page.2 Date-07/05

蒼「はぁ」


蒼「暑い暑いと昨日さんざんぼやいていたけど」


蒼「なんでよりによってせっかくの休みの日が雨なのか」


蒼「何もない所でも、せっかくなら歩いてみようかと思ってたんだが」


蒼「しかも今日は一日中雨らしい」


蒼「ここは大人しくテレビでも見てる方が有意義かもしれん」


蒼「これなら昨日の方がよっぽどましだった」


蒼「昨日か…」


蒼「………あのは、暇をしているんだろうか」


蒼「出られない日に会わない人間の事を考えてもしょうがないか」


蒼「………飯」


蒼「あぁ、昼飯のこと考えてなかった」


………


蒼「うわ、食材が少なくなってきてるな。野菜も…肉も…魚はいいか」


蒼「たまごは…あと2個、心許ないな」


蒼「ってことは、否が応にも買い出しは必須か」


蒼「この雨の中を出歩けって?何と言う悪戯な日だ」



………



蒼「俄かに雨足が強くなってきたな。七分丈にして来ればよかった」


蒼「雨が上がったらコインランドリーは決定だな」


蒼「そう言えば、ここの逆道は」


蒼「………やっぱり、昨日の自販機だ」


蒼「全部補充されてる…是非もなしか。お、ココアがアイスになってる」


蒼「せっかくだから何か買うか」


蒼「お茶の一つで買って飲みながら店に…」




えいっ



ガコン



蒼「ん?」


蒼「………だーーっ!?」


望「おやおやぁ、こんな雨の日にお出掛けなんてあなたも好きだね」


蒼「お・ま・え・はぁ……っ!!」


望「いっ!?いたたた、ほっぺたひっひゃんないへーーー!!」


蒼「全く………雨の日がどうこう言うならお前だって同じだろうに、お前も買い出しか?」


望「ううん、雨が降ってて散歩が出来なかったから暇だったの」


蒼「暇潰しが人の飲み物を無理矢理決めることなのか?」


望「それも楽しいけど…ひゃーー!?」


蒼「じゃあ俺はお前の頬をつねるのを日頃の楽しみとしよう」


望「もう、蒼人君って結構いじめっ子?」


蒼「自覚はないな」


望「むー」


蒼「またココアか…」


望「冷やす?」


蒼「アイスのココアを冷やしたら凍るんじゃないか?」


望「さすがにココアは凍らないよ」


蒼「だよなぁ………ココア?」


蒼「って、こんなところで雨の振る中立ち話もアレだな。スーパーに買い出しに行くんだが、付いて来るか?」


望「うん。暇だったから付いて行くよ」


蒼「今更かもしれんが、昨日と同じ白いワンピースなんだな。濡れると大変そうだ」


望「蒼人君はそんなハプニングをご所望かな?」


蒼「なったら嬉しいが」


望「うわ、変態」


蒼「気持ちに忠実なだけだ」


望「裏付けまでついた!?」


蒼「とりあえず移動するぞ」


望「ごまかした」


蒼「やかましい」



………



蒼「ふいー、とりあえずスーパーには着いたが、足元が大分濡れちまったよ」


望「びしょびしょだね」


蒼「よく見りゃお前、素足なのな」


望「うん、靴下は慣れなくてね」


望「あとこういう時に靴下はいてると濡れた靴下がね…」


蒼「もしかして、凍るのか」


望「………」


蒼「まじなのか」


望「まぁ、そんなこともありました」


蒼「そりゃご愁傷様。しかし不思議な体質だな。ただの冷え性みたいなものじゃなくて、実際に冷やせるんだからな」


望「お年寄りの人とか私をありがたがってるよー」


蒼「冗談抜きに助かるだろうよ。夏が暑いほどな」


望「どうしてだろう、あなたが素直に誉めると身構える」


蒼「失礼な」


蒼「さて、買い出しをするが付いて来るか?」


望「んー…そうだね、じゃあお言葉に甘えて」


蒼「お前、本当に何かを甘えるつもりだろ」


望「なーんのことかなー」


………


望「あ、ねぇココアあるよココア!」


蒼「俺がいつココアが死ぬほど好きだと言った?」


望「………えっ、違うの」


蒼「わざとらしいんだよ」


望「あはは。けど、あなたは家事をするんだね」


蒼「ああ、一人暮らしだからな」


望「ふーん」


蒼「両親は揃って他所に住んでる。俺が今いるのが本来の実家なんだが、父さんも母さんも性に合わないって出ていったんだよ」


望「蒼人君は寂しくないの?」


蒼「そう考えたことはないな。毎月二人から何だかんだ家の維持費が来てるし、俺も今は働いてるからな」


望「………そっか」


蒼「ん?」


望「…あ、そうだ。ねぇ、私アイス食べたい」


蒼「アイス?いきなりなお願いなことはさておき、何だ急に?」


望「いやぁ、見たことはあるんだけど私あんまりアイスって食べたことないから」


