第6話 神との戦い

 そして異変が起こった。

 俺が朝飯を食べていたときだった。

 家に電話がかかって来た。

 母親が電話を取る。

 最初はニコニコしていた母親の表情が徐々に曇っていく。

 なにがあったのだろうか?


「一颯……」


 母親が深刻な顔をして俺の方を見た。


「めぐみちゃんがいなくなったって……財前さんから……何かしらない」


 野郎……

 あの野郎のせいだ。

 俺は瞬時に理解した。


「同じクラスの天野と田牧もいなくなったかもしれない。連絡取れる」


「え? うん、わかった」


 母親はめぐみの母親に二人のことも聞いた。

 クソッ!

 人に弄ばれるのは気にくわねえ。

 絶対にあのにやけツラに拳を叩き込んでやる。

 正直俺はブチ切れていた。

 握った拳がぷるぷると震えていたほどだ。

 なぜ俺はこんなに怒っているのだろうか?

 三人は元の世界では敵だったはずだ。

 別に長い時間を一緒にいたわけではない。

 だけど俺はめぐみを……おそらく三人を人質に取られたことに激怒していた。

 三人を取り戻す。

 その間は元の世界のことは忘れよう。

 俺は誓った。

 すると右腕に痛みが走る。



『西口の公園の先にあるコンビニに来い。逃げるなよ。』



 宣戦布告か……野郎……

 俺はキレながら庭に出て物置を漁る。

 なにか武器になるものはないか?

 少しでも有利にしたい。

 俺はツールボックスを見つけ中を見る。

 水道工事用の大きいスパナを見つけた。

 よし、コイツは使える。

 釘も見つけた。棒手裏剣代わりになるかもしれない。

 あとはナイフすらない。

 包丁も持ち出すのは難しいだろう。

 しかたない。

 この装備で行こう。

 俺は装備をリュックサックに入れた。

 俺は自転車置き場へ行く。

 20歳当時、免許を持ってなかった俺には自転車しか足はない。

 俺は颯爽とママチャリに跨がりコンビニへ向かった。


「サノバビッチ! ファッキン! ホーリーシット!!!」


 俺はなぜか英語で罵倒しながらペダルを踏んだ。

 これ程必死になったのはいつ以来だろうか?

 ああ、そうか8年後に必死になるな。

 コンビニに着く。

 いやそれは昨日までの光景ではなかった。

 コンビニは存在する。

 だがそこはおかしい。

 目算で約1ヘクタール。

 巨大な教会がコンビニの横に出現していたのだ。

 他は俺の記憶と同じだ。

 世界が100メートル大きくなったと言うことだろうか。

 俺は自転車を降りて教会の前に駐める。

 門を通るときに……ときになんか無性にムカついたので門に蹴りを入れておく。

 そして堂々と直進する。開き直ったとも言う。

 この神には絶対に敬意を持つことはないだろう。

 少し歩くと場末の居酒屋のようなピカピカとした電飾で飾られた建物が見えてくる。

 なんだろうか。このインチキ臭さは。

 厳粛さは微塵も感じられない。

 建物の前になぜかおみくじの自動販売機がある。値段は100円らしい。

 俺はそれを華麗にスルーする。

 なんで教会にそんなものが置いてあるんだよ!

 バカじゃねえの!

 だが神はそれを許さない。



『おみくじを引け』



 またもや俺の腕に傷が浮かび上がる。

 俺は神に言われるままにおみくじの自動販売機に100円を放り込む。

 ガシャンという音がしておみくじが落ちてくる。

 俺はおみくじを取り中を開ける。



『大凶。今日お前は死ぬ。待ち人を返して欲しければ本堂に入れ。』



 ずいぶん悪意がある。

 どうやら神は俺を屈服させたいようだ。

 俺は素直に教会の建物に入る。

 なぜか巨大な邪神の像が飾ってある。

 股間が蛇のやつ。

 なんだっけパズズだっけ。

 メソポタミアの魔王だっけ?

 教会に関係あるとしたら映画『エクソシストⅡ』に出てきたくらいだろう。

 映画の影響だろうか?

