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?(迷子の子…どうしたの?)


(おとうさんも、おかあさんもいなくなったの)


?(あら、それは大変。あなた、名前は?)


(…  だよ)


?(そう、  ちゃんて言うの)


?(ねえ、もしよかったら私のところに来る?)


(おねえさんの、ところ?)



?(あなたのこと、ちょっとだけ知ってるから。私の娘が遺してくれた…貴女の事を、ね)


(…わかった。おねえさんのこと、しんじてみる)


?(ありがとう)


(おねえさん!なまえは…?)


?(私?私はね………)



―――



(…僕は、冷泉を守れなかったんだよ?それでも君は…そうやって優しくしてくれるの?)


?(だって…悲しすぎるよ……あんなに好きだった子が…そんな………)


(…僕は、誰にも救われちゃいけないんだ。だって僕は…)


?(いいんだよ……私があなたを…)


(僕は、あの子のいない世界で、どうやって生きればいいんだ…)


(…私がいる…私が、今の世界で………のいない今の世界で…あなたを守ってあげる………)



………たくまくん



―――



蒼「っ!?」


蒼「はぁ、はぁ……」


蒼「今の……夢が、二つ………」


蒼「のぞみ………望は…って、まだここで寝てるのか」


望「………さい」


蒼「望、朝だぞ。そろそろ…」



…ごめん


………なさい

…私が


………みんな、


やっぱり……


禁忌は………



蒼「望?」


蒼「おい、望?大丈夫かっ!?」


望「っ…!?あ、蒼人、くん?」


蒼「大丈夫か、なんかうなされてたけど」


望「えっ…あ、えっと………ごめん、思い出せないよ…」


蒼「まあ、体調に問題はなさそうだが」


望「そういえば、私、蒼人くんの部屋で寝てたんだ」


蒼「突然押し掛けてきて」


望「もう、間違ってないから何も言えないよ」


蒼「ぐうの音も出ないだろ?」


望「でも…これだけは言うことができるよ」


蒼「なんだ?」


望「………おはよう、蒼人くん」


………


咲「おはよう、蒼人に望ちゃん」


蒼「いきなり望が部屋に来たんだが」


咲「あら?私は部屋を自由にって言っただけよ?どこにするか選んだのは望ちゃんですもの」


蒼「そういう辺り、やっぱり分かってて仕組んだな?」


望「っ………」


蒼「まあ、エアコンなしで寝ることができたのはよしとして…」


望「そこっ!?」


咲「それに、あんたにも責任があるわ。そんな自分の身辺もわからない子を一人で寝かせるなんていただけないわ」


蒼「…まぁ、それは考えてはいたよ。でも、望も女の子だ。できれば同性の方がいいかと思ったんだよ」


咲「あんたは優しすぎるのよ」


咲「そこまで変な気を使わなくていいのよ。それに………の」


望「………」


蒼「それに?」


咲「…いや、何でもないわ。さて、早く朝御飯食べて神社に行きましょうか」


望「神社?」


蒼「そうか、望は聞いてなかったな。浴衣の試着のお誘いがあったんだ」


望「それって、明乃ちゃんのところ?」


蒼「そうだ。浴衣の事話してただろ?」


望「うん!浴衣、楽しみだよ」


咲「なら、ちゃっちゃとご飯食べちゃって行きましょうよ。祭りはいつなんだっけ?」


蒼「明日だな」


咲「本当に屋台製作から祭りまでが短いのね。よくこれでやってけるわ」


蒼「去年とかはもっと早かったけどな。請け負いと納期の交渉を部長が一手に引き受けたらこうなった」


咲「出店側に出せればオッケー的な所があるからかしら?」


蒼「何にせよ仕事は終わりだ」


望「見てるだけでも楽しかったよ」


咲「まあ、屋台製作は軽い地獄程度だからねえ。冬なんてそりゃあ…」


望「ふゆ?」


蒼「お前のような季節だよ。雪とか降って一面が真っ白になる…」


望「………?」


蒼「お前、もしかして冬も知らないのか?」


望「うん…私が冷泉町にいた頃は、ずっと今みたいな季節?だったから」


咲「蒼人、それって?」


蒼「ふむ…冷泉町がそんな町なのか、望が覚えてないだけか…」


望「それは多分私が覚えてないだけかも。私、忘れっぽいから…」


蒼「………まぁ、そうなのかもな」


咲「それなら、今の望ちゃんにはたくさんの思い出が必要ね」


望「思い出?」


咲「忘れっぽい望ちゃんが忘れないような思い出よ。どうやら夏祭りに行くのも初めてみたいだし」


蒼「そうだな。こうして家に来たんだ、何か持っているに越したことはないさ」


望「………うん、ありがとう」


咲「そうと決まれば、朝御飯なんてさっと終わらせて、神社に行こうじゃないの」


蒼「自分で作っておいてとは」


望「浴衣かぁ………」



………



蒼「こんにちはー」


夜「いらっしゃい。準備は出来てますよ」


咲「こ、こんにちは」


夜「あら、蒼人さんのお母さんですか?」


蒼「はい、夏休みで帰ってきてまして」


咲「どうも…」


夜「スレンダーで着物映えするお姿ですね。ささ、皆さんどうぞ」


望「ほえ~~~………」


蒼「なんか、すごい………」


咲「50…いや、100はあるわよ………?」


明(神社の倉を探してみたら箪笥がいくつか出てきまして…)


夜「調べてみたら浴衣やら和服やらが大量に出てきたもので」


蒼「本当に物持ちよかったんだな」


夜「いまやっと、一通り広げることが出来たもので、今から見繕いたいと思ってまして」


蒼「気にしなくても、この数に目を奪われているのが二人ほどいますから」


望「わぁ…」


咲「さすがの神社だわ…」


明(望ちゃんは私が準備しましょう。襖で仕切るので隣のお部屋にどうぞ)


