第4話 幽霊メイドさんを手に入れた

 朗々と響く、その声が聞こえ・・・・・・

 部屋のドアが開け放たれ、マントを着た長髪のイケメンが鬼のような形相で玄関の前に立つ。

 その姿はさながら、戦場に立つ騎士の如く、純粋な――


「だから、近所迷惑といっているだろうがああ!!!!」


 が、それは無精ひげの親父の広●苑によって、叩かれて台無しになった。

「何だこの親父。ぐあっ」

「ボールペンでめつぶしっ、と見せかけての寸止めッ」

「地味に痛いではなくっ、やめろっこの親父、あっあっ! あああんっ」

 マシンガンのように放たれるボールペン。

 長髪のイケメンは左目を微妙に突かれかけて、ひるんでよけることが精一杯のようだ。

「ドラドラドラドラドラドラドラドラドラ!! 売れない作家なめんなよ! ドラドラドラドラ! 親の財産すねかじりなめんな!」

 あまりにもセリフが情けなすぎて、どうしようもない構図。

 しかし、それも賢叔父の一言で終わる。

「うっ、腰が」

 おっさんの限界だった。

「すきありっ! 私の魔法を食らえっ!」

 男の目が光り、賢叔父を貫く。

「ぬおおおおおおお。お、俺の体がああああとけるううううう!」

 なんと恐ろしい魔法だろうか。

 賢叔父の体が青く変色し、気づけば泥人形のようになったかと思えば、液体の如く崩れていく。

 臭いはしないが、ただただその姿は凄惨としか言いようが無い。

 気づけば、賢叔父は液体の塊。しかし、板張りの床には溶けず、ゲル状のスライムになっていた。

「な、なんですって」

 リゼットが顔を真っ青にし、後ろに下がる。

「見つけた。リゼット王女。私の姫。さあ、私の元へ帰るのです! さもなくば、みんなスライムにして差し上げましょう。なあに抵抗しなければ、問題は無いのですよ」

「くっ・・・・・・、ならば行きましょう。ここの人たちに迷惑を掛けることはできません。それにこのスライムになった人を助けていただけませんか」

「ああ、そうですね。私だって鬼ではありませんが・・・・・・まあ、私の機嫌がよくなれば・・・・・・ですね」

「外道な・・・・・・」

「ふん。私だって忙しいんです。あなたを愛するための準備・・・・・・があっ!」

「どうだ。フライパンの一撃。痛いだろ」

 修也はフライパンをぶんぶんと振り回し、サディスティックな笑みを浮かべた。

「まだ、雑魚がいたか。私の魔法を食らえっ」

「鏡防御~」

「な、ぐあああああっ」

 何故か近くにあった姿見に修也は隠れて、長髪の男に光が当てられた。

 長髪の男がぐんぐん低くなり、顔が幼くなっていく。さらに何故か体が丸みを帯びていく。目はくりくりと大きくなり、少し血色の悪かった顔は赤みを帯びていく。

 気づけば、身長は修也の首くらいまでになり、少しだけ胸が成長前の控えめのアピールをしている。

「こんな鏡なんて使うことなかったけど、まさか使うとは思わなかった」


「こ、これは」


 元イケメンは縮んだ自分の姿に愕然とし、棒立ちするしかなかった。

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ、認めないぞ。こんなの。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。アガレス家の嫡男ではないが、名族たるボクが」

「現実を認めろ。目からビーム野郎――いや、幼女」

「う、ううううう。帰る。ぼ、ボク帰る。こんな姿なんて嫌だ。だから、治して」

「とりあえず、ウチの管理人を治してからだ」

「そ、そんなの無理。こんな姿じゃ、治せるわけが、う、ううう・・・・・・」

 幼女は涙をボロボロと出しながら、崩れ落ちた。

「んーこれは困ったって、まあ、何とかなるさ」

「そんなアッサリ?」

 リゼットがあまりの状況に突っ込みをいれる。

「だって、スライムになったって、気合で戻せば」

「できるわけないでしょっ!」

「できる! 出来ないと思えばできない! 人間の可能性を信じるんだ。美術10段階評価が9をなめるな!」

「信じられません・・・・・・って、えっ?」

「ほら、簡単でしょ」

 パンパカパーン!

 そこには青い髪の端正な顔をしたモデルボディのすらっとしたお嬢様がいました。


「おおっ・・・・・・って、元に戻ってない! でも、これいいかも」


 声まで変わった賢叔父もとい、賢美女さんが出来上がりました。

「美術9をなめるな!」

「ええっと、色々と状況についていけないんですけど、どうすれば」

 おろおろとリゼットが戸惑っている。

「これで一件落着で」

「いやいやいやいやいやいや」

「注文の多い幽霊だな。じゃあ、責任とって、お前が金を払うか?」

「ええっと、それは記憶ありませんし。あ、でも、お姫様なんですよね私」

「・・・・・・魔王様との戦いでお金がほとんど無くなっている上に、今は復興中で給料もほとんど無いそうだ」

 ぼそっと幼女の言葉が突き刺さる。

「えっ・・・・・・ちょっとそれって」

 無慈悲な言葉にリゼットは現実が甘くないことを思い知らされた。


「ふむ。では、俺のメイドになれ。体で払え」


「えっ・・・・・・」

 金が無いなら体で払う。当たり前のことだ。

 だからこそ、やることは一つ。

 今のことに関しては水に流しやるからタダ働きをしろと。

 悪くない方法ではなかろうか。

「よしっ、それで」

「私の選択権は」

「ない」

 その返答にかかる時間0.1秒。

「デスヨネー」

 ここに幽霊メイドが誕生した。

 彼女の受難が始まるのだ。

 けれども負けるなリゼット。

 キミの人生(?)には明るい未来があるはずだ。

 さあ、希望を持って。


「何か、いい雰囲気になっているが色々とグダグダなのは俺の気のせいか?つうか、俺の格好、女だし。色々と不自由なんだが」


 修也としては力押しでまとめようと思ったがうまくいかないらしい。

「ごまかそうと思ったのに」

「いやいやいや、無理でしょ。私だって、メイドなんて」

「お前は決定事項だ。残念幽霊メイド」

「ひどっ!」



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