第4話
しばしの沈黙の後、佐田は口を開いた。
「あの兵器はなぜこの地球へ来たのでしょうか?」
「あの破壊兵器の目的は不明だ。タヤン文明圏を滅ぼすことなどもはや造作もないはずだが、我々に対しては散発的に攻撃を仕掛けてくるだけなのだ」
「タヤン文明人たちは地球とそこに住む人々の存在を知っていたのですか?」
「少なくとも我々は知らなかった。奴が知っていたかどうかについては分からんが、知っていたとは思えんな」
「あの兵器に搭乗員はいるのですか?」
「消失した資料が多いのであまり確実なことは言えないが、誰かが乗り込んで起動しなければならないはずだ。大部分が自動化されているので、搭乗員はあれだけの巨体でもかなり少なくて済む」
「それでは、あなた方はあの兵器についてどれほど知っているのでしょうか?」
「あの兵器はイェズ側の極秘計画によるものだった。その上、開発開発関係者は皆行方不明か、死亡が確認されている。それゆえ、細かな仕様については今だによく分かっていない。我々に分かるのは開発計画の概要と内部に潜入した工作員による情報だ」
「潜入などできるのですか?」
「ああ。ただし生還者はいないし、奴の暴走が止まったこともない。奴が20年間戦い続けられた理由として…」
突然、翻訳機からブザーのような音が鳴った。
「むむ、訳語がないようだ。」
「どういうことでしょうか?」
「我々が動力として用いているエネルギーの話だ。これについてはあの兵器に限ったことではなく、我々タヤン文明圏では一般的に用いられているのだが、地球では使われていないようだな」
「そのエネルギーとは?」
「簡単に言えば、空間そのものが持つエネルギーだ。あなた達が知っているかどうかは分からないが、空間はそれを維持するためのエネルギーを持っている。それを少しずつ動力へと変換させることによって、半永久的にエネルギーを確保できる」
「空間そのものが持つエネルギーですか…そんなものが存在しているとは。しかし、空間を維持するためのエネルギーを使うなど危険ではないのですか?」
「動力として使うぶんには安全だ。このエネルギーが減った空間は縮んでしまうが、縮んだ空間には周辺の空間からエネルギーが流れ込んで元の広さに戻る。空間の縮ませ具合を抑えれば実害はない」
「動力として使うぶんには、ですか」
「この技術を動力源ではなく空間の圧縮そのものを目的に使えば危険にもなる。空間そのものが圧縮される時、その場にある物体も同様に圧縮されてしまうのだ。だが、この空間圧縮があればこそ、我々は何光年もの距離を航行できるようになった。空間が縮めば、その分空間が持つ距離も縮むからだ」
「そうですか…では話を戻しましょう。あの兵器が20年間戦い続けられた理由についてでしたか」
「あの兵器が20年間戦い続けられたのは、今話したエネルギーによる半永久的な動力確保だけが理由ではない。奴の内部にある弾薬、修理用パーツを製造可能な工場こそが、ここまでの長期稼動を可能にしているのだ」
「しかし、いくら工場があると言っても、原料を補給しなければ意味がないのでは?」
「そこが奴に潜入するポイントなのだ。奴は破壊したものの残骸や隕石、果ては惑星を切り崩して内部に取り込み、原料を自力で精製できる。それは生物における食事と同じような役割を持っている。そこで、奴が食事をする時、うまく残骸に偽装して内部に潜入するというわけだ」
「では、潜入によってどのようなことが分かったのですか?」
「残念ながら内部に工場が存在しているということぐらいだ。それまでは食事の意味について仮説しか立てられなかった。あとは潜入部隊が帰還すらできなくなるような何かがあることか」
「その他に知っていることは?」
「武装の一部だな。目から発射する光線、ロケットパンチ…訳語があるのか」
咳払いが入りつつ、話は続く。
「他にも様々な武装を持っているが、特に危険なのは先ほど話したエネルギーを用いた武装だ。あの兵器が開発された当時の最新技術によって、奴は空間の圧縮だけでなく空間の膨張をも可能にしている。こちらの兵器を空間ごと膨張させて破裂させたり、届くはずの攻撃を届かなくさせたりできる。この技術を我々が再開発するのに20年近くかかってしまった」
「つい最近まで失われていた技術、ということですか」
「そういうことだ。ただ、復元はできたが未だ有効に使えてはいないがな」
「そうですか…」
「そろそろ地球のことについても教えてもらえないだろうか?電波からの情報を無差別に拾っているから分析しきれないのだ」
「わかりました」
佐田は地球のことについて質問に答えた。
「やはり戦力としては期待できなさそうか…」
「我々ではあの破壊兵器のみならず、あなた方の通常戦力すら相手にできないでしょう」
タヤン文明人からの質問に答え、会談は終了した。これからどうするのか。相手がどういう存在なのかということは分かったが、それに対してどう動けば良いのかはさっぱり分からない。佐田は頭を悩ませていた。
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