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望「おはよう、蒼人くん!」


蒼「おっす、お前も少しずつ料理ができるようになったな」


望「まだ焼くだけだけどね。はい、目玉焼き」


蒼「じゃあ代わろう、サラダがあったはずだから飲み物と一緒に頼む」


望「はーい」


望「今日のお仕事も遅くなる?」


蒼「あー、そうだな。もうじき始まる夏祭りの準備だし、ましてや作業も中盤。また夜が長くなるだろう」


望「そっか…」


蒼「だが、それが終われば明日は休みだ」


望「ほんとっ!?」


望「また、クレープ食べたい!」


蒼「食い意地優先かよ」


望「それに、あの日見ただけでももっと楽しそうなことがいっぱいありそうだった」


蒼「モールが初めてなお前にとっては、全てが未体験だろうな」


望「もう一度、出来れば行ってみたい」


蒼「お前、いい意味で遠慮しなくなったな」


望「だめ、かな?」


蒼「これっぽっちも」


望「じゃあ…」


蒼「せっかく買ってもらった服を着回さないのも勿体ないし、明日は出掛けようか」


望「………うん!」


蒼「じゃ、朝飯にするぞ」


………


蒼「じゃあ行ってくるよ」


望「うん、行ってらっしゃーい」


パタン


蒼「…あいつが居候して、もう一週間か」


蒼「あれから部長と話もしてるが、今のところ望に関する話は出てこないな」


蒼「代わりに、あいつの料理のスキルがちょっとずつ上がっている」


蒼「というか、愚直に話を聞くことが幸いして家事スキルが浅く広く延びていってる。だんだん居候と言うより同棲に近くなってきた」


蒼「果たしてそれが良いのか悪いのか………」


明(あっ)


蒼「ん?」


明(お久しぶりです、蒼人さん)


蒼「おぉ、明乃か」


明(ここ数日神社に来なかったので気になってた所ですよ)


蒼「すまんな。ちょっと色々立て込んでたんだ。で、明乃は今日も制服で何処へ?」


明(残念なことに今日は補習日です)


蒼「そりゃご愁傷さま」


明(………あれ)


蒼「どうした?」


明(蒼人さん、なんだか素敵な香りがします)


蒼「香り?」


明(髪とか服とか…洗うもので、何か変えましたか?)


蒼「…そういえば、近頃自分の使ってたシャンプーが切れたから望のやつをたまに借りてるな」


明(のぞみ?)


蒼「あぁ言ってなかったな。実は家に居候が出来たんだよ。ちょっと訳が多すぎて説明できないんだが…」


明(それがのぞみ…さん?ですか)


蒼「あぁ、俺がゼリーを持って神社に行った日があっただろ?」


明(はい)


蒼「あの後、出てすぐのバス停で望が倒れてて、ちょっとした知り合いってよしみもあって家に運んだんだ」


明(誘拐ですか?)


蒼「人聞き悪すぎだろ」


明(もしかして、最近神社に来なかったのも…)


蒼「まあ、そう言うことだ」


明(なるほどです)


蒼「それで、明乃は時間はいいのか?」


明(あっ)


蒼「また神社でゆっくり話そうか」


明(はい、それでは失礼します)


