望「でも、あんなに沢山あると私たちじゃ着きれないね…」


明(はい。数えたら97着ありました)


蒼「それはまた、貸し浴衣屋が出来るな」


望「貸し浴衣…出来ないのかな?」


明(ふむ…その案、一理あるかもしれませんね)


蒼「冗談で言ったつもりなんだが」


明(でも、可能性はあります)


蒼「まあそういう話はまた今度にしよう。今は夏祭りの浴衣選びだ」


明(はい。ですが、そういうことをするときには少しでも知恵を貸してくださいね)


蒼「ない知恵でよければな」


望「今度はどんな浴衣が着られるのかな?」



………



夜「すみません、わざわざ明乃まで送ってお呼び立てして」


蒼「いえ、意見が一致して願ったり叶ったりでしたから」


浅「いやぁ、望ちゃんが他の浴衣をしげしげと見つめてたからちょっと試しにと思ったんだけど、的中したみたいだね」


望「ぁぅ、見られてた」


蒼「まあ、あれだけあれば目移りするわな」


浅「それに、明乃もね…」


明(お、お父さん…!)


蒼「なるほどな」


明(わ、私はおばあちゃんの形見がどんなものなのかとですね…)


浅「うっすらと他の浴衣も着たいって言って…」


明(むぅ………)


浅「さて、それじゃあ浴衣選びだね」


夜「お祭りは昼からあるみたいだけど、みんなはいつ行くのかしら?」


蒼「特に決めてませんでしたが」


明(涼しくなる夕方に行くのが定番でしょうか)


望「私はいつでもいいけど…」


蒼「間をとって3時頃か?」


夜「それなら、お昼は私たちでご用意しましょう」


蒼「毎度毎度すみません。よければ色々言ってください、手伝わないのも据わりが悪いので」


夜「じゃあその時には。ですが今は浴衣を存分に選んでいてくださいな」


望「ありがとうございます」


明(望さんはまた私とですね)


浅「じゃあ昨日通りで」


望「今日はどれにしよっか」


蒼「数が多すぎて目がチカチカする」


浅「そうだね。色彩も鮮やかで、時代を感じさせない柄の物もある」


明(おばあちゃんは意外とお洒落だったんでしょうか?)


望「………あれ、この浴衣?なんか感じが違うね」


明(それは、昔の和装のようですが…不思議な色彩と模様ですね)


望「青色?ううん、時々赤だったり緑だったり、なんだか色がころころ変わるよ?」


蒼「プリズムみたいな色で、しかも模様はどこか日本らしい」


浅「不思議な織物だね」


明(広げてみると、やや小柄ですね。女の子用という感じがします)


望「…ねえ、内側に何か書いてるよ」


蒼「ほう、確かに何か書いてるが…これはどんな文字だ?」


浅「行書の文字にも見えるけど、掠れてたり形が歪だったりで読めないね」


望「………冷泉の儀?」


明(望さん、読めるんですか?)


望「うーん…冷泉の儀とか、女の子とか、禁止とか…ちょっとずつはわかる気がする。でも、全部はわからないかな」


明(これ、もしかして何か大切な意味を持ってるんじゃないでしょうか)


蒼「望の話が確かなら、そうみたいだな」


明(どうやって読んだんですか?)


望「読んだというより、文字がフッと頭の中に入ってきて…降りてきたような感じかな」


浅「そうなると、望ちゃんにもこの服は関係あるのかな?」


蒼「かもしれませんね」


望「へぇ………」


明(とりあえずこれは保管します)


明(さて、浴衣選びを再開しましょう)


望「あ、昨日のウサギ柄だ!」


明(やっぱりそれに戻るんですね)


蒼「この苔色、なかなか渋いな…」


浅「丈も割りと長いね」


望「蒼人くん大人っぽい」


蒼「大人だからな」


明(どや顔で言われても…)


蒼「そういう明乃は昨日とは違う青系か」


明(藍色の天の川デザインですね)


望「明乃ちゃんも綺麗だね」


望「私は…うーん」


蒼「おっ、桜色に桜の花びら」


望「おー、なんだか、大人っぽいかも?」


明(桜色の下地に、灰色の桜の花びらですか。なんだか少し荘厳ですね)


