第2話 二周目の世界は壊れている
目が覚めた。
どうやら実家らしい。
寝汗で首がべたべたしていた。
俺はナイフで刺された箇所をまさぐった。
なにもない!
ということは夢か。
あれは悪夢だったのだろうか?
確かに中学時代の悪夢は数日おきに見る。
だけどこんなに鮮明なのは初めてだ。
俺は悩んだ。
どうやら俺は復讐に囚われすぎたのかもしれない。
そのせいで少し精神が追い込まれているのかも知れない。
おれは起き上がって鏡を見た。
きっと酷いツラを晒しているだろう。
薄いヒゲ。
いやヒゲはない。
痩けた頬。
髪はボサボサ。
鼻まである前髪の隙間から血走った目が見えた。
怖ッ!
って、ん?
俺は顔の違和感に気づいた。
髪型が違う。
ここ数年は髪を短く刈り込んでいたはずだ。
俺は腕を見た。
なんだこの細い腕は。
次に手を見た。
拳ダコがない!
俺は前髪を持ち上げる。
まぶたの上にグローブでこすって切った傷がない!
いったい俺は誰なんだ?
そして次の瞬間、ようやく俺は気づいた。
前髪を上げる俺。
それは12歳の俺。
中学に入学したときの俺だった。
オイコラどうしてこうなった?
◇
身だしなみを整えると俺は一階に降りる。
「イブキ! 遅い!」
母親に怒られた。
俺はそこでまた度肝を抜かれる。
母親が若い。
そうか、8年前だものな。
そりゃ若いわ。
若い母上にはすぐに順応できた。
だが若い自分は順応が難しい。
なにせ筋力がないせいか自分の体とは思えない。
慣れない歩幅でおっかなびっくりリビングへ歩いて行く。
「まったく、めぐみちゃん来てるわよ」
リビングの前にいた母親が俺に怒った。
そうだ俺の母親は口うるさかったのだ。
しかも話も意味不明だ。
俺にはめぐみちゃんの心あたりがないのだ。
「めぐみ?」
俺は聞き返した。
「お隣のめぐみちゃんよ! アンタボケてるの?」
おかしい。
俺は首をひねった。
お隣は財前のデブのはずだ……
俺はあの野郎と仲良がかった記憶などない。
俺は首をひねりながらリビングへ辿り着いた。
「おっはよー。いぶきー迎えに来たぞー!」
甲高い声が聞こえた。
俺は声の主を凝視した。
でかい。
複数の意味で。身長もあれも。
それは隣に住んでる怪獣デブではなかった。
茶色い髪で背の高い女子。
俺は必死になって脳内の人物データベースをサーチした。
女子の知り合いは母親以外では二人だけ。
そのどちらでもない。
こいつ誰だ?
俺は冷や汗を流した。それこそ滝のように。
なんでこうなった?
「えっと……どちら様で?」
俺は下出に出た。
女子は苦手なのだ。
俺の予想通り、目の前の女子は不機嫌になる。
「どちらって……イブキの意地悪。恵だよ!
誰だ……誰だかなんてワカラナイヨ。
身長が大きくて、隣に住んでて……
ただの偶然だよ……きっと……
俺は現実逃避をした。
だっておかしいだろ?
あのデブ、財前には妹なんていないんだ。
それに近所に巨大な生き物はあのクソデブ以外にいないのだ。
いやな予感がする。
なぜか俺の脳みそは財前啓輔と財前恵が同一人物と判断してやがるのだ。
ねえよ!
……ねえよ。
……いやまさか。
だんだん自信がなくなってきた。
「えっと……財前さん」
「殴るよ」
恵はにっこりと笑って言った。。
やばい爆弾に触れた。
女の子の起爆スイッチは難しい。
それにしても女の子を名前で呼ぶなんて!
これなんてエロゲ?
「……めぐみ」
「よろしい。で、なによ?」
「拙者、記憶が抜けて候。めぐみ殿には兄上がおりましたかな?」
緊張のあまりなぜか武士語になった。
俺は緊張すると奇行に走るタイプなのだ。
「いぶき……いい加減にしなよ。一人っ子に決まってるでしょ!」
「デスヨネー」
俺の中で審議中。
どうやらデブと恵は同一人物っぽい。
そう結論づけた俺の中である記憶が蘇った。
「目が覚めたら本物の俺を守れ。わかったな?」
天野の野郎が俺の今際の際に言った言葉だ。
嫌な予感がする。
もの凄く嫌な予感がするぞ!!!
だから俺はめぐみに恐る恐る聞いた。
「天野って知ってる?」
「委員長の天野っちのこと? あの娘かっこいいよねえ」
めぐみは目をとろんとさせた。
ガッデム!!!
嫌な予感が当った!!!
天野の野郎まで女になってやがる!
「あの……めぐみさん」
「さっきからなに?」
「田牧は?」
「たまきちゃんがなによ?」
いたあああああああああああああああああああああッ!!!
もうやだこの世界!
俺のSAN値は一瞬でマイナスだ。
アーカムアサイラムへ直行コースだぞ!
俺は目眩でくらくらした。
「もー! なにその態度!」
「う、うん。ごめん。が、学校に行こう」
俺は引きつった笑顔で言った。
めぐみは俺の顔を見ると「むーっ」っとむくれる。
「朝ご飯は?」
「食欲がない」
人間、ありえない状況に追い込まれると食欲など失せてしまうものなんだな。
正直吐きそうだよ。
「食べないからガリガリなんだよー!」
むくれためぐみが俺に注意した。
知ってますよー。
この三年後に素の世界のお前らへの復讐のためにプロテインとトレーニングでムッキムキになるんだよ!
こうして俺は朝飯も食べずにめぐみと学校に向かったのだ。
学校には天野と田牧がいるはずだ。
俺はこの世界の異変を調べるためにもヤツらに会わねばならないのだ。
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