第2話

いや、小さなというのは間違った認識のようだ。あくまで最初に飛来した巨大ロボットに比べて遥かに小さいというだけのことであり、小型に思われたロボット群も一般的なビル程度の大きさはある。飛来したロボット群は巨大ロボットに対して攻撃を仕掛けている。ロボット群の持つ武器から放たれる射撃は何故か巨大ロボットに着弾する前に消滅しているようだ。巨大ロボットの方は、自身に向かってくるロボット群を掴んでは投げ、投げたロボットを別のロボットにぶつけて次々にロボット群を破壊していく。

「この惑星の人間!聞こえるか、私達の声!」

空からまたしても別の何かが飛来した。今までと違い人の形をしておらず、SFに出てくる宇宙船のような形をしている。その宇宙船らしき構造物から大音響が呼びかけてきたのである。

「私達はあの武器を追った!この惑星の責任者、私達に連絡!」

上手いとは言い難いが、宇宙船らしき構造物は日本語で呼び掛けてくる。しかし今や東京でその呼びかけに答えられる者はいない。巨大ロボットによる津波と破壊によって東京23区内の人間はその大半がすでに死んでいる。それは政治家や官僚も例外ではないのである。


8時56分。日本の首相である佐田勇一は草津にいた。偶然ではあるが彼はこの日休暇で温泉旅行に来ていたのである。東京の惨状については彼の耳にも入っていたが、具体的なことはほとんど分かっていなかった。何しろスカイツリー、放送局どちらも破壊されているため東京のテレビ、ラジオ局は機能していないのである。インターネットも時間が経つごとに東京からの情報発信は途絶えていき、虚実入り交じった大混乱に陥っていた。今のところ、継続的に東京の情報を得るためには、津波被害のない埼玉方面からの望遠映像に頼る他なかった。

「あの宇宙船からの言葉…信用できるんでしょうか?」

秘書の小倉が問いかける。この旅行には佐田の家族以外に小倉とSPが有事に備え同行していた。

「信用できなくともコンタクトを取らざるを得んだろう。自衛隊の戦力でどうにかなると思うか?」

「しかし、攻撃が通らないと決まったわけではないのでは?」

「小型ロボット群は全く相手になっていない。自衛隊隊員にもああなれと?」

「では宇宙船とコンタクトを取って事態は改善すると思いますか?」

「少なくとも何も分からん現状よりはマシだろう」

「しかし罠かもしれませんよ?」

「それでも飛びつかなきゃならんほど我々には選択肢がない。大体あんなロボットを擁する連中がそんなみみっちいことする必要性は薄いだろう。それより問題なのはどうやって宇宙船とコンタクトを取るかだよ」

「そうですねえ…電話や無線は通じるか怪しいですし…」

「そもそもなぜ連中は日本語を使っているんだ?その辺に何かコンタクトを取るための糸口がありそうだが」

「あの宇宙船に日本語の分かる人物が乗っているのでは?片言ですから日本人では無さそうですが」

「君はあの宇宙船が地球のものだと思うか?」

「あんなものは見たことがありませんが…総理は宇宙人のものだとでも言いたいのですか?」

「そうだ」

「まさか!いくら非現実的な光景が目の前に広がっているからってオカルトに走るんですか?」

「総理大臣である以上私にも世界の軍事、宇宙開発に関しての知識はある。東京の連中は技術革新が一度や二度起こったぐらいじゃ造れん。どこかの国が極秘に開発したとしてもあれだけの物はできないぞ」

「ですが…」

「仮にどこかの国が開発したものだとしても真っ先に東京を狙う理由はないだろう。アメリカはもちろんロシアだって東京を最初に狙う理由はない。中国との関係は良くないがそういう国は他にもあるし、経済的な結びつきの強い日本の首都を最初に狙うとは思えん。北朝鮮でさえ韓国より先に日本を襲撃するのは不自然だ。何より今まで挙げた国ならもっと自然な日本語を喋れる人物ぐらいいるだろう」

「ではテロ組織の犯行という線は?」

「テロ組織ィ?それこそオカルトだろ。技術革新の一度や二度じゃ造れない物を何でテロ組織が持ってるんだよ?」

「…ううん…」

「まあいい。それより宇宙船とコンタクトを取る方法だ。こちらも大音量が出るスピーカーで呼びかけるしかないか?」

 「それが確実ではありますね。しかし危険すぎますよ」

 「そうだな…相手が宇宙人だというという仮定で話を進めるが、連中はどうやって日本語を習得したんだろうか?その方法を用いれば向こうにメッセージを送れると思うんだが」

 「テレビ、ラジオ、インターネットあたりが有力でしょうか」

 「連中にその手の受信設備があるのかねえ?」

 「相手が宇宙人ならという仮定ですが、通信手段そのものはあるでしょう、そうでなければ技術体系が歪すぎます。ただ我々の使っている方式と同じものかは知りようがありませんがね」

 「それじゃあネットを試してみよう。YOUTUBEの民自党公式チャンネル経由でメッセージを発信する。そしてその動画を民自党公式twitterで拡散する。そしてその情報を他メディアにも取り上げさせるんだ」

 「分かりました。早速録画しましょう」

 「ちょっと待て、宇宙船との会談場所を決めておく。宇都宮駐屯地にしようと思っているんだが」

 「少し遠くないですか?」

 「罠かもしれないし、巨大ロボットも一緒に来られては困る。宇宙船やらロボットが会談場所を破壊しようとするなら近すぎると危険だ」

 「分かりました。では連絡しておきましょう」

 佐田が宇都宮駐屯地に連絡を入れている間に、小倉は撮影の準備に取りかかる。

 「準備OKです」

 9時10分。佐田は動画共有サイトYOUTUBE民自党公式チャンネルに声明を発表した。

 「民自党総裁の佐田勇一です。現在、東京は正体不明の構造物による攻撃によって甚大な被害を被っています。東京のみならず、富士山までも被害を被っている以上、かの構造物を放置することは日本のみならず世界全体に深刻な被害をもたらすでしょう。そのような状況を打開しようにも、現在中央省庁との連絡は途絶えています。かの構造物が何なのか、それどころか東京ではどれほどの被害が出ているのかすら分からない現状、情報源は少しでも多い方が良いと判断し、構造物のうちこちらと接触を望んでいると思われるものと接触することとしました。しかし、現在構造物と直接連絡を取る手段がありません。よってこの動画の内容を構造物に知らせるためにも、テレビ、ラジオ局の方々、そしてこの動画を見ている皆さんにお願いがあります。この動画を取り上げ、内容を拡散していただきたいのです。そして構造物から呼びかけてきた方々、この動画を見たならば栃木県宇都宮市に向かってください。そこにある駐屯地にて会談を行いたいと思っています。それでは日本の皆さん、構造物の皆さん、よろしくお願いします。」

 この動画は各放送局の災害特番にて取り上げられ、インターネット上でも拡散されつつあった。すると、宇宙船らしき構造物は凄まじいスピードで宇都宮まで向かっていく。そのスピードは地球上で見られるどの飛翔体よりも遥かに速いスピードであった。

 「我々も行くぞ」

 佐田は家族を残して宇都宮へと出発した。

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