望「あ、うん」


夜「お母様と蒼人さんは私が選びましょうか」


浅「蒼人くんは僕がやろうか?」


蒼「あれ、宮司服の浅晴さん…?」


浅「やぁ、せっかくだから着てたんだけど…暑いね、これ」


蒼「それにしても、沢山あったんですね」


浅「はじめは10着位だったんだけど、僕が掃除がてら倉を開けたら和装が無数に出てきちゃってね」


蒼「浅晴さんが元凶ですか…」


夜「まあ、母の遺品のいい整理になりましたから」


咲「あぁ、そうか。忍さんは…」


蒼「母さんも、その忍さんを知ってるのか」


咲「あぁ、うん。ちょっと縁があってね…」


夜「………」


浅「さて、それじゃあかわいい望ちゃんのためにもいいものを選ばないとね」


蒼「かわいいって…」


浅「かわいくないかい?」


蒼「ノーコメントで」


望「今ひどい言葉が聞こえたような気がしたよー!」


蒼「ふすま一枚隔てているのに、耳のいいやつだ」


浅「あはは、さすがの二人だね」


夜「それじゃあお母様はいくつか選んで別の部屋で試着しましょうか」


咲「はい」


浅「僕らはここでいいかな?」


………


蒼「何から何まですいません」


浅「気にしないでいいよ。僕らも明乃が楽しそうにしてるのが嬉しいから」


蒼「楽しそうなんですか?」


浅「あまり表情には出ないけど、あの子がこうして人をご招待するなんて本当に珍しいことだから」


蒼「そのようですね」


浅「また、時々遊びに来て、明乃と交流があると嬉しいな」


蒼「俺はしがない社会人です。あまり期待をされても…」


浅「あはは、それを言うなら僕だってしがない社会人さ。だから、似た者同士のよしみでお願いをするよ」


蒼「…考えておきますよ」


浅「けど、夜子さんは君のお母さんに何の話をするつもりなのかな」


蒼「と言いますと?」


浅「えっ?だって、夜子さんが話をしたそうな目をしてたから」


蒼「そうなんですか」


浅「長く寄り添ってると、すぐ分かるんだよ」


蒼「さすがの夫婦ですね」


浅「うーん…さっきまでの話だと、多分夜子さんのお母さん関連のお話かな?」


蒼「忍さん…でしたね」


浅「僕は外からやって来た人だから、この家の事情には疎いんだけど、この家も割りと重責を負ってきた家系なんだよね」


蒼「その辺りはうっすら聞いてます、歴史的な意味のある神社だということも」


浅「ここに初めて来て忍さんとお会いした時に、その辺りを聞かされたよ。この神社が長く冷泉町の祭りを取り仕切っていたこと、今でも町の中では一目置かれていること…」


浅「それでもここに来るか…ともね」


蒼「それで、頷いたんですね」


浅「夜子さんが好きだったからね。その時は忍さんは何も言わなかったけど、忍さんが亡くなる三年前くらいに、言われたよ」


浅「ここに来てくれてありがとうってね」


蒼「…認められたんですね」


浅「まだ小さかった明乃にもそう言って、夜子さんにもお礼を言ってた。それから程なくして亡くなって、僕らから返す言葉は届かなくなったけどね」


蒼「おばあちゃん子だった明乃はその時は?」


浅「最初は泣いてたよ。小さな声を精一杯振り絞るようにね。けど、通夜が終わった頃にはその涙も止んでて、葬儀の時には不思議と落ち着いてたね」


蒼「…多分、何かを悟ったんでしょうね」


浅「そう思うよ。忍さんと一番交流が深かったのは、明乃だったからね」


浅「忍さんは、夜子さんには娘として振る舞ってて、あまり自分の事で迷惑をかけないようにしてた感じだった。でも、誰かに少しでも伝えたくて」


