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蒼「結局、のぞみは俺の布団で眠って、俺はこいつの様子を見ながら一夜を越したわけなのだが」


蒼「昨日に比べたら大分息づかいは落ち着いたようだな」


蒼「ふぁ~…俺は何時間眠れたんだ?なんか5時くらいまで起きてたような」


望「………ぅ」


望「う………ん…」


蒼「ん、起きたようだな。さて、雑炊をっと…」


望「………あれ、ここは」


蒼「よう。どうやら峠は越えたみたいだな」


望「あおと………くん?」


蒼「おう、祭ヶ原蒼人ご本人だ」


望「わたし………どうして」


蒼「覚えてないのか、お前昨日バス停で倒れてたんだよ」


望「バス停…あぁ、そっか」


蒼「そんで、息も絶え絶えだったお前を俺のうちまで運んだ」


望「ここ…蒼人くんのお家なんだ」


蒼「どうして、お前は倒れてたんだ?」


望「それは………う~ん」


蒼「…額、貸してみろ」


望「ぁぅ」


蒼「…お前の体質もあってよくわからんけど、まだ体調は万全ではないみたいだな」


望「身体、少し重い…かも」


蒼「なら質問はやめだ。いま雑炊作ってるから少し食べておけ」


蒼「お前、熱いのは大丈夫か?」


望「人並みのものは、大丈夫…だよ」


蒼「そうか」


望「蒼人くん、ありがとう…それと、ごめんね」


蒼「ありがとうだけ受け取らせてもらう」


望「そっか………」


………


蒼「ほいよ、鮭と玉子の雑炊だ」


望「…おいしい」


蒼「体調崩しての起き抜けの食事だ。ゆっくりでいいからな」


望「ありがとう、これなら元気になれると思うよ」


蒼「そりゃどうも。それで、落ち着いたらでいいんだが………」


望「うん、私があそこにいた理由だよね」


蒼「しかも、身体崩してまで」


望「そうして蒼人くんに介抱してもらってる」


蒼「冗談はいい、どうしてお前は…」


望「………この前、蒼人くんと買い物に行って、蒼人くんと別れたあとからね、おかしくなったの」


望「普通なら、私は陽が落ちるとスゥっと意識が落ちていって、身体がまるでそこに無いみたいになって、気がついたら朝になってあの自販機の前に立ってる………」


望「おかしいと思うかもだけど、本当の話だよ?」


蒼「あぁ………今は鵜呑みにしよう」


蒼「つまり、夕方になると電源が切れたように眠って、翌日の朝には何事もなく自販機の前にいるってことだな」


望「うん。その間私に何が起きてるかはわからないけど」


蒼「で?昨日はどうして?」


望「………あの日、そう、蒼人くんと買い物に行った日」


望「いつものように意識がなくなるのかなぁ…って思ってたら、夜が暗くなっても全然そんなことはなくて、自販機の前で眠るように目を閉じてみたけど全然眠れなくて」


望「それで、考えてるうちにまた雨が降り返してきて…どうしていいかわからなくて暫く雨に濡れてたんだ」


蒼「つまり、あの日雨に濡れてそのままにしてたせいで体調を崩したわけか…」


望「結局、暫く自販機の前に座り込んでた。どのくらいかも分からないぐらい座り込んでたよ」


蒼「まったく…そりゃ身体もどっかおかしくなる。しかも女の子が野外で野ざらしで野宿なんて、狂気の沙汰でしかない」


望「おっしゃる通り…返す言葉もないよ」


蒼「それで、そこからは戻れたのか?」


望「ううん、結局今日まで普段通りの…私の普段通りの生活には戻れなかった。眠るのも眠れなくて、雨も心配で、それで意識も悪い意味で途切れ途切れになってて…」


蒼「あの始末、か」


望「………蒼人くん」


蒼「なんだ」


望「私、どうなっちゃったんだろう?」


蒼「望…」


望「私、恐いよ………自分がわからない…から………う」


蒼「落ち着け、今考えても何も出ない」


望「うぅ………」


蒼「今は体調を整えるのが先だ」


望「蒼人くん……」


蒼「元気に動けるようになるまでくらい、ここに居ても大丈夫だ。一人には広すぎる家だからな」


望「………うん」


蒼「とりあえず、今は食べておけ」


望「…本当にありがとう」


蒼「…とは言っても、俺もこれから仕事なんだよな」


望「ああ、蒼人くんはお仕事する人だったね」


蒼「お前、今日は出掛けたりしないよな。な?」


望「う、うん…そんなに念押ししなくても、今日は動かないよ」


蒼「なら俺は、気がかりだが仕事に出るよ」


蒼「冷蔵庫に雑炊の残りを入れておくから、食べれるようならレンジで温めて勝手に食べていいからな」


望「え、あ…うん」


蒼「それと………今は寝るか休むか食べるか、テレビだって見てていいから、とにかく変に考え込まないことだ」


望「はーい…」


蒼「それじゃ、行ってくる」


望「いってらっしゃーい」



………



牧「珍しいな、蒼人が早出なんて」


蒼「ああ、ちょっと野暮用がな…」


部「んもう、いきなりアタシに近づいてきてお話があるって言ったから何のラブコールかとびっくりしちゃったわよ」


蒼「それは部長の一方的な勘違いです」


部「ま、蒼人くんの事情はわかったわ」


部「最近いっぱいお仕事してくれたから少しくらい融通を利かせても問題ないわよ」


蒼「ありがとうございます」


芙「えっと…頑張ってくだ…さい?」


蒼「ああ、その言葉を受け取っておくよ」


牧「なんかできることあったら遠慮なく言ってくれよ」


蒼「ありがとうな」


………


蒼「さて、1時か」


蒼「まずは食料の買い出しと風邪薬はあったはずだから………それに」


蒼「………服」


蒼「あいつ、着替えなんて持ってなかったよな?見る限りあの白いワンピース一着だけだし…」


蒼「普通に切るものなら百歩譲って母さんのがあるけど…」


蒼「………下着」


蒼「あいつ……はいてないなんて事はないよな?」


蒼「なにバカなこと考えてんだ俺は」


蒼「うーむ、どうしたものか。さすがに下着までお下がりを使うわけにも………」


蒼「まあ、その辺はあとで考えよう。今は何より体調優先だ」



………



蒼「二人分の買い込みとなると、さすがに量も値段も張るな。あいつがどのくらい家にいるかもわからないわけだ、少し長い目で見た方がいいだろう」


蒼「………本当に、あいつは一体何なんだろうな」


蒼「気がつけば自販機の前にいて、冷泉れいせん町を歩き回る。物を冷やしたり自分が涼しくなったり、まるで夏を打ち消すような体質。そして、不意に自分の居場所を無くした………」