タッタッ………


蒼「…あ、明乃に望の事聞くの忘れてた」



………



部「さぁて!屋台組みの受注は昨日で終わったから、もうこれ以上追加が入ることはなくなったわぁ」


牧「とは言っても…」


芙「二十日後納品で46台…」


蒼「一日2台以上だな」


牧「集約受注って怖い」


芙「私たち、生きてられる…よね?」


部「今年は50店舗中46店舗をかき集めたわぁ。最高記録ね」


牧「部長がやけにご満悦なのはそれが理由だったか」


芙「朝からルンルンだったもんね」


蒼「あれは悪魔の愉悦だったわけだ」


部「あおとくーん、聞こえてるわよ~?」


社「でも、厳司君に任せてから屋台製作の請け負いが増えたのはいいことだよ」


部「あら社長。お疲れさまです」


蒼「お疲れさまです」


牧「お疲れさまです」


芙「おつかれさまです」


社「人数も少ないこの小さな製作所がこれだけ活躍できるのはとても嬉しいね」


社「沢山注文をとりすぎて大変だと思うけれど、僕も時間があったら手伝うから頑張ってね」


部「もちろんですとも!」


社「祭ヶ原君もこの間の商談はありがとね」


蒼「仕事ですから」


社「はは、それじゃあ僕は出事があるからあとは頼むよ」


部「さて、社長からの応援も戴いたことだし、今日の内に2台でも造り上げて基盤を作っておきましょ」


蒼「じゃあ工場こうばの空調回してきますね」


牧「俺は材料のばらしに行くから芙由、図面を要る分だけ運んでてくれ」


芙「うん。あとお水も…」


部「組み立て指示は、最初はアタシの仕事ね。あとは…芙由ちゃん。補給用品はとかはアタシが運ぶわ。どうせ先に付いてなきゃならないんですもの」


芙「あ、はい。それじゃあ私は図面を」


部「五つくらい持っていってちょうだいな、そこから簡単なのを選ぶから」


………


牧「蒼人ー、31b-6、7、8用意してくれー」


蒼「あれ、今組んでるのは17なんじゃなかったか?」


芙「17は私と部長ですよー」


部「早いわねー。もうb組に取りかかってるの?」


蒼「えっと6、7、8と…重っ!?」


牧「おっと、大枠か」


蒼「釘が足らんかもしれん」


牧「おいおい、一週間前くらいに箱買いしたはずだよな?」


芙「向こうの31の屋台、もしかして釘が一番多い屋台でしたでしょうか?」


部「大丈夫よ。これよりさらに釘の多い台もあるから」


芙「それは大丈夫とは………」


………


社「ただいまー、僕も手伝わせてよ」


蒼「じゃあこっちが完成近いんでお願いしても良いですか?」


牧「先に組み上げてしまいましょう」


社「うん、いいよ」


部「はい、お水」


芙「あっ、ありがとうございます」


牧「ふゆー、一緒に飴も食べとけよー」


芙「うん、そうするね」


蒼「考えたら、女の子には過酷な作業ですね。真夏の工場こうばで業務用扇風機三台のみで製作って」


社「芙由ちゃんはよく受けくれたと思ってるよ」


牧「あまり無理はさせないようにします」


………


蒼「っだぁーーーー………!!」


社「お疲れさま、こっちは完成のようだね」


牧「案外…はぁ……出来る……もんすね……はぁ…」


芙「こっちはまだ半分くらいですね」


部「でも、このペースならいい具合に納期通りで行けそうだから、焦る必要はないわ」


部「じゃあキリのいいところでお昼休みにしましょうか、再開は…13時半で行きましょう」


牧「長めっすね」


部「お昼ついでに懐かしのチューペットを凍らせてるのよ。それの時間もプラスよ」


蒼「懐かしい氷菓ですね」




蒼「………で」


牧「ん?」


芙「?」


部「どうしたのよ?」


社「チューペット、早く食べないとジュースになるよ?」


蒼「俺、一人で一本ですか?何か申し訳ないような」


部「アタシが」


蒼「いえ」


部「即決なんていけずね」


蒼「さてどうしたものか」



明(あっ、蒼人さんはここでお仕事していたんですね)



蒼「ん?」


部「いらっしゃい。蒼人くんのお知り合いかしら?」


明(はじめまして、私は更月さらつき 明乃あきのと言います。冷泉れいせん神社に暮らしています)


蒼「明乃か、ちょうどよかった」


明(はい?)


ポキッ


蒼「ほら、補習帰りのお土産だ」


明(ずいぶん懐かしいものですね。いただきます)


部「冷泉神社に住んでるって行ったけど…」


明(決してホームレスとかではなく、冷泉神社が私の実家なんです)


社「あぁ、よく知ってるよ。しのぶさんはお元気にしてらっしゃるかな?」


明(あっ、おばあちゃんは六年前に…)


社「なんだそうなのかい?元気で凛とした人だったのにね…」


蒼「社長は冷泉れいせん神社を知っているんですね」


社「まあね、お祭り屋台の製作の遠いきっかけになる場所だからねえ」


牧「そう言えば、冷泉れいせん町にも祭りがあったんでしたね」


明(それで、皆さんは何を?)


