恐怖使いのダンジョンマスターは、人類に真正面から敵対する

天皇山蓮

プロローグ:SIDEセルフィー

不愉快な男


「初めまして、ダンジョンコアのお嬢さん。ボクの名前はオルス。オルステッドだ。唐突だが、ボクと結婚しよう」


 私は目の前の男の言ったことがよく分からなかった。それは、様々な意味でだ。そもそも、ダンジョンコアの化身である私、セルフィーには結婚という制度がよくわからない。朧げな知識こそあるものの、それは愛し合った人間の男女が長い時間をかけて絆を育み、社会的にその仲を認められる、そんな制度だったと思う。

 まず、私は人間ではないし、この男……自称オルスとは初対面だし。当然、この男と何かしらの仲を育んだ記憶などないし、おそらくそんな事実もない。オルスも、『はじめまして』と言ったことだし、それは確実だろう。だから、私は正直に言った。


「拒否する。意味がわからない。いえ、訳がわからない、と言った方が正しい? ともかく、貴方を受け入れる理由も余裕もない」

「正常な反応だね。よかったよ。これで、喜んで、とか言われたらまた探しなおしだったからね」


 オルスはそう言って嬉しそうに笑った。どうやら私は大変不本意ながらオルスの最も求めていた答えを出してしまったらしい。正直ウザイ。

 ここにきて、私はようやくオルスの姿をマジマジと観察した。まず目が行くのが特徴的な耳。恐らく人種と森種のハーフ、所謂、ハーフエルフというやつだろう。少し癖のある金髪や、不自然な程整った顔、それでいて華奢でもなく親しみを感じさせるような表情。私の中にあるハーフエルフの特徴と合致する。


「そう、君の考えの通り、ハーフエルフだよ」

「……考えを読まないで。とても不愉快」


 オルスはニコニコしたまま何も答えなかった。不愉快な男だ。私はどうしてこうなったかを反芻しながら顔を顰めた。

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