第10話 ハリセンと幼女

「こんなにすぐに手段が見つかるとは思いませんでしたね」

 リゼットがふわふわと幽霊らしく浮いていて、とりあえず修也は殴りたくなった。

 ハリセンを装填。準備は上々。さて、殴る準備をするんだ。

 さあ、あの蝿をブッ叩くんだ。

「何をしているんですか?」

 フェリシーが虚空に向けて視線を送っている男に心配げな声をかけていた。

「いや、蝿がいたんでな」

「そうですか。それ、何ですか?」

「ハリセンといって、俺の故郷の武器みたいなものだ」

「へーそうなんですか。紙で叩いて、できるんですか?」

「その辺は根性だ」

「根性」

 訝しげなジト目。疑われるのは仕方ない。

「ものは試しだ。まずはそこの岩でも殴ってみればわかるだろう」

 一閃。

 人のサイズくらいの岩にヒビが入る。それ以上はいかなかった。

「おおっ、凄い!」

 俺すごい。紙で殴ったのに岩にヒビをあたえるなんて。

「わ、私そんなので殴られようとしていたんですか」

 幽霊だから問題はない筈だが、リゼットが怯えてガクガクブルブルしている。

 自分の強さを修也はメイドに見せることができ、何となくスッとした。

「根性はあとで教えるとして、これからどうするんだ。馬車から降りたが」

 修也の後ろには草原。前には大きな赤茶けた石壁と橋があり、下には堀らしき水が流れている。奥には開かれた門があって、中には石畳の町が広がっている。

 馬車に揺られて2時間ほどだろうか。

 乗り合いらしいが長距離でブノアの近くらしき駅らしき場所で降りて、すぐ先に開かれた門の前にやってきた。

「まあ、その辺は目的地に着いてから、ごろうじろってことで」

 人差し指を立てて、そんな事を言う。

「で、これからどうするんだ」

「とりあえず、私の定宿に行きませんか。そこで相棒が待っているんです」

「落ち合って、そこからというわけか」

「そういうことです」

「ドキドキしますね」

 ものすごくうれしそうにリゼットが目をキラキラさせている。

 何というか。

「ハリセンいっとく?」

「どうしてですか~」

自分だってあんなに心をときめくころがあったはずなのに今となってはこの微妙な反応しかできないのがどうも寂しくて、何てことはいえない。

「自分の汚さを感じるからだ」

 何となくキメてみた。

「似合いませんよ」

「殴るぞ」

「ひいいいいいい」

 幽霊メイドが逃げる。

 その先には幼女メイドが妙に落ち込んだ顔で歩いていた。

「どうしたんですか。カロリナちゃん」

 余計にカロリナの顔に青筋が出ている。

「ボクは男だ」

「幼女だ」

間髪いれず。

「どうしたのカロリン? かわいい顔が台無しだぞ」

 フェリシーの言葉にカロリナは崩れ落ちる。

「ボク、男だから」

「わけのわからないことを言わないでよ。そんなメイドみたいな格好をして。あ、あとで別の服を仕立ててあげようか。なでなで」

「やめろ! なでるな!」

「ふむ。余程、馬車の中でマスコット扱いされたのが辛かったのか?」

 頭痛がしたように頭を抑え、カロリナは乗合馬車での扱いについて思い出して、顔を青くしていた。

「欝だ。もう死のう」

「幼女ライフ楽しめよ」

「ウウウ」




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