第11話 腐れ縁は切れない

 羽帽子をかぶった女性の横顔を燃した木枠の看板。

 見上げるとレンガ造りの赤い屋根。

 よく言えば味のあって温かみのある、悪く言えば古臭い感じのするくすんだ灰色の壁。

 アンナの羽帽子亭。

 亭主の嫁に行った長女の名前から取られているらしい。

「というどうでもいい話を解説するわけではなく、ここに私の相棒がいるんです」

「で、どいつが相棒・・・・・・げ」

 中の食堂に入った瞬間、修也が口を「げ」という形を現したような顔をして、人だかりの山を見ている。

 何というか、終始思い出したくない事を無理矢理思い出したような嫌そうな顔をしている。

「どうしたんですか?」

「黙ってろ幽霊メイド」

「んん?」

 この様子だと、修也には思い当たる節があるらしい。ものすごく嫌な方で。

 リゼットは首をかしげながら、ふわふわと上に跳び、上空から人だかりの中心にいる人物を見た。

 そこには積み上げられた皿とリスのように頬を膨らました髪を肩口まで伸ばしたのをポニーテールにしている金髪、榛色の目の少女の姿があった。

 あと、服装がここの文化層とは違っているような気がする。

「見たか幽霊メイド」

「はあ、真ん中に物凄い食い意地の張った金髪の女の子の姿がありました。茶色い、羽織のような服に丸い紙の玉をたすきがけにしている紐に何個かつけている・・・・・・ちょっと変な感じの人なんですけど」

「忍者・・・・・・金髪」

 修也の顔がどんどん顔が土気色になって、苦虫をつぶしたような苦しそうな表情が濃くなっていく。

「その子が相棒なんですけど、知り合い?」

「他人であったほうがいい」

「心底嫌そうだな。これはボクの味方にすれば、イタタタッ! タップタップ!」

 修也に頭を握られ、カロリナは悲鳴を上げる。

「お、おお落ち着いてください。カロリナちゃんがいたそうじゃないですか」

「ボクをちゃん付けするな。ボクは男だぞ。あたたたっ、ふーっ。やっと離したか」

「ふん。性格悪いな」

「お前に言われたな・・・・・・」

 修也の魔の手がカロリナに届きそうに。

 とそこで人垣が割れて、皿の後ろにいる先ほどの少女の姿が見えた。

 修也は面倒臭そうに深い深いため息をついた。

 どうやら予想は当たったらしい。

「お、そこにいるのは修也と・・・・・・ソニむがっ」

「おほほほほ。悠美さん、ちょっとこっちに」

 フェリシーが悠美と呼ばれた少女を引っ張り、近くの階段のほうへ引っ張り込む。

「あれれ、何しているんでしょ」

「ほっとけ。それよりもここから出よう」

「え、どうしてですか? 修也さん。折角時間が短縮できるのに」

「気に入らないから他の方法を探す」

「え、でも」

「でもとか、しか、とかいらん。メイドは俺にしたがえばいい。さあ、行こ――」

「修也!」

 呼びかけられた声に一瞬だけ、修也が止まったが無視して外に出ようと歩みを進め――るのだが、ぐるぐると縄が修也の左足首に巻きついて足止めされる。

「ぐっ、俺は嫌だ。こんな所で世話を焼かれるなんて」

「いや、何言っているのサ。キミと私は同じ中2病の同士でしょ」

「俺はそんな病気では」

「いや、だってさ。その偉そうな言葉、痛いよ。友達も私と相馬君しかいないんだし」

「言うな・・・・・・ッ! 涙が」

「だから、私が面倒を見てあげるよ」

「ヤダッ」

「世界は理不尽に満ちている。理解者は誰もいなくていい・・・・・・とか中学の修学旅行で言って、友達無くして、指で数えられるほどしか友達がいなく」

「ひいっ」

 トラウマをえぐられ、修也の顔が土気色に変わった。

 世界は理不尽に満ちているらしい。

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