望「これ、着てみようかな?」


望「ねえ蒼人くん、似合うと思う?」


蒼「さあな」


望「もー、そんな適当に…」


蒼「冗談さ。お前なら似合うと思うぞ」


望「…そ、そうかな?」


明(それじゃあ各々着付けてみましょうか)


浅「じゃあ襖で区切って、と…」


浅「さて、締め付けはどうかな?」


蒼「問題ないです」


浅「やっぱり丈が長めだね。君の身長でちょうどいいみたいだ」


蒼「計ったようにぴったりですね」


浅「多分、親族以外のための品だろうね」


蒼「貸し浴衣…ですかね」


浅「そう言ってもいいかな」


蒼「さっき、この着物を貸し衣装にするのもいいだろうって明乃と話してたんです」


浅「へぇ、明乃がね」


蒼「きっと、おばあさんの形見をしっかり使っていっていきたいんでしょうね」


浅「そうかもしれないね」


明(そういうことにしておきます)


蒼「聞こえていたか」


明(蒼人さんの言ったこと、大体あってますから)


浅「またそういう話をみんなでしようか」


明(うん。でも今はまだいいです。もう少しおばあちゃんの品を見て回りたいので)


浅「はは、分かったよ」


明(さて望さんの着付けも終わりです)


スーッ…


望「あ、蒼人くん………」


蒼「ん?終わったの……か……?」


望「ど、どうかな?明乃ちゃんに髪も結ってもらったんだけど…」


蒼「お、おう…大分印象が変わるんだな」


明(髪の毛、さわり心地がよかったですよ)


望「もう、明乃ちゃんてば…」


蒼「明乃も着付け終わりか」


明(はい、なかなか落ち着いた仕上がりになりました)


蒼「自分で言うか」


明(落ち着いていますから)


望「可愛くておしゃれだよね」


浅「似合ってるよ、明乃」


明(お父さんに言われると何か別の恥ずかしさを感じます)


咲「どう?着付け捗ってる?」


蒼「あぁ、今終わったところだ」


咲「あらぁ、望ちゃんも明乃ちゃんもなかなか素敵ね」


望「えへへー」


明(ありがとうございます)


咲「それじゃあ私もちゃっちゃと選んじゃいましょうか」


蒼「お昼もどうぞ、だそうだ」


咲「あら、それなら先に手伝いましょうか。じゃ!」


望「おおぅ、飛び出すように走っていった」


明(行動が早いんですね)


蒼「さすがの速さだよ」


望「…あー、そういえばお仕事でも」


明(?)


………


明(境内の木陰は涼しいです)


蒼「寒いくらいにな」


望「扇いであげようか?」


蒼「凍る」


望「これ以上ないくらい短い遠慮だね」


明(…やっぱり、お二人は仲がいいんですね)


蒼「腐れ縁だと思ってくれ」


望「そんなに長くいる訳じゃないけどね」


明(なんだか、二人は元々知ってるみたいに気が合ってます)


望「そう?」


蒼「えぇ…」


望「もー!その反応は何~?」


蒼「まあ、こいつの反応が楽しいから悪のりしてる感はある」


望「ほんとに蒼人くんはそんな人だよね」


蒼「どういたしまして」


 … ましい り です


蒼「ん?どうした?」


明(いえ、意地悪が好きな人といると大変そうだなって思っただけです)


蒼「おお、辛辣な感想だな」


望「ほんとに大変だよ」


蒼「追い討ちまで」


明(…ふふっ)


望「…えへへ」



………



望「ごちそうさまでした」


夜「お粗末様でした」


浅「じゃあ三人は今から出掛けるんだね」


蒼「そうですね。もう3時も近いので」


明(まだ日は高いですが)


蒼「いざとなればこいつのそばに居ればいい」


望「冷やすよ~」


明(それもそうですね)


咲「私たち大人組は夜の花火を待って祭りに行くことにするわ」


浅「それまでは3人で楽しんできたらいいよ」


望「うん!」


明(そう、ですね)


蒼「迷子を出さないように努めます」


望「大丈夫だよ。知ってる場所だもん」


蒼「それはフラグか?」


望「フラグって何?」


蒼「気にするな」


明(それじゃあ行ってきます)


夜「行ってらっしゃ~い」


明(お母さん、楽しそう………)


夜「おほほ…」


………


明(浴衣に草履…夏の風物的な装備が一式ちゃんとそろっていますね)


蒼「しかもそれぞれサイズかぴったりときたもんだ」


望「浴衣ってちょっと動きにくいかもって思ったけど、ちゃんと合わせて着ると動くのも困らないね」


蒼「動きすぎてはだけたりするなよ?目のやり場には困らんが、後の着付け直しに困る」


望「えっちな上にデリカシーがなーい」


明(蒼人さん、本当は期待しているんじゃないですか?)


