写真の中の巫女さん

梅雨明け間近と報じていた天気予報が外れまだなお明けぬ梅雨の、久しぶりの晴れ間にネコが日向ぼっこをしていた。その様をうっとりと眺めながら、お札授与所に座っていた。やわっこくってふわふわの毛玉が、ほど良い日射量の心地よい地べたで無防備に寝入る姿に頬は緩みっぱなしになっていた。

「今日の朝刊見た?」

 背後から奥さんに声をかけられ振り返ると、新聞の一面を差し出された。そこにはいつぞやに隠し撮りされていた、ネコを撫でながらサボっている私の写真が掲載されていた。

「げっ」

「よかったね、こりゃぁモデルさんが良いから賞を獲ったんだろうね」

 にやにやと準入選を果たした写真と私とを交互に見つめる奥さんに

「宮司さんには?」

「見せたけど、あっそうだって」

 あぁ、見せたんだと落胆しながら、その日の業務はしめやかに終了した。

「おう、新聞見たか?」

 家に帰るなりおじいちゃんが破顔して私を出迎えてくれた。手には新聞の切り抜きが握られていて、やったな有名人だな、がははと笑った。

 学校では新聞に載ったことがばれる事もなく、刻々と近づいてくる期末試験への緊張感が高まりつつある教室では特に問題にならなかった。ただ、下校の際に玄関口で校長先生に朗らかに肩を叩かれ、切り抜きを見せられるなどはした。

 新聞に掲載された日の週末は、お札授与所にいると新聞で見たよとかねこちゃんいないの?など興味本位に尋ねてくる参拝者が若干名いたが、翌週になると自然とその話も出なくなった。

 期末を控えた週末に、お札授与所でこっそり化学の追い込みをしていると、あのぉと声をかけられた。

「あぁ、先日はありがとうございました。お礼と報告に来るのが遅くなり申し訳ありません」

 いつぞやのカメラマンが深々とお辞儀をしていた。どう対応して良いのか分からずに、とりあえず外に出てはぁ、とかおめでとうございましたとか胡乱な受け答えでしどろもどろになっていると、買い物から帰ってきた奥さんがあらぁ、と駆け寄ってきたところで、放念した。

「この間はうちの巫女さんをあんなに綺麗に撮っていただいて、ありがとうございます」

 完全に他人事を楽しんでいる奥さんにあれこれ褒められ質問責めにされ、たじたじのカメラマンを残して、私は境内の掃除兼この場からの脱出を図った。

 カメラマンと奥さんがその後どんな会話をしたのか不明だが退勤時に二人の姿は見えず、無人の社務所にお疲れ様でしたと呟いてその日は家に帰った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る