リサ
時間は現在に戻る。
細い山道を走る武装した馬車の隊列。その中央辺りを美しい光沢のある黒で塗装され、控えめな装飾が施された馬車が走る。
その黒い馬車の窓につけられたレースカーテン越しに、十代中ごろの少女とその父親が馬車の進行方向を向いて並んで座っているのが見える。座席で揺られながら二人は親しげに話をしている。
二人とも金髪
少女の名前はリサ。リックの憧れの存在だ。そして父親はこの領地を収めるマイヤー卿だ。
馬車の隊列はマイヤー卿が管理する鉱山の視察に向かう途中で、もうすぐ鉱山に到着しようかというところだ。
マイヤー卿が隣に座る娘に話しかける。
「リサはあの鉱山を見るのは初めてだったね。」
「はい。お父様。」
美しく聡明そうな少女は答えた。
「リサはもうすぐ大人として認められる年齢になる。私はいずれお前にあの鉱山の経営を任せたいと思っている。今日は実際の現場を自分の目で見て、いろいろと学んでくれるとうれしい。」
「私も採掘の様子を見ることができるのを楽しみにしています。ところでお父様、あの山で採れるマナタイトやコロナタイトはとても上質で魔力が強いそうですね。」
「その通り。良く勉強しているね。私たちの国はあの山で採れる高品質の石の取り引きで栄えていると言っても良い。」
リサは笑みを浮かべながらも真剣なまなざしで、
「それだけに、あの鉱山の権利を奪おうとする者達が後を絶たないと聞いています。」
父親は軽くため息をついてから答える。
「残念ながらそうだ。もしあそこに眠っている魔鉱石が悪人の手に渡れば、私たちの国はおろかこの世界自体が滅ぼされかねない。昔とある国の技術者が作った兵器のことは聞いたことがあるだろう?」
「はい。ノイズという大国で異世界からの転生者が作ったといわれているデストロイヤーですね。暴走してノイズを滅ぼした後、世界中をさまよいながら街を破壊していたあの兵器を動かすために、コロナタイトが使われていたそうですね。」
リサは記憶をたどりながら答えた。
マイヤー卿は真剣な表情で、
「そうだ。公にはなっていないが、あの鉱山にはデストロイヤーのような兵器を何体でも動かすことができるほどの大量のコロナタイトが眠っている。これは国王と私たちしか知らない秘密だ。」
するとリサも真面目な表情で応える。
「それを悪人から守ることは、この世界を守ることでもあるのですね。」
「その通り。リサ、お前は賢いだけでなく、とても正義感が強い。領地の人々から慕われているし、私達の家の者達からの信頼も厚い。お前になら安心して任せられると思う。」
マイヤー卿は柔らかな表情で答えた。
「ご期待に応えられるように精進しますわね。」
リサが茶目っ気のある表情を浮かべてウインクしながら答えた後、二人は声を出して笑いあった。
やがて、隊列は細い山道に差し掛かる。道幅は馬車二台分ギリギリだ。
進行方向左側は切り立った岩壁が続き、右側は崖で、深さは数百メートルはあるだろうか。崖の底からは川の水音が聞こえてくるが、光が届かずその水面を見ることが出来ない。
リサと父親が談笑していると、急に馬車の隊列が減速し、二人とも前のめりになった。そして先頭の方の護衛達が騒がしくなった。
先頭の護衛がマイヤー卿の馬車のところまでやってきて、主に報告する。
「この先で落石があり、道がふさがれています。」
「お父様、私が見てまいります。」
そう言い終わらないうちに、リサが馬車のドアを開けて飛び出していった。
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