蒼「さぁな。ところで、浴衣って下着は付けられるものだったっけか?」


明(よくある勘違いですね。元々浴衣や着物には下に着るものがありますし、今の時代に付けずに着ることはまずありません)


蒼「ということは二人とも身につけていると?」


明(はい、それはもち………っ!)


望「あーあ」


明(っ………)


蒼「どうした?俺は素朴な疑問を述べただけで」


明(蒼人さん)


蒼「はい」


明(何かおごってもらいます。辱めを与えた罰として)


蒼「すみません調子に乗りました」


望「明乃ちゃんにそういうことするから…」



………



望「おーーー!人がいっぱいだー!」


明(お祭りとなると、さすがにこの辺りにも人が集まりますね)


蒼「祭り様様だな」


望「お店もいっぱいあるよ!」


蒼「はしゃぐなって。こけるし迷うし脱げるぞ」


望「そんなに畳み掛けて言わなくても~」


明(この出店の殆どが蒼人さん達の作ったものなんですよね)


蒼「そうなるな」


明(なんだか、自分は造っていないのに感慨があります)


蒼「そうだな。こうして造ったものが利用されてると嬉しくなるな」


部「それが私たち製作所の本懐ってもんよ」


蒼「おっと昨日に引き続き。お疲れ様です」


部「おつかれ~。どうかしら、アタシの浴衣」


蒼「なぜヒマワリ柄なのか甚だ疑問ですが元気を感じます」


部「ありがとねー」


蒼「なぜ女性ものなのかは…聞くだけ野暮ですかね」


部「察しが良くてありがたいわ~」


部「今日は三人で夏祭りかしら?」


蒼「はい。神社で浴衣をそれぞれ借りて」


望「どうですか?」


部「とっても似合ってるわよ」


明(部長さんも素敵です)


部「ありがと、それじゃあ楽しんできてね」


望「それじゃあ行こっか!」


明(あぁ、走ると危ないですよ)


望「だいじょ…うおっと!?」


蒼「っおい!」


パシッ!


望「あ…蒼人くん………」


蒼「言ったそばからこれだ。だから危ないと言ったろうに」


望「う、うん…ごめんなさい」


明(怪我がなくて良かったです)


望「ほんとにありがとう」


蒼「ふむ、浴衣も望も大丈夫そうだな」


望「えー、浴衣が先なの?」


蒼「ほら、人混みの中に入るんだから、しばらく手を繋いでおけ」


望「う、うん」


蒼「明乃もだ」


明(私は別に迷子には…)


蒼「ついでだよついで」


明(そ、それじゃあお言葉に甘えて…)


望「両方の手、塞がっちゃったね」


蒼「何か持つときは両方の人間全部任せる」


望「お買い物のとき以来だね」


蒼「ん?」


望「こうして手を繋ぐの」


蒼「あぁ」


望「あの時も、迷うからって言って手をとってくれた」


蒼「そう言えばそうだな」


明(蒼人さんの優しさですね)


蒼「それに、迷ったら戻れないだろ?」


蒼「明宮で迷ったら、お前は物理的にも…違う意味でも戻ることができなくなるだろ」


望「………うん、そうだね。蒼人くんの所にいる私は、迷ったら戻れなくなるよね」


明(だから、手を取る…)


蒼「まあ、な」


望「………あっ!蒼人くん!」


蒼「耳元でなんだ」


望「ほら!クレープ!」


蒼「お前今しがた遅い昼を食べたばかりだろ」


望「甘いものは」


明(別腹ですから)


蒼「結託するんじゃない」


望「ほらほら、早く!」


明(行きましょう、蒼人さん)


蒼「くっそ、俺が手を離さないのをいいことに…」


………

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