 まるで知識がないままに大騒ぎをする中二病真っ盛りの子どものような内装だ。

 どうにも最初から感じていたことだが、この神はずいぶん幼い精神の持ち主のようだ。

 いや、相手をなめてはいけない。

 それすらも超越しているのかもしれない。

 なにせ相手は自称『神』ではあるし今は超常現象の真っ最中なのだ。

 俺は内からわき出るツッコミを抑えると適当な席に座る。

 先手必勝。現れた瞬間に殴る。

 それだけだ。


 数分が経った。

 それでも俺の集中力は途切れなかった。

 いや瞑想に近い状態に身を置けたようだ。

 俺の精神は研ぎ澄まされていた。

 それを待っていたかのように声がした。


「待たせたな。御影一颯。勝負をしよう! 殴り合いでな!」


 俺は立ち上がった。

 俺はあれからずっと考えていた。

 やつはこれを『ゲーム』と言った。

 つまり攻略不可能ではないはずだ。

 俺の力で攻略可能な試練のはずなのだ。


「まずは雑魚から」


 俺はスパナをリュックサックから出した。

 釘はポケットに入れてある。

 教会の奥から男が出てきた。

 男は天野だった。

 俺を刺し殺した方の天野だ。

 俺は全力で走る。


「どうだ! 怖いだろ! お前を刺し殺した男が……」


 最後まで言わせない。

 俺はその凶暴なツラにスパナを叩き込んだ。

 天野が崩れ落ちる。


「お前! これが実は女の方の天野だとは思わないのか!」


 ない。

 絶対にない。

 それは保証できる。

 神、お前のその性格の幼さは隠しきれない。

 それにその性格の悪さならゲームをしようなんて言わない。

 つまり考えられるのは神はゲームに縛られている。

 つまりゲームの景品に手を出すことはできないはずだ。


「くたばれ!」


 俺は第二撃目のスパナを天野に浴びせる。

 骨の折れる感触がした。

 天野が倒れピクピクと痙攣した。


「てめえこのサイコパス野郎! 容赦なく殺しやがったな!」


 天野がもう一人出てきた。

 やはりコピーか。

 つまりこの世界の天野は高確率で無事だ。

 俺はポケットから釘を取り出す。

 俺はもう一人のファンキーヤンキー天野くんの蹴りが届く間合いまで走ると、そのまま振りかぶって釘を投げつける。

 釘を投げるのは中国あたりでは定番の技術だ。

 回転させないため間合いは素手の届く範囲。

 釘が軽すぎるため投げナイフよりさらに狭い。

 力が必要なので精密射撃もできない。

 どこに飛んでいくかわからないほどだ。

 だがその威力は窓ガラスを貫通するほどだ。

 ドスりと釘が天野の腕に刺さる。

 俺は容赦なくさらに釘を投げつける。

 今度は足に突き刺さる。


「ちょっと待て! お前少しは俺の話を……」


 最後にスパナを振りかぶって渾身の一撃を振り下ろす。

 天野がもう一人死ぬ。

 俺はスパナに付いた血をシャツで拭う。

 次の天野は出てこなかった。

 代わりに神の声が響く。


「てめえ! ルール説明くらい聞きやがれ」


「うるせえ! 敵の話は聞いた時点で負けだ。敵は目に入った順から殲滅だ」


「どこの戦神だてめえは! あークソ、腹立たしい猿だ! いいぜルールを説明してやる。はいはい。敵を全員倒せ。負けたらお前を殺しこの世界は滅ぼす。もちろん今度こそ3人は消滅させる」


 相手は苛立っている。

 少なくとも主導権は握った。

 ……言葉が足りなかった。

 相手の話術には嵌まらないが俺の方は話術で嵌めて主導権を握ってやるのだ。

 俺はニヤッと嫌な笑いをしながら言う。


「どうせ、てめえの目的は俺だろ? さっさと殺しに来やがれ」


「……」


 一瞬間が空く。

 俺はそれを認めたと判断した。

 やつの目的は俺だ。

 財前めぐみでも、天野麗でも、田牧美沙緖でもない。

 俺なのだ。

 なんらかの理由で、神は3人を人質に取らなければならなかったのだ。


「いいぜ……やろうぜ……本気で殺し合おうぜ。まずは雑魚だ」


 やけに雑魚にこだわる。

 なにか理由があるのだろうか?

 もう一度天野が出現する。

 その手にはナイフが握られていた。

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