蒼「人間アイスキャンディーみたいな奴が?」


望「もーっ!いじわる」


蒼「わかったわかったよ。なんか一つ取ってこい。高い物はなしだぞ」


望「またまたゴチになります!」


………


望「はーむっ!………ねえ?」


蒼「なんだ?」


望「あなたはどうして一人暮らしをしてるの?」


蒼「仕方ないだろ、成り行きさ」


望「そうじゃなくて、両親についてくことも出来たのに、どうしてかなぁ…って」


蒼「あぁ………そうだなー」


蒼「………俺自身が一人でいる理由か、確かに考えたことないな」


望「考えなしだー」


蒼「つねるぞ」


望「んー、久しぶりのカップアイスもおいしー」


蒼「無視かい」


蒼「そう言うお前はどうなんだよ?さすがにお前のような小さいのが一人ってのはあり得ないだろ?誰かと住んでるのか?」


望「小さいだなんて失礼だなぁ」


蒼「へいへい、で?」


望「んー………」


蒼「…ん?」


望「ん~?」


蒼「そう言うやり取りは求めてない」


望「ノリ悪いなぁ…と言うか、私、家のことよく覚えてないよ」


蒼「それはどう捉えればいいんだ?聞くに聞けない理由だったら…」


望「あはは、大丈夫だよ」


望「けど、ほんとに私は気がついたらあの自販機の近くにいて、日がな一日、冷泉れいせん町を歩き回って、そして、夜が来たら帰ってる。でも、出掛けた場所も帰ってきた場所も、私は知らないんだ」


蒼「お前………」


望「不思議なんだ。私にどんな家族がいるのかとか、どんな家のどんな部屋にいるのかとか、そういうのが私には全くないの。おかしいでしょ」


蒼「そう、か」


蒼「…お前は、それを笑えるんだな」


望「まあね、そもそも最初から私以外の事は全然知らなかったし。慣れ…なんだと思うよ」


蒼「お前はそれでいいのか?」


望「うーん…好奇心的には知りたいけど、内心はどうかな。どちらかと言えば、の方が強い気がする」


蒼「そうか」


望「そんな私を、あなたはどう見てるの?」


蒼「………なんか、淋しく見える」


望「私は別に淋しくは…」


蒼「"淋しそうに見える"んじゃない、"淋しく"見えるんだ、外から上っ面だけを見た感じだよ」


望「あなたは、私の表面しか見てないの?」


蒼「会って二日の人間だぞ。そんなに深く知るわけもないだろう」


望「それもそっか、内面を知るにはまだ早いと?」


蒼「少なくとも今はお前の底が知れん」


望「でも、淋しく見えるなんて言ってくれたのはあなたが初めてだよ。そういう歯に衣着せない話ぶりは、あなたらしさなのかな」


蒼「悪しき個性だな」


望「ねぇ」


蒼「ん?」


望「はい、最後の一口。せっかくだからあなたもどうぞ」


蒼「お、おう……って、スプーンはもう一つないのか?」


望「ん?これだけだよ?」


蒼「おまっ…いいのか?」


望「?」


蒼「お前さっきまでそのスプーンで食ってたろ」


望「………あっ」


蒼「やっと気づいたか」


望「そ、そっか…これだとその…アレ…だよね………」


蒼「俺はいいから、そのまま食ってしまえ」


望「んーーー………」


蒼「どした?」


望「…いや、これはあなたにあげる。はい、」


蒼「おいまて」


蒼「ただでさえ間接キスで悶えていたのになんでお前はスプーンで掬った最後の一口を俺の口元に持ってきて」


望「はい」


蒼「うっ」


望「はい」


蒼「うーん」


望「はいっ」


蒼「………わかったよ」


望「えへへー」


蒼「楽しそうだな」


望「なにがって訳じゃないけどこういうの、なんか新鮮だから」


蒼「そりゃラッキーなこった」


望「ねぇ」


蒼「今度は何だよ」


望「あなたがもし暇だったら、その…また時々こうして会ってくれないかな?」


蒼「こんなどこの馬の骨とも知れない俺でいいのか?」


望「そういう余計な一言が多いのが、私が出会って二日目のあなただと理解したよ」


蒼「ま、仕事があったり暑さでうだったりと不定期だが、それでもよければ俺は構わんよ」


望「………うん、ありがとう」


望「さて、と」


蒼「帰るのか?よく知らない場所に」


望「帰るんだよ。よく知らない場所に。あっ、あと」


蒼「なんだ」


望「"お前"としか呼ばれてない。せめて"のぞみ"って呼んでよ」


蒼「そんな名前だったな。自販機の時に思い出してたよ」


望「またそういう意地悪を言う…」


蒼「はいはい。じゃあな、のぞみ


望「………うん、またね」


望「………蒼人くん」

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