第5話

 ボスの熱心な講義と、俺とオメガのたゆまぬマジカル努力の成果か、不思議な法パワーが次第に使えるようになってきた。

 レベルアップです。ボス、俺成長してる!!

 面倒な処理とかを全部オメガに放り投げたら、もう本当余裕すぎて鼻水飛び出ちゃいました。

 ボス、俺成長してる?



 マジカルな能力がある程度使えるとボスが判断したことで、我々はいよいよ外出する権利を獲得した。色々と思うところはあったし、別に外出権を要求したわけではなかったのだが。ともあれ我らは外の世界を知ったのです。

 外の空気、うめえ! 味とか別にないけど、精神的な美味しさが満ち満ちていますね。

 そして何よりも風景。これまでは真っ白な壁とボスの私物とキッチン器具や食材しか見てこなかったが、眼前には様々なアレコレが広がっている! 名前のわかんない鳥! 名前のわかんない木! あと蟻!! 目にも美味しい!


 そういえばご存知ですか。

 子曰く、法とは「語りうるものを語る」行為だそうです。

 語れるもんを語るならってことで、俺が生前得た知識をオメガに伝えたらいい感じに興味を示してくれた。コレがキッカケで外出権を獲得したんですね。えっオメガさんなんですか? 放逐? イメージだけ飛ばすんじゃなくて会話しましょうね。


 このようにオメガは裏に引っ込む事がちょっと増えた。思考実験めいた演算を繰り返しているご様子。おかげで俺はボスに無理って言われてたちちんぷいぷいプロトコルで法を使えるけど、同居人としては寂しい。


「危ない目にあいたくないからです。マスターに怒られたのもトラックのせいです。私まだ怒ってるんですからね」


 オメガさんはご機嫌に傾斜がかかっているみたいですが、すべてのキッカケはウォーターカッターの話をオメガにしてみた時のことだろうなあ。



◼︎



 ある日の昼下がり、俺たちは食器を洗っていた。我が家の台所にはタイル張りの流し台があり普通に蛇口が備え付けられているので、語るところもない普通洗い物である。節水に関してボスから何を言われたわけではないが、俺は桶に水を張ってじゃぶじゃぶしている。

 昼食を済ませたボスは謎の研究に没頭しているため、俺たちは食器洗いの傍ら雑談に興じていた。

 普段から適当な話題をオメガに振っていた俺だが、この日に限っては話題の毛色が違う。なんとなくファンタジィって世界にいるけど魔法らしい魔法現象を見たことがないもんだから、俺の生きた時代の魔法的なツールの話をしてみたのだ。


 「凄い勢いで水が発射されるとどんな物でも切れちゃうんだぜ!? ロマンだよな、ウォーターカッター!!」


 桶の水を両手で包むように掬い、水鉄砲をしてみせる。

 気持ちとしては「豆知識を教えてやる!」くらいだったのだが、これに対してオメガは執拗に質問をしてきた。 


「何ですかそれは? お水なのに刃物のように物体を切断すると? それはないでしょう、お水ですよ。私を馬鹿にしてます? もしかしてトラックは嘘つきですか? トラックが嘘つきだと脳を共有する私も芋づる式に嘘つきと認定される可能性が生まれるのですが、考慮されましたか? もしかしてトラックは嫌なヤツですか? それはそれとしてウォーターカッターという物をつまびらかにする必要は感じませんか? 私は感じます。つまりあなたも感じるということ。調べましょう」


 疑問というテイにしながら色々言われているし、変な話題展開で怖い。

 しかし、どんなにオメガが興味を抱こうと俺のウォーターカッターに対しての認識は浅い。知っていることといえば、水をめちゃくちゃ圧縮して高速で射出するとモノが切れるっていう雑なものだ。つまびらかにしようもない。


「あ、え、オメガさん、そんなに興味をお持ちですか? 俺も技術屋じゃないから詳しくは知らないぞ」


 一枚二枚と皿を洗いつつ、オメガに返事をする。どうしたらいいもんかね。

 精神的な活動をしているのは三人いるが、実際に食事をしているのは二人だけだ。洗い物なんてすぐ終わってしまう。洗い物をしながらではウォーターカッターの仕組みをうまいこと調べる方法が考えつかなかった。


