(5)第二話 水沢アカネ-3
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水沢、ナイフを振り回す。
それを紙一重で避ける山田。
山田「ちょっと、待てって、なんなんだよ!」
水沢「あんたなんか、いなくなればいいのよ!」
ナイフを振り回す。殺す気で。
山田が躓き、その場に倒れる。
水沢、一心不乱にナイフを突き立てる。
水沢「消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、キエロ──!」
わかってる。本当に消えてなくなって欲しいのは、自分自身だ──
ナイフを刺しているものから白い綿や羽が飛び散る。
まるで、枕かクッションかをめった刺しにしていたかのよう。
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宮本「変わり身の術! なんてね」
宮本「全く、本当にモテるねえ、山田くんは」
山田「もてないよ。俺が人生でもてたことなんて一度だってない。神崎が俺のことを好きになってくれたってだけで天地がひっくり返るような大事件なんだから。そもそも、モテるのは神崎の専売特許だろ」
宮本「元、ね」
山田「まあ、確かに元なんだけど」
宮本「しかし水沢ちゃんの行動は確かに、常軌を逸脱してしまっているよね」
宮本、水沢の手を握り、力を入れる。
水沢に痛みが走り、手からナイフが落ちる。
すかさず宮本が水沢を開放し、ナイフを拾い上げる。
水沢、その場に崩れ落ちる。
宮本「神崎ちゃんのモテモテオーラの設定を書き換えた影響だね、これは。きっと、その大きな変化に耐えることができなかったってことなんだろう。まあ、それをケアするのが僕の仕事でもあるんだけれど。面倒臭いよね、ほんと。だから僕は変化が嫌いなんだよ。あー、ついでに菊川のことも大っ嫌い」
山田「どさくさにまぎれて本音が出てるぞ」
水沢、放心状態で「消えろ」と何度もつぶやいている。
水沢(大好きな先輩が変わってしまった。
あの頃の先輩は、本当に輝いていて、あの人はいつだって人の中心にいたけれど、あの人はいつだって孤高で、孤独だった。
孤独であることが、王者であることの絶対条件だ。
彼女はいつだって男と一緒にいたけれど、男たちは彼女を輝かせるための記号に過ぎなかった。
だっていうのに、大好きなあの人は、ただのありふれた普通の女に成り下がってしまった。)
山田「なるほどね。神崎の全盛期の信望者か」
山田(そして、犠牲者でもある。)
孤独であることが、王であることの、唯一の絶対条件だったのだ。
宮本「なるほどなるほど、神崎ちゃんが変わってしまったことを、普通の女の子に成れ果ててしまったことを、山田くんのせいだと思ったわけか。まあ、付き合い始めたのも同じ時期だし、そう思ってしまうのも確かにわからなくはない。犯人は菊川のやつなんだけどね」
神崎が現れる。
神崎「あかね」
水沢「神崎、先輩」
山田「な、なんで神崎がここに?」
宮本「僕が呼んだんだよ。こんなことに成りそうだったからね」
山田「お前、知ってたのかよ」
宮本「何を、だい?」
山田「いろいろだよ!」
宮本「だから言っただろ? 今回の犯人、加害者は水沢ちゃんで、対象は彼・・・山田くんだって」
山田「言ってねえよ!」
水沢「神崎先輩、あの、あの」
神崎「あかね、良く聞いて」
水沢「は、はい」
神崎「山田に何かしたら、あたし、一生あんたを許さないから」
水沢「・・・・・・」
神崎「絶対許さない」
水沢、声を上げて泣く。
宮本「鳴く虫よりも、泣き虫だった、かな」
水沢「ごめんなさい、神崎先輩、ずっと、ずっと、好きでした。私、先輩のおかげで救われて、諦められなくて、先輩が変わってしまって、私どうしていいかわからなくなって」
神崎、水沢を抱きしめる。
神崎「ありがとう。あたしもあかねのこと大好きだよ。あたしは変わってしまったかもしれないけど、でも、あたしはあたしだから。そのままのあたしを好きになって欲しいな」
水沢、泣きながら頷く。
宮本「水沢ちゃんは蛍のように「黙る」(もくる)ことはできなかったか。まあ、伝えないと、気持ちは伝わらないからね」
山田(正直、まっすぐに面と向かって「好き」だと言えることが、俺にはうらやましかった。
そんな純粋な気持ちを誰かに発することができるだなんて、きっと俺には無理だ。
俺は、宮本の言葉を思い出していた。
「君ってさあ、本当に人を好きになったこと、ないんじゃないの?」
水沢が泣きやむまで、神崎は水沢を抱きしめて、頭をずっと撫で続けていた。)
──第二話、完。
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