蒼「明乃を選んだと」


浅「もしかしたら、忍さんなりの考えがあって明乃に色々教えたのかもしれないね」


浅「そのうち、何か話してくれる日が来るのかな」


蒼「そうだと信じましょう」


浅「…さて、それじゃあこの蛍光緑の浴衣を…」


蒼「いい話にまぎれて、さらっと毒々しいのを選ばないでください」


………


望「お待たせ~」


蒼「おう、終わったか」


望「おお、蒼人くん大人な浴衣だ」


蒼「柿渋色…って言うらしい」


望「自信なさげだね」


蒼「色の名前にはあいにく疎いんだ。そんな望は青か」


明(程よく兎の柄のものがあったので)


望「どう?似合う?」


蒼「あぁ、髪色と相まって涼しげだ」


望「実際に涼しいよ?」


蒼「わかってるよ」


明(あの、私はいかがでしょう?)


蒼「明乃は緑か。その模様は…」


明(どうやらススキ柄のようですね)


蒼「二人ともなぜ秋の様相なのか」


咲「二人とも着替え終わったかしら?」


蒼「母さんも………ってあかっ!?」


咲「いやあ、なんだか直感的にこの色が気に入っちゃってね」


夜「恐ろしいほどぴったりだったので瞬間的に着付けちゃいました」


蒼「あー…」


望「わかる気がする」


明(すばらしくぴったりですね)


………


蒼「相変わらず境内には人は来ないんだな」


明(言ってしまえば流しの神社ですから)


望「人も神様もいなくて、やっぱり寂しいね」


明(しかし、着るだけ着てみたわけですが、暇ですね)


望「夏祭りは明日だからね」


蒼「…そうだ、せっかくなら祭りの仕込みの様子でも見に行ってみるか」


明(準備をですか?)


蒼「何が出るのか気になるだろ?」


望「始めにわかっちゃったら楽しくなくならないかな?」


蒼「本番は本番の空気がある。準備の空気も結構楽しいもんだぞ?」


明(それじゃあ、行ってみますか)


望「私、咲希さんたちに聞いてくるよ!」


タタッ


蒼「あ、おい走ると……」


明(行っちゃいましたね)


蒼「浴衣で歩きづらいのによく走れるな」


明(本当に元気ですね、望さん)


蒼「まったくだ」


明(…お父さんからお話聞いてましたね)


蒼「聞こえてたのか」


明(襖一枚しか隔ててませんから…聞きながら気まずかったです。なんか、家庭訪問をドアの向こうで聞いているような…)


蒼「悪いことは言ってないよ」


明(聞いてましたよ)


明(でも、お父さんの気持ちとか、蒼人さんの考えとか、おばあちゃんの事とか、理解できたことが多くて嬉しかったです)


蒼「なら、もう少し話しててもよかったかもな」


明(いえ、今の蒼人さんは余計なことを話そうとしてる顔をしています)


蒼「鋭いな」


明(…蒼人さん)


蒼「なんだ?」


明(蒼人さんは、どんな人が好きですか?その、異性としてと言うか…)


蒼「そうだな…キャラの濃い両親に育てられた反動からか、大人しい人にはよく目が行くかな」


明(大人しい……)


蒼「でも、集まってくるのは……」


蒼「………そうだな、集まるのはわりと騒々しいのばかりかな。望とか、部長とか、牧人とか」


明(私は騒々しいですか?)


蒼「しいて言うなら侮れない」


明(むぅ、私はそんな意地悪ではありませんよ)


蒼「よく言えば、芯があるって言うかな。神社の事とか」


明(それは、そうかもですけど…)


明(………私は、蒼人さんの言う大人しい人に入りますか?)


蒼「んー………そ」


望「ただいまっ!」


明(っ!?)