蒼「………いや、考えすぎか。さすがにそこまで偶然が重なるなんて事はないよな」


蒼「さて、帰りついたか」


カチャ


蒼「ただい………ま?」


望「うぅ………」


蒼「のぞ…み………?」


望「あ、あお…と……くん」


蒼「おい!どうして玄関で倒れてんだよ!おい、のぞみっ!!」


望「…おなか………」


蒼「へっ?」


望「おなか………すいたよぉ………」


蒼「………はあ?って言うか、とりあえず床で寝るな、ほら担いでやるから。うわ、なんか床がひんやりしてる」


望「うぅ~………」


蒼「で?なんであんなところで腹空かして倒れてたんだよ?言ったよな、雑炊があるから温めろって」


望「それが…どれがレンジかわからなくって」


蒼「わからないって…おま」


望「だって、電子レンジって名前だけしか聞いたことなくて…」


蒼「お前はいつの時代の人間だっての」


望「ご、ごめんなさい…私また蒼人くんに心配かけちゃったね」


蒼「はぁ………まぁ、ほんとに倒れてしまってた訳じゃないからよしとするよ。それに、教えてなかった俺の落ち度もあるし」


望「ほんと、ごめんなさい」


蒼「それで、体調はどうだ?」


望「ずっと横になってたから大分よくなったよ」


蒼「どれ、額貸してみろ」


望「んっ」


蒼「…冷てぇ………」


望「そりゃあ、ね?」


蒼「ま、まあそんだけ冷えてるんならある程度は大丈夫なんだろう。身体はどうだ?」


望「ずっと寝ててちょっと重く感じるくらいかな」


蒼「ならよかった、じゃあ雑炊を少しと…小鉢を少し作ろうか」


望「何だか、さすがにお世話になりすぎてる気がするよ」


蒼「まったくだ」


望「ぁぅ」


蒼「だが、曲がりなりにも病人だ。今は世話になっとけ」


望「蒼人くんは優しいね」


蒼「いらぬ優しさで自分の首を締めてる感はあるんだがなぁ…」


望「優しいことはいいことだと思うよ」


蒼「そうは言われても…っておい、望」


望「なぁに?」


蒼「ソファの上で体育座りなんかしたらパンツ見えるぞ?」


望「!?」


望「蒼人くん、えっちな上にデリカシーがないよ」


蒼「あぁ、すまん。だがちょっと気になってたんだよ」


望「私のぱ…パン、ツ……が?」


蒼「お前、昨日からその格好のままだろ?それに、雨に濡れたり汚れてたりして気持ち悪いだろう?」


望「それは、まぁ」


蒼「べつに下着がどうと言う訳じゃないが、洗濯はした方がいいだろうと思ってたところだから」


望「それと、私のパンツを見ることとなんの関係があるの?」


蒼「はいてるかどうか…」


望「そりゃはいてるよ!それにちゃんとブラだって………っ!!」


蒼「言っておくがブラの話をしたのは他でもないお前だからな?その件は俺は無罪だ」


望「っ~~~………!」


蒼「涙目で訴えられても…」


望「とっ、とにかくっ!女の子としての身だしなみはちゃんと整えてるのっ!」


蒼「あぁ、よくわかったよ」


蒼「とりあえず、俺の母さんの服があるから、上着はそれを貸してやるよ」


望「いいの?」


蒼「今の家主は俺だ。父さんも母さんも好き勝手に出ていったわけだしな」


望「…そういえば、そんなこと言ってたね」


蒼「気にするな、別に俺と不仲な訳じゃないから」


蒼「そんなわけで、飯を食ったらちょっと見繕ってみるからな」


望「うん」


蒼「今着てるのに近いワンピースとかあれば楽なんだが」


望「ふふ、白のワンピースならどこにだってあるから、私は出来れば変わった服も着てみたいな」


