大聖賢、潜入する


「んでよぉ、西の飲み屋の売り子がすんげぇ別嬪さんでなぁ!」


へぇ、それはいい。僕も試しに今度行ってみよう。


「今度はお前も連れてってやるよぉ!」

「うぇぇ。やめろって……。お前、デブ専ブス専(超)熟女専だろうが。俺は若くてスラッとしてて整った顔の娘が好きなんだ」


よし、後回しにしよう。


ぎゃーぎゃー騒ぎながら歩いていく歩哨をやり過ごして、僕はダンボール箱の中から顔を出した。

僕は今、王都最大級の資源ダンジョン、『ラグナロク』に潜入していた。ここは、大した魔物も出ず、通路も一本道で、全十階層しか無い危険度的には下の下のランクなのだが、豊富な魔力結晶が大量に産出されることから、半ば鉱山のような扱いになっている。


何故こんな所にいるかというと、アリシアに啖呵をきったものの、僕が国王に使える手札が残り少なくなってきたからだった。かといって、弱みなんてそう簡単に見つけられるものでは無いので、王家直轄の、関係者以外立ち入り禁止の区画まで足を伸ばしてきたのだ。

当然、バレれば僕とはいえ処罰は免れないが、僕は世界最上位種族のハイ・ハーフエルフの、さらに上位の一人。たかが人間の警備如きで探知できるはずは無い。

……え、ダンボール必要かって?勿論必要ない。昔、友から教えてもらったのだけれど、潜入ではダンボールを使うのが様式美だそうだ。

友人はダンボールと春画を組み合わせた罠は凶悪だと熱く語っていた。


まぁ、今はそんなことはいい。僕は数多く貼られている結界をすり抜けながらダンジョンの奥へと進んでいく。


「それにしても、雑な結界の構成してるなぁ……。こんなの、そこらの木っ端な魔法使いでも三日もあれば抜けれるじゃ無いか」


僕は国の最重要施設の警備がこの程度のことに嘆いた。この国も落ち目かもしれない。


「でもなぁ……。初代との約束もあるし、アリシアたちはいるし、出て行くのはちょっと。あ、現王アイツは嫌いだけど。現王アイツは嫌いだけど!」


大事なことなので二回言った。もちろん、僕の構成する隠密術式は声を出したくらいで周りに気取られるような造りにしていない。


「……お、あそこかな?」


やがて、僕は荘厳な扉の前にたどり着いた。真っ直ぐ一本道だったとはいえ、歩哨もいたし、距離もあったので2時間近くは歩き通しだった。

扉の前に行くと、明らかに空気が変わっていたので、多分、ここから先が魔力結晶の採掘場なのだろう。扉の横で直立不動の門番の練度からしても、間違いない。


「さぁて、たかだかごときにこれだけの警備を割いてる理由は何かな〜? しかも僕には秘密裏に」


国王のへそくりか?はたまた違法な施設か?横領の現場か?


門番に認識阻害をかけて、開いた扉の先。

僕が見たものは。


「いや〜、たのし−−−−−−−−−−−−え?」





















変わり果てた姿で水晶に包まれる僕の友人。


初代国王『勇者』シュン・ベルウッドだった。








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