望「蒼人くんがいるなら行っても大丈夫だろうって!」


蒼「そうかい。なら明乃も一緒に行こうか」


明(あ、はい………)



………



蒼「準備の真っ只中だな」


明(こちらの祭りは駅前通りをまるごと使って催されるんですね)


望「沢山屋台があるよ。全部蒼人くんたちが作ったの?」


蒼「全部じゃないさ。ほぼ全部だよ」


明(ごく一部は違うんですね)


部「あらあら、望ちゃんに明乃ちゃん」


蒼「部長?」


部「あらみんな浴衣。可愛らしくてカッコいいわね」


蒼「俺と望と明乃の感想をまとめて言わないでください」


明(部長さんは準備のお手伝いですか?)


部「暇だったから、身体動かすついでよ」


蒼「ほんと、フィジカルは完全におと…」


部「ん?」


蒼「いえ」


男「厳司さん、こっちはもういいんで、手伝うんなら他に行ってくださいよ」


部「あら?いいの?」


男「材まで新調して製作してくれた人にこれ以上迷惑はかけられませんから」


部「じゃあ、当日のに期待しておくわ」


男「ははは…まあ、何か準備します」


部「…こうして、ちょっとずつ見返りをもらう為に、アタシは下請けを頑張ったのよ」


明(そ、そうですか…)


蒼「悪どい………」


部「ま、それだけが目的じゃないわよ。ほら、駅そばの屋台を出店をご覧なさい」


望「なんだか、お店の屋台骨が暗い色だね」


部「確かあそこは贔屓にしてる知人に材ごと預けて毎年組んでいるのだけれど、見ての通り材の取り替えをしないから年季が入っちゃってるのよ」


明(年季が見えるのは信頼の証のようにも思いますが)


部「あれが焼き物屋じゃなければ、ね」


明(あっ………)


部「あそこはそんな来歴にも関わらず串焼きの出店なのよ。だから、私は遠からず何か事故が起きると思ってるわ」


蒼「じゃあ、大量に受注を受けたのは、修理すべき材を洗い出すために?」


部「そうよ。前にも言ったでしょ、アタシ達は安心な祭りを創るために作ってるって」


明(沢山の事を考える部長さんは、とてもかっこいいです)


部「ありがとね。冷泉町の人だけど、せっかくだからアタシたちが手伝った夏祭りを楽しんでくれると嬉しいわ」


明(努めて楽しませてもらいます)


蒼「さて、手持ち無沙汰で眺めてるのも邪魔になりそうだし、そろそろ戻ろうか」


望「………」


蒼「おい、望?帰るぞ」



望「…踊り、踊りはないのかな」



蒼「踊り?そんな話は聞かないが」


望「祈念の為の舞踊、夏を過ごすための儀礼、冷泉の神楽だよ…」


明(冷泉の、神楽?)


望「神様の供え物…一子相伝の、女の子だけの………禁忌」


蒼「おい望、さっきから何を言ってるんだ?」


望「………あっ」


蒼「おい、のぞ…」


望「消えちゃった…今、何かを思い出したような気がしたのに、それが線香花火みたいに消えちゃった…」


蒼「望、大丈夫か?なんか表情が優れないが」


望「………ううん、もう大丈夫。少しボーッとしてただけだよ」


蒼「そうか、ならいいが」


明(………)


望「楽しみがいっぱいだよ」


蒼「初めてな事が多いからな」


望「食べ物色々あるかな?」


蒼「やっぱり食い気か」


望「食は大切だよ」



………



夜「おかえりなさい」


望「ただいまー」


蒼「お前は更月家じゃないだろうに」


明(お祭りの準備、忙しそうでした)


夜「どうせまた駅そばの串屋は古くさい出店でみせを出してるんでしょう?」


蒼「やっぱり有名なのな、駅そばの串焼き」


望「もう夕方になっちゃったね」


蒼「じゃあ浴衣はまた明日のお楽しみだな」


夜「それぞれさっきの場所で着替えましょうか。それと、もしよければお夕飯も一緒にいかがですか?」


蒼「いいんですか?」


咲「いいも何も、私も作ったんだけどね」


蒼「聞くまでもなく、ということか」


浅「この間に続いて更に大所帯になるね」


望「またここでご飯?いいよいいよー」


咲「じゃあ、着替えちゃいましょうか」


望「一応言っておくけど、蒼人くん覗かないでね」


蒼「それは着るときから刺すべき釘だと思うが」


明(とにかく覗かないでください)