蒼「贅沢言うんじゃありません」


望「えー」


………



望「ごちそうさまでした」


蒼「お粗末様でした」


望「やっぱり蒼人くんは料理が上手だね」


蒼「やっぱりとは」


望「雑炊だって美味しかったし、この鶏肉の小鉢もとっても美味しかったから」


蒼「男の料理の延長さ。会社の女の子の方がよっぽど上手だよ」


望「でも、蒼人くんの料理は体調がよくなかった私にちょうどよかった。蒼人くん、考えてくれてたんでしょ?」


蒼「…薄口なだけさ」


望「ふふっ、だから"料理が上手"なんだよー」


蒼「それだけものが言えるんなら大丈夫そうだな」


望「おかげさまです」


………


蒼「とりあえず、何着か引っ張り出してきたが」


望「蒼人くんのお母さんって、ちょっと派手な色が好きなんだね」


蒼「そうだな、予想通りと言うか、赤に青に、白黒…」


望「でも、スカートはあまりないよね。」


蒼「とりあえず、もう少し出してみるから、好きなのを着合わせてみればいい」


望「蒼人くんのお母さんにありがとうだね」


………


望「さーて、これでどうかな?」


蒼「ふむ、薄紅の上着か。髪色のおかげで大分賑やかになった」


望「それ、誉めてる?」


蒼「そのつもりだ」


望「言い切られると何も言えない…」


蒼「スカートは…まぁ賑やかな感じでいいじゃないか」


望「それ誉めてる?」


望「なんか、賑やかで片付けようとしてない?」


蒼「半分くらい、な」


望「もー!」


蒼「まあそれはともかく、着てたものを洗っておくぞ」


望「あ、うん。ありがとう」


蒼「気になるだろうが下着も洗うからな」


望「う~ん…仕方ないかな」


望「すーすーするよ」


蒼「我慢してくれ」


望「下着も借りちゃ…悪いよね?」


蒼「そこは俺に聞くな」


望「とりあえず、見ちゃダメだからね」


蒼「ならスカートを穿はくなよ」


望「ズボンには慣れないから」


蒼「わがままだなぁ」


望「反省はしてるつもりです」


蒼「とにかく着て歩ける服はあるようだな。なら今は寝間着を探しておこうか」


望「パジャマとかもあるの?」


蒼「さすがにあるだろう」


望「あっ、この黄緑の上下!これパジャマだよね」


蒼「みたいだな」


望「ちょっと着てみるね…って、見ないでよ」


蒼「へいへい、じゃあ洗濯をしてくるよ」


蒼「よいしょ…っと」


蒼「洗濯と乾燥…と」


蒼「寝て起きれば終わってるだろうな」


望「ねえねえ蒼人くん」


蒼「ん?」


望「どう?似合ってるかな?」


蒼「それなりに。足元が少し余ってるか?」


望「ちょっと長いかな」


蒼「スリッパでもはけば何とかなるだろ」


望「そうだね」



………


蒼「そろそろ夜か、望」


望「うん?」


蒼「ちょっと額を貸してみな」


望「あ、うん」


蒼「…まだあの冷蔵庫みたいな体温になってないな」


望「私って、そんなに冷たかった?」


蒼「もうちょっと様子見だな」


望「わかったよ」


蒼「さて、俺もそろそろ寝るよ。明日も一応仕事だしな」


望「あ、うん。私は…?」


蒼「そうだなぁ…母さんの部屋も二階にあるから、そこで寝ればいいさ」


望「そっか…」


蒼「なんだ?残念そうに」


望「ううん、何でもないよ」


蒼「ならいいが、それじゃおやすみ」


望「うん。おやすみなさい」


Date-07/08

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