蒼「俺たちは祭り屋台の製作だ。こっちの町でもうすぐ夏祭りがあるからな」


明(夏祭り…ですか)


社「冷泉町出身の、しかも神社の娘である君にとっては複雑な催し物かな?」


明(いえ、おばあちゃんがいなくなって、今の神社にはそれを指揮する力はありませんから。今は感慨もありません、今は)


蒼「あ、アイス溶けるぞ」


明(あっ)


芙「あぁ、制服にっ!」


明(むぅ、洗えばすぐにでも落ちますが…迂闊でした)


蒼「ふき取りの出来るきれいな布はないものか…」


芙「私、ハンカチ持ってます。明乃ちゃん、ちょっと拭かせてもらうね」


明(あ、ありがとうございます)


………


明(アイス、ごちそうさまでした)


明(お祭りが始まったら、私も見に行きます。蒼人さんや皆さんがこうして頑張ってる事を思い出しながら)


蒼「それはどうも」


部「いつか、冷泉れいせん町でもお祭りできるといいわね」


明(それはとても嬉しい事ですね。では、神社のお手伝いがありますので)


部「冷泉れいせん神社の小さな巫女さん…かしら?」


蒼「本人は巫女は否定してましたけどね」


芙「あんな姿を見てると、何か出来ないかと考えてしまいますね」


牧「だなぁ。頑張ってる姿をただ見てるだけってのも」


社「確かに可哀想だけど、道筋なくいたずらに盛り上げてもあの子や親御さんも困るだろうね…」


社「冷泉れいせん町が不思議な町だった頃ならまだしも、それも遠い昔の話。しかも、忍さんはお祭りをやめた張本人だし…」


蒼「明乃の祖母でしたっけ?どうしてまた」


社「詳しい話は僕も知らないね。いつの間にか冷泉れいせん町でお祭りをしなくなってて、それがこの町にシフトした感じだよ」


社「ま、そんなあの子を応援したいのもわかるけど、まだこっちの町の屋台組みは始まったばかりだし。今はこっちに集中するよ」


部「はぁい。それじゃあ作業再開と行きましょうか」


芙「私たちは続きを」


牧「じゃあ次作ろうぜ。6番だったかな?」


蒼「6aと…」


………


社「じゃ、みんなお疲れさま」


部「また明後日ねー」


牧「お疲れさまでしたー!」


芙「お疲れさまでした」


蒼「お疲れさまでしたー」


牧「結局、俺と蒼人と社長の班で2台」


芙「私と部長が一台」


蒼「一日辺り三台のペースか」


牧「このまま行けばいいペースだな」


蒼「お前、楽観的だな」


牧「へっ?」


芙「期間の間に私たちの定休は六日あるから、残りの台数を13日で仕上げないといけないよ?」


牧「ってことは………あれ」


蒼「今のままなら間に合わんな」


牧「マジですかー…」


蒼「ペースを早めるか、休みに出勤するか、俺たちで考えうる範囲ではどちらかだろうな」


芙「多分、部長も社長もそこは考えてるんだろうけど…」


牧「急に休みがなくなるのは勘弁だぜ、デート出来なくなるしよー」


芙「それは…まぁ…」


蒼「公私混同をするなよ」


芙「とりあえず、今はこのペースで頑張っていって、安定して組めるようにした方がいいと思う」


蒼「それもそうだな。台数請け負っておいて適当な事でもしたら会わせる顔がない」


牧「今はこのまま、そして明日は休み、と」


蒼「またデートか?」


牧「いや、明日は芙由が別の用事さ」


芙「私が高校の同窓会に呼ばれてるんです」


牧「と言うわけで俺は暇なのさ」


蒼「そうかい」


牧「お前はなんか用事か?暇ならカラオケでも付き合えよ~」


蒼「生憎俺も予定が入ってる。すまんな」


牧「なんだ?お前の方こそデートかよ?」




蒼「………いや、違うな」


牧「なんだ今の間は?」


芙「蒼人さん、デートなんですか?」


蒼「違うと信じたい」


牧「まさか、さっきの神社の女の子とっ!?」


芙「えっ!?」


蒼「二人揃ってアホか」


蒼「いや…家に居候が転がり込んできてな。そいつが明宮あけのみやに行こうって言ってるものだから」


牧「居候!?初めて聞いたぜそれ」


芙「でも、私が訪ねたときには居ませんでしたよね?」


蒼「その直後なんだ」


牧「それって女子か?女子なのか!?」


芙「まきとくーん……?」


牧「いやぁその…気になるじゃん?なはは…」