スーッ…


浅「さて、じゃあ着替えようか。僕も宮司服から着替えないとね」


蒼「そういえばずっと宮司服でしたね」


浅「着なくてもよかったんじゃないかなって思ってるよ」


蒼「よく倒れませんでしたね」


浅「辛うじてね」


蒼「えっと、替えの服は…」


浅「あ、明乃たちがいる部屋にある…」


蒼「おぅ………」


蒼「おーい、望、明乃ー」


明(なんでしょうか)


蒼「そっちに俺と浅晴さんの着替えがあるらしい」


明(えっと…ありますね)


蒼「どうにか取ってはもらえないだろうか」


明(えーっと…)


明(…はい、どうぞ)


蒼「二人は着替え終わったのか?」


明(望さんはまだです)


望「見ないでね!」


蒼「へいへい。そういえば、俺はそういう場面にうっかり巻き込まれることがないな」


明(漫画じゃないんですから)


蒼「…いや、一回あったか」


明(えっ…)


望「その話は無しだよ?」


蒼「わかってるよ。それと思い出した。一回じゃないな」


望「寝てたときの話までしないでー!」


明(蒼人さん………)


蒼「残念な人を見るような目をするんじゃない」


浅「はは、君も意外と大胆なんだね」


蒼「勘違いです」


………


咲「本当に今日はありがとうございました」


夜「いいえ、また皆さんでおいでください」


浅「僕ももう少し夏休みがあるから、また色々話をしに来てよ」


望「ごちそうさまでした、あと浴衣ありがとうございました」


蒼「また明日の祭りではお世話になります」


明(それじゃあ、また明日)


蒼「ああ、またな」


望「また明日一緒に行こうね!」


明(はい)



………



蒼「さて、我が家にただいまだ」


望「すぅ………すぅ………」


咲「あんたの背中でぐっすりね、望ちゃん」


蒼「神社を出てすぐに電池が切れたな」


咲「とりあえずあんたの部屋に運んであげなさいな」


蒼「やっぱり俺の部屋なのか」


………


蒼「ふう、ぐっすり寝てるよ」


咲「っぷはぁ!」


蒼「帰りしなに酒かい」


咲「たまにはいいでしょ。あんたは相変わらず飲まないの?」


蒼「付き合いでたしなむ程度だよ」


咲「ま、それくらいがベストよ。私みたいにお酒が生活の1サイクルにならなきゃ」


蒼「悪循環だな」


咲「ま、大人は色々飲みたくなるのよ。ところで、あんたはどうするの?」


蒼「何がだ?」


咲「あんたは二人のうちどっちを選ぶのかってことよ」


蒼「はて?二人とは?」


咲「見え透いてるのよ。とぼけかたが」


蒼「と言われても、望は出自がわからないし、明乃はまだ高校生だ。考える以前の話だよ」


咲「あのね、それは倫理上の建前でしょ?あんただって気付いてるんでしょ。二人の気持ちに…」


蒼「………まあ、薄ぼんやりとは」


咲「あの二人だって建前の話はわかってるはずよ。その上でこうしてあんたを選んで付いてきてくれるし、あんたに話しかけてる」


蒼「だが、これだけ近くで二人が好きだと近付いてしまっては…」


咲「まさか、後の事とか考えてるんじゃないでしょうね?」


咲「…多分、望ちゃんも明乃ちゃんもお互いが誰を好きなのかは知ってるはずよ」


蒼「………」


咲「だから、お互いに相手が決めた人なら仕方がないとも思ってるはず。つまり、二人にとってはあんたに決めてほしいのよ」


蒼「俺は…」


咲「都合よく、明日は夏祭りよ。恐らく二人もその日に何かあるんじゃないか…あってほしいと思ってるんじゃないかしら」


蒼「………気の早い話だ」


咲「でも、短い付き合いでもないんでしょ」


蒼「…考えとくよ。しかし、帰ってきて間もないのによくそんなに気づけるのな」


咲「わが子を取り巻く環境の変化に対応してこその母親よ。それに、置いていった一人の息子のことが心配でたまらないのよ。私って人はね」


蒼「それでも、ここに帰ってくるつもりは…」


咲「ないわね。その辺はいずれあんたにも話してあげるわよ。もしかしたら、意外と早く話さざるを得ないかもしれないし…」


蒼「じゃあ待ってるよ。おやすみ」


咲「えぇ、おやすみ」


………


蒼「どっちが好きか、ねぇ」


蒼「…そりゃぁ気づいているさ。そう思える言葉は二人から充分聞いてるしな」


蒼「その上で、俺は………」


Date-08/08

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