初めての来客

 ダンジョン、とはそもそも何か。

 私がそんなことを考えたのは随分前のことだ。ダンジョンとは、ダンジョンコアの住む領域。ダンジョンコアはその領域内で発生する、或いは放出される魔力を喰って生きている魔法生物の一種だ。ダンジョンコアは喰った魔力を、ダンジョンポイント(以下DP)というコアの行使しやすい形に変換し、魔物の召喚や生成、ダンジョンの改築、宝物の設置などを行うことができる。

 こうして誘き寄せた人間や野良魔物にダンジョン内で戦闘、生活、殺害させることで、放出された魔力を喰うのだ。

 私は、まるで蜘蛛の巣のような印象を受けた。いや、正しくコアの巣ではあるのだけれど。印象としては、お宝という餌がある分、提灯鮟鱇の釣りのようなイメージの方が近いのかもしれない。

 ともかく、私はコアをそういう生態の生物だとおもうことで納得した。


 納得はしたのだが、正直な話、私は考えることが苦手なので、どんなに考えても、外敵を誘い込む最適なバランスがわからなかった。という訳で、今の私のダンジョンの位置は山奥だ。碌な魔物も人間もいない、けれど地脈からの魔力で最低限食いつなげる好立地の山奥だ。

 そんな場所で、私は配下の魔物数体と一緒に暮らしている。……いや、いた、と過去形にするのが正しいだろう。



 ダンジョン内に、大きな魔力反応。侵入者だ。



 私は頭を抱えた。逃避だと分かっていて、今の場所を選んだ。なので、逃げる準備はしてあった。それでも、一番最初の敵が、こんな高密度の魔力を放っているなんて、タチの悪い冗談だ。

 私は仕方なく、ダンジョンメニューを開き、領域内視察を発動させる。……相手は一人、男だった。男は迷いなくコアのある方に、つまり私のいる方に歩いていた。


「ねぇ、コン? どうしようか?」

「くぅ〜ん……」


 配下の魔物の一人、白狐の幼体のコンに話しかけるも、気分としては半ばヤケだ。多分、死ぬ。人が、利益を生まないダンジョンを残しておく理由はないからだ。

 と、そこで、私は気が付いた。メニューの画面の向こうの男が、こちらを向いており、私と目が合ったのだ。

 ゾワリ、と寒気がした。そして、男は口を開いたのだ。


「ダンジョンコアさん? 見ていらっしゃるのでしょう? 僕に敵意はありません。少しお話ししませんか?」


 この通り、お土産もありますし。そう続けた男に、私は呆然とした。敵意はない? 話し? お土産?

 私は男の意図が全くわからなかった。




 結局、私は男をコアの間まで通した。……違う。どうせ守りきれないとか、お土産に吊られたとか、そんなことはない。


「どうぞ、お嬢さん。王都で人気のケーキというものです」

「受け取っておく」


 差し出された箱を受け取り、コアの倉庫機能に収納しておく。貰えるものはもらっておく主義だ。


「それでは、初めまして。ダンジョンコアのお嬢さん。僕の名前はオルス。オルステッドだ。唐突だが、僕と結婚しよう」


 その言葉に、私は逆に少しだけ冷静になった。人間(?)慌てすぎると逆に落ち着くのかもしれない。

 初めこそ、男、オルスの言い分を理解できなかった私だが、全ての話を聞いて、今の状況がようやく理解できた。

 そして、私はオルスに言った。


「協力してもいい。ただ、一つ条件がある」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る