(4)第二話 水沢アカネ-2

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  倉庫を、学校を後にして帰路につく山田と水沢。


  場面は帰り途。人気のない道。


山田「しっかし宮本のオッサンも適当だよなー。あれじゃあ相談所にもなんにもなってないっての」

水沢「・・・・・・」

山田「・・・・・・。あ、しっかし、開口一番、殺したいなんて言葉がでてきたときは、俺も驚いたよ」

水沢「・・・・・・」

山田「・・・・・・」


山田(きまずいっ!)


山田「そういえば、水沢の好きな人って、どんな人?」

水沢「とても強い人です。私は、その強さに魅かれました。私が辛いときに、救ってくれました。私にとって、神様みたいな人です」

山田「そっか。大事な人なんだな」

水沢「大事です。大切な人です。誰よりも、何よりも」

山田「そっか」

水沢「山田さんって優しいんですね」

山田「いや、そういうわけじゃあないんだけど」

水沢「だって、私の話を聞いてくれてるじゃないですか」

山田「いや、そりゃまあ、一応相談に乗ったわけだし」

水沢「それだって、宮本さんが一人でやればいいことであって、山田さんは関係ないじゃないですか」

山田「まあ、関係ないっちゃないんだけど、ほっとけないっちゃ、ほっとけないというか」

水沢「本当、山田さんって優しいんですね。好きになってしまいそう」

山田「はいっ!?」

水沢「冗談ですよ。虫唾が走る」

山田「ひどい言われようなんですけどっ!?」

水沢「ほんと、優しいなあ。お人よしだと言ってもいい」

山田「なんなんだよ、さっきから」

水沢「滑稽と言い換えてもいいですね。だって、被害者が加害者の相談に乗っているんだから」

山田「え?」

水沢「私が殺したいのはね、山田さん、あなたなんですよ」


  /


水沢「いや、正確には加害者があなたで、被害者が私なんですけど。だから私は、あなたを殺したいと思っている」

山田「み、水沢さん、何を言ってるのか、わかんないんだけど」

水沢「だから、さっきから言ってるじゃないですか。殺したいって。間違えないでくださいね。死んで欲しいんじゃない。私は、あなたを、殺したい」


  水沢、鞄の中からナイフと取り出す。


山田「待て待て、危ないから! そんなもの振り回したら危ないから!」

水沢「どうして逃げるんですか。それじゃああなたを殺すことができないじゃあないですか」

山田「なんで俺がお前に殺されなきゃいけないんだよ」

水沢「どうしてそんなこともわからないんですか? 言ったでしょう、あなたは加害者だって」

山田「わけわかんないって! 俺と水沢は初対面のはずだろ? 俺、お前に何かしたのか?」

水沢「私には何もしてない」

山田「だったら」

水沢「山田さん、あなたが何かを誰かにしたかって言ったら、神崎先輩しかいないじゃないですか」

山田「え、こう、ざき?」



 / 水沢と神崎の過去




  舞台上を人間が歩き回っている。


  水沢は舞台上の真ん中に立っている。


  それぞれが口ぐちに何かを言っている。


  それは学校での、何気ない会話。


  でも、水沢にはそれが耳触りで、気持ちが悪くて、仕様が無かった。


  学校での生活の音も聞こえる。


  机や椅子を引きずる音、シャープペンシルでノートに文字を書く音、放課後の吹奏楽部の練習の音、他にも、他にも、・・・


  声がだんだんと大きくなっていく。


  人間の、集団の、社会の、しがらみの、そんな中にいるストレス。


  それが水沢を侵食していく。


  耐えられなくなり、水沢はその場に崩れる。




  女王(神崎)が現れる。



  音や声がぴたりと止む。


  水沢はゆっくりと顔を上げる。


  そこには、悠然と立っている、影響力の塊のような少女がいた。



   照明が切り替わる。


   立ち上がる水沢。


水沢「中学に入ったばかりの私は、少しひねくれた性格をしていた。

   というか、自分が優秀な人間なのだと、そんな根拠のない自信があった。

   勉強や運動が他人よりも上手くできたこともあって、自分が特別な存在だと思い込んでいた。

   でも、ある日、その自信は、いや、自分自身は、打ち砕かれた。

   自分よりも何十倍もの存在感を持った、格が上の人間の存在を知ってしまったのだから」



   女王(神崎)が手を広げ、大きく体ごと回す。


   すると、それに合わせて人間達が動き、操られる。


   そのまま舞台上から消えていくその他大勢。


   舞台には、水沢と女王(神崎)の二人だけ。


水沢「人がたくさんいる中にいると、ひどく落ち着かなかった。

自分の居場所はここではないような、そんな感覚があった。

世界から自分がずれてしまっているような、そんな感覚」


   女王(神崎)が手を差し伸べる。


水沢「運命だと思った。

   今まで、ざわついていた世界が、不安でしようがなかった私の心が、一気に静けさを得たんだから。

   先輩の傍にいると、心が安らいだ。

   いつも先輩姿を目で追っていた。

   気がつくと私は、神崎先輩のことを好きになっていた」

   


  /


 ──こいつ、俺と同じだ。山田はそう思った。

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