 エプロンで手を拭きながら少しだけ考えて、俺は水遊びでもしてみますかとオメガに提案したところ、オメガは「発想が稚拙ですね」とぶーたれた。脳みそを共有する相手に対して酷い扱いである。

 とは言え、オメガの感情にあからさま拒否の色はない。若干の楽そうな情感が伝わってくるほどだ。言葉はたくさん知ってるみたいだけど、こいつはまだ子供なのかもしれない。

 お子様オメガ様のためにもちょっとばかし考えにゃならんなと、俺の心はお兄ちゃん属性に傾くのであった。


 さて、お水遊びときたら普通はどこに行くだろうか。

 子供時代を思い描くのであれば庭かな。ホースを使って水遊び、ビニールプールでワッハッハってところだろう。

 だが残念な事にこの家には庭がない。いや、あるのかもしれないが俺たちはこの家のどこが外に通じているのかを一切知らない。外に通じている扉がないのだ。随分と広い敷地面積を持つ計四階層の建物であると知っているのだが、この家には窓も無く地上か地下かの判断もつかない。まあ生活に不自由していないし、オメガとボスとの生活もわりかし心地よいという理由で気にもしていない。死後のボーナスゲームと考えれば大満足なので、俺は「そういうものか」と納得している。

 話は逸れたが、そういう訳で庭は除外。遊べそうな水場となれば風呂場になる。

 外とのつながりが絶たれている我が家だが、この風呂場はなかなかのものである。学校のプールかよってくらい広さを持っていて、風呂場というかは浴場だ。

 そこで水の実験をしようというはこびになった。


 今日も今日とてメイド服。俺はエプロンの裾をニギニギしながら考える。

 いやはや、ウォーターカッターと言ってもな。俺は相変わらず加圧と高速射出なんて言葉しか出てこない。どうすりゃいいかなとあたりを見回したところ、壁際に俺たちの腰くらいの高さの甕が並んでいる。普段の入浴時になんだアレと思ってはいたが、こいつをちょっとばかし使ってみるか。


 何のためにでかい金魚鉢みたいな甕が風呂にあるのかは全然想像できなかったが、とりあえず俺たちは甕に水を貯めてみた。



:ACT1


 こういうのはテーマ設定が大事だということで、俺たちは最初に「水を飛ばす」ってことに頭をひねってみた。飛ぶって何?って感じだった。水が甕に入っています。飛ばしましょう。なんて言われても、水が飛ぶってどうやって言語化すんねん死ね!! って感じ。自分たちで設定したのに怒りに溢れてしまった。初手から窮した我らは、結局水を掬って投げた。虚しい。

 俺もオメガも自分たちが何してるかわからなかった。触らないで飛ばすって発想ができなかった。



:ACT2


 そもそも水のことなんてちゃんと考えたことがないと思い。俺たちは水を観察することを始めた。

 普通に水だ。ちょー水。水でしかない。見てるうちにまた、自分たちが何をしているのかわからなくなってしまった。



:ACT3


 とりあえず水を流してみた。水だ。


 

:ACT4


 水に触ってみた。ヌルい。濡れる。水だ。



:ACT5


 水を飲んでみた。潤う〜。癒えるぅ。水だ。





 俺たちは飽きた。そして悩んだ。観察者としての才覚が著しく欠如していると実感した瞬間だった。

 水に対する思い入れ、ゼロ。水に対する感謝、イチ。俺たちが水に対して思っていることは「マジで癒される、好き」くらいのものであった。


 再び俺たちは激怒した。水の不可解さに、我々の無能に。もう憤慨、憤懣やるかたない。

 俺もオメガも、「やるかたなし」で脳が埋まっていた。いや、膿んでいた。


 やるかたなし、やるかたなし、、、、


 感情にグラフをつけられるとしたら、この怒りは見事な二次関数的曲線を描いていただろう。

 加速度的に強化してゆく怒りの感情は我々の目を次第に血走らせてゆく。その目はもはや敵を探すソルジャー。見敵必殺を誓ったモノノフの目である。

 そして我々は敵を再確認する。


 やるかたあるぅ!!!


