8
〝共鳴魔法〟によって拡大された魔法の揺らぎは、二人にしっかりと捉えられていた。〝感知魔法〟を使うまでもなく、その揺らぎのおおよその発生源を特定することができる。
「……意外と近くだな」
目を閉じて揺らぎに意識を集中していた奈義は、つぶやくように言った。
「ええ、急げば魔法使いを見つけられるかもしれない」
フユもその言葉にうなずく。
二人は魔法の使われたとおぼしき場所へ向かった。急に走りだした二人組に、通行人の何人かが不審そうな視線を送るが、今はそれを気にしているような余裕はない。
五分ほどで、二人は現場に到着した。通りからは外れた裏道で、駐車場と雑居ビルのある区画だった。場所的には、このあいだの追跡地点にほど近い。あたりに人の気配はなかった。
「やつはどこに行った?」
奈義は周囲を見渡す。が、それらしい人影はどこにも見つけられなかった。どんな魔法が使われたのかもわからない。
その時、駐車場にとめられた一台の車から人が降りてきた。しきりに首をひねる様子で、エンジンのボンネットを開ける。何か不具合が発生したらしい。
「あれって――」
言いながら、フユはペンダントを出して意識を集中する。どうやら間違いなさそうだった。そのあたりの車すべてに、魔法がかけられている。
「エンジンか電気系統の一部を故障させた、ということか」
奈義がそう分析した。
いずれにせよ、この場所に魔法使いがいたのは確かなようである。それも、例の魔法使いである可能性が高い。
「手わけして探すしかないな」
と、奈義は言った。
「それらしい人間がいたら、魔法で足どめしろ。解除して逃げたら、そいつが本人だ。ただし無理はするな。見つけたら携帯で連絡しろ」
「了解」
短い打ちあわせをすますと、二人は別々になって走りはじめた。時間的に考えれば、魔法使いはまだそう遠くへは行っていないだろう。顔は無理だが、背格好については見当がついている。
フユはビルの合間をぬうようにして走った。
例の魔法使いは、何を思っているだろう。〝共鳴魔法〟で揺らぎが増幅されたことに、気づいているだろうか。おそらく、気づいただろう。そしてそれが、自分にかけられた罠だということも。だとすれば、できるだけ現場からは遠ざかろうとするはずだった。
(けど……)
と、フユは走りながら考えている。もしも魔法使いを発見したとして、奈義はどうするつもりなのだろうか。相手は拘束そのものを無効化できる。しかし奈義は、自分なら問題なく捕獲が可能だと言外に匂わせていた。
フユは想念を振りはらって、今は目前のことだけに集中することにした。まだ、魔法使いを見つけたわけでもない。
その時、フユは不意に魔法の揺らぎを感じた。かすかなものだが――近い。
道の角を曲がって、少し大きめの通りに出た。車の通行はなく、道はまっすぐどこまでも続いている。まるで黄泉路を照らす光のような不気味さで、街灯が点々と一定間隔で連なっていた。
けれど、どこかおかしい。よく見ると街灯の間隔は不自然に一定していなかった。
と思うと、フユはもう一度魔法の揺らぎを感じた。同時に、街灯の一つが消える。ロウソクの炎をふっと吹き消すみたいに。同じことが繰り返され、また一つ街灯が暗転する。
フユは消えた光を追うように走りながら、携帯の通話ボタンを押した。
〝どうした?〟
すぐに奈義の声が聞こえる。
「見つけたわ」
〝本当か? 今どこにいる〟
「さっきの場所からだいぶ西のほう。相手は魔法を使ってるから、それを追えばいい」
〝やつは魔法を使ってるのか?〟
フユは立ちどまって、首を傾げた。また一つ、怪談めいた印象で街灯が消える。
「何故、そんなことを聞くの?」
〝仕かけておいた魔法が切られた。遠すぎて、俺には魔法の揺らぎが伝わってこない〟
「…………」
〝もし何か怪しいことがあれば、それはやつの罠かもしれない。見つけても、俺が行くまでは――〟
「もしもし?」
通話が不自然に途切れた。
フユが携帯を確認すると、電波状況が圏外になっている。これも、魔法の効果なのだろう。付近一帯が、一時的にしろ通信不可能領域に変更されている。
そうしているあいだにも、街灯は消え続けていた。まるで、手招きでもするみたいに。奈義の言うとおり、おそらくこれは罠なのだろう。
けれどフユは、携帯をしまうと暗がりに導かれるようにして道を進んだ。どこか、ずっと昔の古い記憶の中にでも戻るような気持ちになりながら。
やがて、何の変哲もない道路の真ん中で、フユは足をとめた。そこに、問題の魔法使いは立っていた。世界にたった一つだけ残ったような街灯が、その魔法使いを照らしている。
フユはゆっくりと、白い息を吐きながら言った。
「魔法使いはあなただったんですね、先輩――」
その場所には、沢谷ゆずきの姿があった。
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