なさデレラ

@yamsan385

第1話 人間になっちゃったなさ

「人間になりたいわね」

 一人のゴリラがそう呟いた。

 この逞しいゴリラの名前はなさ、天下無敵のゴリラ魔王である。

 そんな隆々とした筋肉を持つなさではあるが、彼も乙女な部分を持っていた。

「舞踏会に行きたいわ」

 そんなある日、なさがいつものように琵琶湖で水泳で鍛錬をしていると、

「あら?そんなに舞踏会に行きたいの?」

 どこからか、声が聞こえてきました。

 なさは反射的にその声の方向に腕を生やしてしまいました。

「ぎゃあああああああああああああああああ!」

 強烈な一撃がその声の主を吹き飛ばした。

「アタイの後ろに立つんじゃないわよ!!!!!」

 そう、なさの後ろに立って生き残ったものは誰もいない、肉親ですら手にかけたなさには容赦というものがなかった。

 そうして、自分が吹き飛ばした声の主を見ると、なんと人間に羽生やしたような奇妙な生物だった。

「ぐ、ぐぐぐ……」

 なんと、その生物はなさの一撃をくらってもなお生きていた。

「ほほぅ、アタイの一撃を受けて生きているとは、貴様ゴリラではないわね」

「わ、私は妖精よ。アナタを舞踏会に招待しに来たの」

「なあんですって!?」

 彼女は、名前をナガッパナと名乗り。なさにある魔法をかけた。

「な、なんてことなの!?」

 なさは驚きを隠せなかった。

 何故ならば、なさは見事な人間のオカマになっていたのだ!!

「フフフ、どう? これで舞踏会に行けるじゃない?」

 ナガッパナは自慢げに笑みを浮かべ、なさにこう忠告した。

「この魔法は12時に解けてしまうわ。早く急ぎなさい。これはサービスよ」

 ナガッパナが一振り杖をふるうと、出てきたのはなんとバナナリムジン。最高速度334キロは出るスーパーカーだ。

「ブレーキなんていらないわ!アタイに人生は常に加速しているわ!」

 なさはこれに乗り込みブレーキを壊し、アクセルを踏み込んだ。

 そうして1時間ほどでなさは舞踏会の会場についてしまった。

 舞踏会は熊本城で行われており、そこにはいぶ王子がつまらなさそうに踊りを眺めていた。

 その時、熊本城に大きな振動と爆音が伝わった。

 いぶ王子がその方向を見ると、なんと城壁にはバナナリムジンが刺さっており。

 そのリムジンの遥か上には、とても人間とは思えないような筋肉をしたオカマが舞っていた。

 オカマはクルクルと縦回転しながら地面に見事な着地を決めた。

 その途端、周りからは惜しみない拍手起こった。これが体操なら審査員はみな10点満点を出していたことだろう。

 派手な登場をしたなさではあったが、踊りの方はからっきしであった。

 何度も転び踊りのパートナーに全治一か月の怪我を負わせ、会場も徐々に恐怖に包まれていた頃だった。

「しゃーねぇな~」

 声の主はいぶ王子、彼にはなさが事件の数々など目に入ってなどいなかった。

 いぶはなさの手をとり、いぶと名乗った。

(やだ、この人優しい!?)

 なさは男に優しくされたことなどなかった。なさは常に王者、つまり頼られるだけ存在であったのだ。

 なさは慌てて、なさと名乗り、二人は踊り始めた。

 こうして、なさはいぶとの至福の時を過ごしていたのだが。その時間は長くは続かなかった。

「!?」

 なさは気付いた、自分の足が徐々に地面に吸い込まれていることに。

 そう、時刻は既に12時。なさの身体は戻りつつあったのだ。

(やだ!ゴリラに戻っちゃう!?)

 なさはいぶの手を振りほどき(吹き飛ばし)その場から逃げ出した。

 なさはそれからの後の事は覚えていない。

 道の途中で、姫路城を壊したような気がするが、なさにとってはどうでもいいことだった。

 なさは兵庫のジャングルに閉じこもり、シクシクと泣きながらをポップンをしまくっていた。

 一方そのころ、いぶ王子はなさに吹き飛ばされた腕を手術でくっつけて、リハビリに2年を要し、ようやくなさ探しに出れる状態になっていた。

 あの逞しいオカマはどこ誰なのだろう?

 手がかりは、なさという名前、オカマが落としていったバカでかい矯正ギプスと黒い毛のみだった。

 黒い毛をDNA鑑定してみると、彼の正体は兵庫ゴリラだということが分かった。

 あとはこの強制ギプスだが、熊本県の力自慢のゴリラにやらしてみるがさっぱり動かなかった。

 これを動かせるゴリラがあの方に違いない。そう確信したいぶはなさ探しの旅に出た。

 まずは四国でお遍路をして心を洗い、なさに会う準備をして、とうとう兵庫に着いた。

 兵庫は大変な騒ぎになっており、一匹のゴリラがワンワンと泣きながら暴れまわっているのである。

 いぶ王子はそれがあのなさに違いないと確信した。

 ともかく会わなければ、事態は大変危険な状況ではあるが、いぶ王子はそのことしか頭になかった。

 なさが暴れているという場所はまさになにもないクレーターのような場所になり果てたいた。

 ここは元々は木しかないジャングルだったのだが、今はその面影もない。

 その中央にはやけにバカでかいゴリラがいた。

 そのゴリラはガチャガチャとポップンの機体を打ち鳴らしていた。

 そのポップンのボタンを押すたびに振動波が生まれ、あらゆるものを吹き飛ばしていたのだが、今は吹き飛ばすものもない。

 つまり、近づかなければ危険はないということなのだが、いぶ王子の足は止まらなかった。

 いぶ王子は何度も吹き飛ばされながらも、少しずつなさに近づいていき最後にはなさに触ることに成功する。

「!?」

 いぶ王子に気付いたなさは一瞬ではあるが動きが止まった。

 その瞬間を見逃さずいぶ王子は最後の力を振り絞り、矯正ギプスをなさの上に放り投げた。

 ギプスは宙を舞い、最終的にはなさの身体にガッチリとハマった。すると、なさの筋肉は萎みはじめたではないか。

 矯正ギプスはなさの力を封印するリミッターであったのだ。

「ど、どうして!?」

 正気に戻ったなさがいぶ王子に聞いてみるが、既にいぶは息絶えていた……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

なさデレラ @yamsan385

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