第8話 剣

 光の柱。

 それは見覚えがあった。

 ボクが襲われていたあの時に、襲撃者に逆に襲いかかった光。

 あの時も確か、アキラさんは股間に手を当てていた。

 それだけで、前方にいた敵が弾け飛んで行った。

 あの時は一瞬だったが、今はずっと出し続けているのでその正体が分かった。


 光剣。


 光り輝く二メートルほどの剣が目の前にあった。

 アキラさんの股間から生える形で。


「これ、興奮すると伸びて硬くなるよ」

「いらん情報をまた入手してしまった!」

「ま」


 アキラさんがくるりと一回転する。


「嘘なんだけどね」


 背部から「ぐえっ」という声がした。

 見ると黒タイツの敵が白目を剥いて倒れていた。

 ただ単に剣を振っただけならば、ボクにも当たってしまっていただろう。かといって先に口にしていた『興奮すると伸びる』のであれば、瞬時に伸び縮みするのは人間としておかしい。

 ……まあ、光剣が股間から放たれている時点で普通の人間とは異なっているのだが。

 ともかく、嘘だというのは『興奮すると伸びて硬くなる』ということだろう。


「アキラさんの自由意思で距離は自由自在ってことですか?」

「威力も含めてな。熱量も抑えたから多分死んでいないはずだ」


 その言葉が示す様に、黒タイツは唸り声を上げており、その息の根は止まっていなかった。昼間の暴漢の件といい、彼は人を殺さない程度に威力を抑えられるのは実証している。

 だがその言葉の裏にはこうもある。


 


「ま、欠点としては、股間から出るからこうして押さえていないと方向が定まらない所だね」

「色々と台無しですっ! どうしてそんな仕様にしたんですかっ!?」

「いや、俺が決めた仕様じゃないし」


 アキラさんは苦笑する。


「ハルカの盾が突破できなくて悩んでいたら、神様がやってきて『強さが欲しいか』って言って来たんで『それより俺の股間に溜まっているリビドーを開放したい。性欲が無いから溜まり続ける一方なんだよ』って返したら『はわわ……ゴホン。じゃあ疑似的に開放できる剣を授けよう』とか言って来てこんなことに」


「これまたツッコミどころがあり過ぎる!」

「まあでもハルカの盾を突破してツッコミは出来なかったんだけどね」

「それもいらない情報!」


 そんな会話をしている最中でも、彼は腰の動きを止めなかった。

 ……いや、こう表現すると怪しいが、単に敵を倒していただけである。

 ハルカさんの盾の隙間から相手を攻撃する。

 相手の攻撃はハルカさんの盾に弾かれる。

 無敵のフォーメーションである。


 あっという間に、襲撃犯全てを倒してしまった。


 ボクはぽかんと口を開けているしか出来なかった。

 本当にあっという間、しかも圧倒的だったのだ。


「――どうだ、セイ?」


 そんなボクに、アキラさんとハルカさんは微笑みかけてくる。


「俺達の実力、魔王を倒せるだけはあるだろ?」

「信用した?」


「……はい」


 ボクは頷いた。

 この二人ならば魔王を倒せるかもしれない。

 いや、倒せるに違いない。

 そう確信した。


 と、同時に思った。



 全裸の女性と股間に手を当てている男性がいるこの絵は非常にシュールだな、と。

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