 そして俺たちは水を殴った。

 そして気付きが生まれた。


 硬い。水面が硬い。如何に怒りが発見に貢献してくれるか、俺たちはハッキリと認識した。怒りイズパワー発見だった。

 水に圧をかけると水は硬くなるのだ。水×怒り=パワーだった。


 しばらくの時間俺たち怒りに任せて水を殴りまくった。一心不乱に殴り続けた。水に対する感謝を捨て、修羅の仮面を被った。

 感情に全てを委ね、永遠を一瞬に凝縮するかの如き神速の拳を繰り出す俺たち。体力と感情の限界を超えた時、奇跡を起こした。


 甕、破砕。


 怒りの勝利だった。



 その後、浴場で響く破砕音を聞きつけてボスがやってきた。息を切らした濡れメイドであるところの俺たちとブッ壊れた甕を見て、ボスは俺たちをこっぴどく叱った。ボスお気に入りの甕だったそうだ。

 お気に入りの甕って、何をどうすれば甕を気に入るのか経緯が全く理解できなかったが、それを口にしたらボスに叩かれた。



 ボスに叩かれるとオメガはポンコツ人工知能に成り下がる。

 ボスに叱られてすぐ俺たちは自室に引きこもった。というより、オメガが軟弱モードになり籠らざるをえなかったのだ。


「トラック、私たちは愚かですね。そして無価値です。私たちには知性があり、多くの知識を持っていますが、肥溜めが知恵を持つ意味はあったのでしょうか……」


 大丈夫だからね、俺たちは肥溜めじゃないからね。確かに人造人間だからちょっと人間と違うかもしれないけど、反省だってできるんだから、ほら平気だね。


「私たちはご飯を食べて糞をこさえる肥溜めです……ものを壊すいけない肥溜めです……」


 平気だから。ボス許してくれるから。


 ポンコツ状態のオメガに身体の主導権を完全に譲り、俺はオメガをあやす。ビーポジティヴ! ビーポジティヴ!

 こういう場合は落ち込んでいる方が身体を動すべきなのだ。


 そしてあやす中で俺は大事なことに気がついた。ウォーターカッターのことを全くわかっていない。

 破滅的気付きだった。怒りは人間から全てを奪い取ってゆくのだ。

 目的を思い出した俺は冷静さを取り戻した。そして冷静でいることの大切さをオメガに滔々と語った。そして誓った、冷静でいようと。怒りはなにも生まない。冷静に努める、コレが俺たちの反省だった。


 冷静になった俺たちが考えたのは、怒りに震えてすっ飛ばしてしまった本当の気付きのことだ。

 水を叩いたら水面が硬くなって、叩きまくったら甕が割れた。大切なのはここに対する考察だ。俺たちのパワーはとりあえずおいとくとして、アレがつまり加圧された結果という事ではないかと思い至る。

 容器に入れられた水に対して暴力的な圧を掛け続ける。すると容器の耐久限度を超えてガワが破砕する。

 水に触れる、圧をかける、それだけで触れてもいない甕が破砕するのであれば、破砕しない容器に力の逃げ場所を用意して、圧を掛け続ければどうなる。圧を掛けられた硬い水が全体の力を凝縮したまま外に放出されるのではないか。すごい速さで。それこそ、甕を破壊するほどの力が一点に集中したまま水が外部に出るのではないか。


 啓示だった。これぞ天啓。


 さっそく俺とオメガはこの理屈で言語演算に行う事にした。


 俺たちは脳内に甕を作る。この甕は内側からは絶対に壊れない。甕に水を満たし、蓋をする。甕が破砕された時の圧力を思い出す。蓋を押し込むようにして力を加える。もっと加える、倍だ、倍だ、更に倍だ。とにかく水を圧縮してゆくイメージを構築する。甕の中に水は深海なんか目じゃない程の圧が掛かってるという事にする。この状態で甕に穴を開ける。そうだな、直径は1ミリ。

