フリージィ・サマー

黒羽@海神書房

Chapter.1

page.1 Date-07/04



「暑い…」


「7月に入った途端に30度超えてきやがった」


「夏ってのはどうしてこうも暑いのか」


「大体もうちょっと前準備っていうものが欲しいんだよな。そんないきなりスイッチ入れたように気温を…」


「って、うだうだしてても始まらん。飲み物でも買いにいくか」


………


「災難だ」


「この狭い町中、このご時世にコンビニもレアな町で、回った自販機三件連続売り切れなんて………」


「真夏の日常だよなぁ」


「辛うじて見つけた四件目、冷たいものはとうに売り切れてこれとは…」


「"超なめらかミルクココア"…表記が赤いんだよ、温かいって書いてるんだよ、超なめらかとかそういうのいいから」



?「んん?どうしたの、そこのおにーさん!」



「ん?なんだ、お前も自販機の迷い人か?」


?「おにーさんは迷い人?」


「聞いて驚けもう四件目だ」


?「あらら…」


「もうこの炎天下を歩く気力もないよ。ここは我慢してこの温かいココアを買うしか…」


?「あぁ、飲み物は売ってたんだ。じゃあ、その飲み物買って、私に貸してみて」


「人の口に入るものを貸してとはどういうことだ?ココア好きなのか?」


?「ココアは美味しいけどそうじゃないよ。まあ物は試し、なんだったら私が買ってあげてもいいけど?」


「いや、年端もいかない女の子に奢らせるのも良心が傷む。そこまで言うなら買ってやろう。お前も飲むのか?」


?「じゃあゴチになります」


ゴトン


ゴトン


「…あっつ!!」


?「あぁおにーさん、私に貸してかして!」


「おいおい、これステーキとか焼けるんじゃないか!?」


?「いいから私に貸してってば」


「って、お前にかしてどうなるってんだよ?」


?「まあまあ、私がこうして一握り…両手で包んで一分くらいで…………」


「?」


?「はい、これあなたの分だよ」


「おいおい、女の子の人肌で暖めたココアが美味しくとかそん」


「…冷たっ!?」


?「ふふ、ひんやり涼しいアイスココアだよ」


「お、お前なにしたんだ?」


?「ないしょ。って言うか、私もどうしてこうなるのか知らないんだけどね」


「なんじゃそりゃ」


?「ああ、そういえば自己紹介してなかったね。私は望、冷泉れいせんのぞみ=フリージィって言うの」


「…はい?」


望「だから、冷泉・望=フリージィ」


「妙な名前だな」


望「ひどいなあ、私結構気に入ってるんだよ」


「フリージィってことは、何処かの外国のダブルなのか?」


望「ううん、ずっとここに住んでるよ。町はここじゃなくて隣だけど」


「隣か……あれ、隣町の名前って冷泉れいせん町だよな」


望「そだね」


「それは何か関係あるのか?」


望「うーん」


望「わかんない」


「おい」


望「私もよくわからないもん。もしかしたら私のご先祖様が偉い人だったのかもしれないけど、それも私には関係ないしねー」


「ご先祖報われねぇな」


望「でさ、あなたの名前は?」


「ああ、蒼人あおとだ。祭ヶ原まつりがはら 蒼人あおと


望「お祭り男?」


「今まで受けた中で最上級の侮辱をありがとう」


望「ごめん冗談。でも、祭ヶ原…か」


「何か思い当たる節が?」


望「ううん。けどなんか今にぴったりだなって」


蒼「この季節にぴったりなんだったら、今ごろ俺はうだるような暑さの中、自販機を渡り歩いてアイスココアなんて飲んでないだろうよ」


望「あはは、それもそっか」


蒼「…それにしても、お前は暑くなさそうだな。半袖のワンピースで涼しそうではあるが、汗もかいてないし」


望「それなら大丈夫。ねえ、私に触ってみてよ」


蒼「そんな気やすく人に触らせ………おぉ」


望「どう?涼しい?」


蒼「冷血人間のように手が冷たい」


望「言い方がおかしい!」


蒼「冗談だ。でも、本当に氷みたいな温度だな」


望「そう、私なぜか知らないけど凄く身体が冷たいんだよ」


蒼「それでさっき飲み物を冷やしてたのか」


望「そういうこと」


蒼「夏場にはこれ以上ない貴重な人間だな、おごった甲斐があるってもんだ」


望「それについてはごちそうさまでした」



………



蒼「ところで気になったことを聞いてもいいか?」


望「ん?なに?」


蒼「その、涼し気な髪の色してるなって」


望「あぁこれ?すごいよね、私もとってもきれいだなって思ってるもん」


蒼「自分自身でもピンと来てないのか」


望「あはは…でも珍しい色なのはわかってるよ」


蒼「そらそうだろう」


望「けど、あなたが初めてかも。そうやって私の髪の色を気にかけてくれたのは」


蒼「そうか、接する人が少ないのか」


望「そうじゃない…って言いたいけど、うーん」


蒼「まぁこの辺の人が少ないのは事実だからな」


望「でも、よくお話しする人達は私の事をあまり気にしてないみたい」


蒼「体温が低い上に影も薄い」


望「それは褒めてないよね?」


蒼「とりあえず、今日の所は感謝するよ。もうちょっとでココアをのどに詰まらせてやけどした挙句熱中症で倒れる所だったよ」


望「重症すぎるよ」


蒼「俺は帰るけど、お前はまたどこかを歩き回るのか?」


望「まあそんなとこ。私はいつも冷泉れいせん町にいるから、もしまた縁があったら会えるかもね」


蒼「家のクーラーが壊れたら探すことにするよ」


望「クーラー代わりなの?」


蒼「冗談だ。まあ、また偶然出会うかもな」


望「会えるといいね」


蒼「電気代が浮く…」


望「こら」


蒼「それじゃあな」


望「うん、ばいばーい!」


タッタッタッ…


蒼「あわただしい少女だな、冷泉…望だっけ」


蒼「あれだけ元気なら、またどこかで会うかもしれないな。そしたら、今日のお礼ぐらいはしてやるか」

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