第7話 ストーカーとスカートってちょっと似てる。

「えっと・・・渡辺さん?」

「はい」

「あの人が、その、?」

「はい」

 二年二組。そのクラスプレートが指し示す教室に、僕と花咲さん、そして依頼者である渡辺さんが覗き込んでいた。

 第三者の目で客観的に見れば、いや、そんなことしなくても十分不審者の自覚はある。

 事実、放課後とはいえまだ教室や廊下に留まっている生徒は多く、例によってヒソヒソ話が展開されていた。


 だがしかし!だがしかし!


 今はそんなことどうでもいいし、どうせ花咲さんの傍にいるとこういうことになるとは覚悟していた。

松島彰吾まつしましょうご君。二年二組、クラス番号21番。身長167センチ、体重87キロ。この高校には一般受験で入学してて、帰宅部なんです。一年生の頃からあんまり目立たない人でしたけど、少数の友達とひっそり学校生活を楽しんでいて、あ、あと、家族構成は専業主婦の母親とサラリーマンの父親の三人家族で、えと、あと」

「あ、もうそのへんで」

 渡辺さんに、今現在その様子を覗いている彼について聞いてみたところ。

 結果は言わなくてもわかってくれると思う。

「あんなに口下手だったのに、好きな男となると饒舌だな君は」

「ちょ、花咲さん!しっ!」

 この人、先ほどからにやにやと気持ち悪い笑顔を浮かべて、完全に野次馬根性まるだしだった。

 不思議ではある。こういうことに人並みの興味くらいはあったのかと。

 そういうニュアンスのことを聞くと。

「何言ってるんだい。コイバナなんて一番物語性があるじゃないか」

 結果だけが見たい。最後だけが見たいという花咲さんの信条?のようなものに確かにコイバナは合致するのだろうけど。

「でも、コイバナって結構中身を聞かないとわからないんじゃないですか?」 

 特に女の子なんて、そこを聞いてほしがると思うのだけど。

 そういうのを、一番めんどくさがる人だろうに。

「何言ってるんだい?そんなの、最終回だけ見ればいいじゃない」

「・・・いや、あんたが何言ってんの?」

 パンがなければお菓子を食べればいいじゃないと言ったマリー・アントワネットのように、なんちゃら戦争が起きかねないそのセリフ。

 僕は三秒くらい考えたけど、呑み込めなかった。最終回?何のお話し?

「いいかい。それまでのストーリーとか、キャラの掘り下げとか邪道なんだよ。繋ぎなの、いわば前菜。最終回がメインディッシュなんだよ。だから、あらすじとキャラ紹介だけパッと見れば後はいらないだろ?」

 こいつ・・・!まさか、少女漫画の話をしているのかっ!?

 って、驚いては見たもののそりゃそうだよねって感じ。少し考えればわかる。花咲さんがそんなガールズトークできるような友達がいるわけがない。

「少女漫画だけじゃないよ。この理論は総ての漫画、引いては物語に通じる」

「あ、あの・・・」

「ああ、ごめん渡辺さん」

 クズ(花咲さん)の相手をしていたせいで、肝心の渡辺さんをほったらかしていた。

「おい、クズと書いて僕と読むんじゃない」

「で、もう一回聞くけど渡辺さんの、その、”ストーカー相手”があの松山君?で、いいんだっけ?」

「松島です」

 とりあえず花咲さんのことは無視して渡辺さんの方を向いていたけど、名前を間違えただけで物凄い形相で睨まれた。今までの怯えたような表情がひとかけらもない。ひとかけらくらい残してくれてもよかったと思う。

 



 





 とりあえずいつまでも廊下にいるわけにもいかないので、場所を部室に移して詳しい話を聞くことにした。

 ・・・聞くのも怖いけど。

 憂鬱というか不安な気持ちで、僕は部室の引き戸を引く。

 ドゥルルル、ドゥルルル、ドゥルルルットゥ、ドゥルルルル。

「いやなんで世にも奇妙な物語のテーマ流れてんの!!」

「髪切った?」

「うるせえよ!切ってねえよ!!」

 確かにそれくらいの緊張感あるけど、世にも奇妙な依頼内容だけれども!!

 とんだ花咲さんの茶番で、部室内の空気はおちゃらけてしまったがとにかく。 

 仕切り直して僕は聞く。

 だって僕が聞かないと話が進まないから。

「とりあえず、渡辺さんは今のままの関係が嫌なんだね」

「」(コクコク)

 顔を赤らめて、彼女は無言の肯定を繰り返す。

 つまりは、ストーカーなんてやめて至極真っ当にお付き合いをしたいということらしい。

 まあ、ストーカーという自覚がある分。まだマシ・・・なのかな?

「じゃ、ワトソン君。後はよろしく」

「はいぃ?あ、ちょ」

 入れ替わるようになぜか颯爽と風を切るように部室を立ち去って行った花咲さん。

 どうせ、「プロセスには興味ない。結果が出るときに呼んでくれ」ということなんだろうけど。

 うわ、なんか段々と染まってきてる気がする。花咲さんの考え方に。

「まいいや。どうせあの人いても役に立たないし」

 ていうか、あの人が役に立つ時なんてあったのだろうか。最初の出会いがインパクトが強かっただけで。

 どのみち、今回は役に立たないということでフェードアウト。

「あ、じゃあ。とりあえず、好きになったきっかけとか聞いてもいい?」

 ということで、今回は探偵役、僕。

 あれ?なんか、いい響き。悪くないかも。


 でも、やっぱり僕はわかってなかった。探偵の大変さに。

 この依頼の、茨の道に。

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