第11話 邂逅
◆
「ようやく魔王の居場所まで辿り着いたな」
「ええ。ここまでよく頑張ってきたわね」
「なに仕切り直しに入っているんですか!?」
決め顔で先刻と同じセリフを吐くアキラさんとハルカさんにツッコミを入れる。
あの後、禿げ頭のおじさんはアキラさんが吹き飛ばしました。本当になんだったんだろう……?
「というか話をさせてください」
「やだね」
「いやよ」
「まさかのお断り!?」
二人がバツ印を仲良く見せて来たので、遠慮なくツッコミの刃を向ける。
「そもそもボクにはこれまでの旅路の記憶がないんですけど? それにこの国は、あの後インターネットで見つけた目撃情報を辿ってきた一つ目の国なんですけど?」
「あー、メモリーカードがいっぱいになっていたか」
「15バイトしかないもんね」
「昔のゲームのですか!?」
何故かそんな予備知識があるボクの記憶。
本当によく分からない。
ボクは何だったのだろう?
「まあ、でもいいじゃん。長き道中が見たけりゃブルーレイを買ってもらえば」
「ブルーレイ!?」
「ブルーレイでも私のモザイクは取れません」
「購買意欲を減らしてどうするんです!?」
でも、ハルカさんのモザイクが取れたら防ぐ盾が無くなってしまうので当たり前のことではあるのだが。神様から与えられた目的に反してしまうので透明にも出来ない。
……そういえば、神様とはなんだろう。
ふと思う。
アキラさんとハルカさんに能力を授けた神様。
そもそも二人はどうしてその人を神様だと思ったのだろうか?
能力を授けられたからだろうか。
「エロ神様エロ神様。どうかブルーレイでは乳首を解禁してください」
「このままだと私じゃなくてアキラの乳首が解禁されるわね。綺麗なピンク色の」
「誰得だよ?」
「私得ね。……そういえばセイの処理はどうなるのかしら?」
「男でも女でもないから……金乳首だな」
「いや、銀乳首よ」
「貴方が落としたのは金乳首ですか? それとも銀乳首ですか?」
「いいえ。どどめ色の乳首です」
「妙にリアルな回答しないでください! というか金乳首と銀乳首って何ですか!?」
全く……この二人に少し任せたらこんな会話の応酬ですよ。思わずツッコミを入れたくなりますよ。どうしようもないですよ。短い間でも相当でしたよ。隙あれば下ネタいちゃいちゃするのですから。
……でも。
まずツッコミを入れたいのは、この状況に対してだったりする。
「二人とも、落ち着きました?」
「ああ、ありがとう、セイ」
「いつもなら文字通り乳繰り合って落ち着くんだけど、今日はきちんとノータッチで出来たわ」
「……」
ツッコミを我慢した。
流石にそろそろ緊張感を持つ必要があると思ったからだ。
最初に述べた通りだ。
幾多の苦難。
幾多の困難。
幾多の戦闘。
幾多の出会い。
幾多の別れ。
そんな冒険譚は全く無く、全部すっ飛ばして。
ボク達は辿り着いた
辿り着いてしまった。
魔王の住処である、とある森の中の一軒家に。
「まさかこんなただの山小屋だったとはね」
「魔王城とかそんなのを想像していたから、拍子抜けよね」
「見る限り普通の家ですね。インターホンもありますし」
三者三様に感想を述べる。
無理もない。
インパクトが無さすぎる。
「っていうか本当にここなんですかね?」
「俺も自信無くなってきた」
「でも魔王の側近って言ってたやつから訊いたから、一応は合っていると思うわよ」
先程の禿げ頭のおじさんのいざこざよりも更に前の出来事。
ネット上にあがっていた情報から向かった小国のとある山奥に向かう最中、ボク達は翼の生えた蒼髪のイケメンと遭遇した。
何とそのイケメンが、魔王の側近だったのだ。
というよりも魔王の側近を名乗ったのだ、と言った方が正しいが。
「あの側近……手強かったな」
「ええ、そうね。激闘の果てに何とかアキラが勝利を収めたのだけれど」
「ねつ造しないでください!」
正しくは、アキラさんがそこら辺を歩いていたイケメンに唐突に襲いかかって打ち倒したら、たまたま魔王の側近だった、ということである。
「でもきちんと怪しいと思って襲ったんだぞ。一割」
「少なっ!」
「何か俺の心の剣にビビッときたんでね」
「股間の剣にビンビンッときたのね」
「その下ネタをハルカさんが言うんですか!?」
てっきりアキラさんがいうモノだと思って身構えたのに。
そして二人は、いえーい、と手を合わせて喜んでいた。そんなにボクの裏をかいたのが嬉しいのかこんちくしょう。
「――とまあ、最終決戦前の悪ふざけはここまでにして」
「そろそろ行くわよ」
「……」
先の文句を口にしようとした所でこれだ。
この二人、完全に先を読んでいる。
……もしかすると。
ボクがかなり緊張していることを知って、和ましてくれたのかもしれない。
予想よりもかなり早いが、ついに魔王の元まで辿り着いたかもしれないのだ。側近が嘘をついている可能性もあるが、あの見た目は本物っぽいので、ボクはこの先に魔王がいると信じている。
故に、密かな震えが止まらない。
もしかするとボクの性別が取り戻せるかもしれない。
だけどそれは同時に……この二人との旅が終わってしまうことにもなる。
ここまで一緒だった二人との。
短かったけど、色々あったなあ……二人は隙あれば下ネタばかり言ったり暴走したりするので、こっちはツッコミで夜ぐっすり眠れるほど疲労したなあ……アキラさんはすぐ尻を触ってくるし、ハルカさんはすぐ脱ごうとするし、もう大変……
……あれ? 何も惜しむ必要はなくないか?
「さあ行きましょう。さっさと先に進みましょう。そーれポチッとな」
「あっ、セイがついにボケ側に回った」
「どこで教育を間違ったのかしら」
よよよと嘆く二人をよそに、ボクはインターホンを押した。
魔王がいると思われる山小屋の。
ピンポーン。
「はーい。宅急便? 今日は遅かったです……ね……?」
その声と共に満面の笑みで顔を出してきた。
それは見目麗しい女性であった。
サファイア色の瞳に、側近と同じような鮮やかな長い蒼髪。
その整った容姿とは裏腹に、ラフな格好。
赤いジャージ。
その中心に大きな二文字。あれは確かニッポン語だ。
到底人前に見せてはいけない姿――完全なオフな状態の姿であった。
しかし、ジャージ姿ではあるが、その容姿は魔王というよりも、むしろ――
「あ、神様じゃん」
「おひさ」
「……え?」
アキラさんとハルカさんが片手を挙げて軽く挨拶をした。
この二人の口から出てくる「神様」とはただ一つである。
「はわわっ! どうしてここにっ!?」
二人に能力を与えた神様だ。
特徴ある「はわわ」という言葉も同じである。
そして。
神様と呼ばれた女性の豊満な胸元にある二文字には、こう書いてあった。
――『魔王』、と。
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