蒼「奇しくも女の子だよ。なんと言うか、そいつの素性とか諸々がよくわからんものだから今まで言わななかったんだけど…」


牧「なるほどな。もしかして、最近なんか変わったっぽかったのはその子?が理由なのか?」


蒼「変わったかどうかは知らないが、否定はしない」


牧「しかしよかったな。両親が家から離れて一人だったんだし」


蒼「期限つきだがな。身元さえわかればそれまでの居候だよ」


牧「でも、最近のお前を見てるとその子にはそのままいてほしい限りだ」


蒼「と、言うと?」


牧「前の芙由の話を引き合いに出すわけじゃないけど、お前ほんとに鉄仮面だったからさ」


牧「何て言うか…追われてるでもなし、余裕があるわけでもなし、なんかこう複雑そうな顔をよくしてたから」


蒼「俺、そんなに七面相してたのか…」


牧「で、落ち着いたら元の無表情でさ。なんか勿体無いなーって思ってた」


芙「時々牧人くん言ってたね」


牧「だからさ、ちょっと安心してたんだよ。何かしら変化のあった蒼人にな」


蒼「………そうか」


牧「そう、その自然な笑顔!そう言うのが見たかったんだよ。ほら、もっと笑って見せてくれよ!」


蒼「よし顔を貸せ、ブン殴ってやろう」


牧「わー、素敵な笑顔だー」


………


蒼「ふぃー」


蒼「話が弾んだ上に買い出しまでやったら大分遅くなった」


蒼「もう10時過ぎてるし、望は寝てるかもしれんな」


蒼「鍵、鍵と…」


(蒼人さん)


蒼「お?」


明(こんばんは)


蒼「明乃か?どうしたんだこんな夜遅くに」


明(この間のゼリーのお礼をしようと思って、家で作りすぎて余った煮物を持ってきたんです)


蒼「持ってきたって、こんな夜に?」


夜「こんばんは、蒼人さん」


蒼「あぁ、お母さんと一緒にですか」


夜「明乃がどうしてもお礼をしたいからと」


蒼「夜分遅くまで待たせてしまい、申し訳ありませんね。でもよく家がわかりましたね」


夜「祭ヶ原さんはこの辺ではお宅しかありませんから…」


蒼「あぁ、特徴的な名字ですからね」


明(どうぞ)


蒼「ありがとう、明乃」


夜「じゃあそろそろ帰りましょうか。もう夜も遅いし」


明(うん)


蒼「あ、タッパーは今度神社に行くときにお返しします。多分明日とか」


夜「ありがとうございます」


明(それじゃあさよならです)


蒼「あぁ、また神社で」


蒼「…煮物か」


………


蒼「ただいま。もう寝てる………か?」


すぅ………すぅ………


蒼「部屋で寝ればいいものを、なぜリビングで、しかも寝巻きに着替えることもなく…」


すぅ………すぅ………


蒼「………ん、白か」


望「んー…あれ、あおとくん?」


蒼「おはよう」


望「わたし、ねむってふぁ~……」


蒼「スカートのまま、な」


望「すかー………」


望「っ!?」


蒼「おお、察したか」


望「蒼人くんのえっち…」


蒼「それはさておき、もう飯は食ったか?」


望「あぁうん、ちょっとだけ」


蒼「さっき知り合いから煮物のお裾分けをもらって、俺は今から晩飯なんだ」


望「へぇ」


蒼「明日に残すのもいいが、少し食べてみるか?」


望「うん。お夕飯少しだったし、もうちょっと食べたいかな」


蒼「なら準備だ」


望「ん~、優しい味だね」


蒼「お袋の味ってやつかな、尤も、俺のお袋は今は遠い所にいるが。物理的に」


望「突っ込みづらい自虐は困るよ」


蒼「最近は望と作ることもあって煮物とか作らなかったからな」


望「今度、作ってみたいな」


蒼「じゃあ次は煮る料理だな」


望「で、明日はお出掛けできる?」


蒼「あぁ。それは大丈夫だ」


望「クレープ!」


蒼「食い気味だな。それだけ声を張れるななら大丈夫だな」


望「うん!体調は大丈夫。ほら」


蒼「冷たっ!」


望「ね?」


蒼「それだけ冷えてれば問題ないな」


蒼「後は、明日の為にお前もそろそろ寝ろよ」


望「うん、身体を洗ってからおやすみするよ」


蒼「なら先に入ってこい。俺は片付けしてるから」


望「わかった」


タッタッ…


蒼「明日、行き掛けにタッパーを返しに行こうか」


Date-07/18

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