対峙

「うーん。少し遅かったようだね。」

クリスは崖から崩れ落ちてうず高く積みあがった岩を見ながら悔しそうにつぶやいた。


岩の手前にはマイヤー家の馬車が打ち捨てられている。


「誰もいないようですね。やはりクリスさんが仕入れた情報の通り、リサさんたちは悪徳貴族の手先に襲われたんでしょうか。」

リックは辺りを見回しながらクリスに言った。


「リサさんたちがすごく心配です。僕とフーティにできることがあれば何でもします。何か手はないですか?」

そう聞くリックにクリスは、


「彼女達はまだこの近くにいるかもしれない。もう一度空から探してみない?」


フルゴラは二人を載せて再び上空に向かう。

...


クリスとリックが崖崩れの現場に到着する少し前、乗っていた馬車から飛び出した領主の娘リサは崩れた岩の前で赤い瞳のアークウィザードらむねと対峙していた。


リサは、らむねの顔を真正面に見る。透き通るような青い瞳には、冷静さの中にも強い意志がうかがえる。

静かだか力強い声でリサは、

「これはあなたの仕業なの?」


らむねは瞳を紅く輝かせながら、挑発するようにおどけた調子で、リサに返す。

「だとしたら、どうするつもりかしら?」


「あなたの力ならこの岩を吹き飛ばすなんて簡単でしょう?道を空けて私達を通してもらえないかしら?」


「いいわよ。貴方のお父様に、この譲渡契約書に署名してもらえればね。」


「何の契約ですって?」


「私の雇い主に、魔鉱石の鉱山の権利を譲る契約よ。」


「それは、できない相談ね。」


「あら、残念。それならば、力ずくでサインをいただく事にするわ。」


らむねは、ローブの下に隠していた魔道具を取り出すと、詠唱を始めた。


すると、らむねの周囲の地面が青白く光り出し、何本もの稲妻のような光が地面かか上空に放たれる。


すかさずリサは服の下から小さなワンドを取り出して構え、魔法のスペルを唱える。

ワンドの先端に付いた透明な魔鉱石が緑色の光を放ち、リサたち一行を覆うように光の防御膜ができる。


らむねの放った稲妻は空中を大蛇のようにのたうちまわり、上空からリサたちを覆う光の膜に襲いかかる。


らむねは少し驚いたように、

「まぁ、あなたも魔法が使えたの?防御魔法、なかなかのものね…でも、いつまで持ち堪えられるかしら?」


「そのセリフ、そのままそっくりあなたにお返しするわ。この高純度の魔鉱石の力を過小評価しない方が身のためよ。」


リサは更に別の魔法を詠唱すると、リサたちを覆う光の膜が勢いよく膨らみ始め、らむねにぶつかる、


「くっ」


直前に、らむねの魔道具がまるで地上の太陽のように強烈な光を放つ。


一瞬にして、らむねとリサたち一行は真っ白な光に包まれた。




















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

再会 ムラサキ @chris250

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