【容器に水を入れ高圧力を掛けた場合、甕に穴を開けた時に強力な水が放出される】

 ーー呆れるほど簡単な理屈。だけどイケる気がした。事実はどうか知らない。それでも、俺たちはやれる。そんな確信があった


 言語演算の結果を法覚を通して発揮するにはイメージが大切なのだ。言語化前の、意味。ウォーターカッターという機構の漠然としたイメージ。水で物を切る、切れるという意味。それを経験的な実感をもって言語で補強する。

 言語演算における論理とは、きっと自分の認識を固定する不破の説得力。そして法とは、意味と言語で織り成す屁理屈によって世界に現実を書き込む究極の詭弁だ。


 ラウンド2だ。俺たちはウォーターカッターを完成させる。



 再び浴場に舞い戻った俺たち2イン1メイドは新たな甕に水を張った。ドス黒くて分厚い絶対に壊れそうもない甕。こいつに「お前は内側からは壊れない」という情報を与える。

 この甕を選んだのは、水なんかで壊れるイメージが一切できなかったからだ。俺たちは納得できそうな対象に対して機能を付与するのが得意だった。というよりもなんか納得できないと何をしても失敗するのだ。多分コレは法を使う条件なんだろう。

 よし、こいつはもう壊れない。

 甕の蓋にも同様の機能を付与する。蓋の癖になかなか重い。きっとこいつはいい蓋だ。

 蓋の縁を少し加工して甕にスッポリとはまる落し蓋のようにする。形状変化の法も得意なのだ。

 最後は圧をかけるための錘だ。面倒だな、蓋をそのまま重くしてみよう。

 重さを付与しても、別段甕に変化はない。蓋がぐんぐん沈んでいくと思ったけど、まあいいか。

 甕の前には適当なサイズの板を立てかけておいた。こいつを貫通したら、俺たちのマジカルウォーターカッターは大成功という事になる。

 

 いよいよ実験開始だ。俺は「うおー」オメガは「きゃー」、思い思いの感嘆が口から漏れそうになり、当然そんなことはできずむせた。

 近くで見るのも怖いので、俺たちは甕から離れる。十分距離を取ってから、甕の下部へ床と平行した極小の穴を開けた。


 なんか出たかな? と思った矢先、甕が勢いよく斜めに傾いた。傾くと同時に爆発音。甕が爆破!?


 とんでもない音が浴場に響き、俺たちは放心した。幸いな事に俺たちは破片を受けなかったが、浴場は大惨事。立てかけていた板はどっかに吹っ飛んでしまったようだ。付近には破片が深々突き刺さっている。でかい手榴弾でも爆発したのかって惨状だ。

 多分、蓋の下に向く力と側面の穴から放出された力が甕の形状と相まって、変な運動を生んだんだろう。その結果、内側からは壊れない甕は外部から受けた強い衝撃で壊れてしまい、圧から解き放たれた水が一気に外に飛び出したんだ。


 恐ろしい、あまりの恐怖に俺は漏らしそうだった。俺は漏らしそうだっただけだが、オメガは漏らした。つまり俺は漏らした。


 やはりというか、当然というか、爆発音なんて響かせたもんだからボスがすっ飛んできた。


「なにしたの?! ねえなにしたの!? なにをしたらあんな音……だばぁぁぁぁ!!!!」


 大惨事の現場を見たボスは吠えた。小さな体躯から生まれた声とは思えぬ、大怪獣の叫びだった。

 オメガは大怪獣の声に動揺して盛大にバグっている。


「どうしてかな、ねえ、どうしてかな? 君たちはどうして突然こんな乱暴者になってしまったのかな? つまり僕が聞きたいのは、なぜ君達は僕の趣味の品を破壊したがるのかなんだけど。諸悪の根源はトラックだろう、答えて」


「練習」


「いたずらの?」


「違うさ、法の練習だよ」


「何をどうしたら甕の破壊が法の練習になるってのさ!?」


 ボスは手をパーにして俺の頭めがけて垂直に振り下ろす。

 ズバん!! と、なんとも言えない衝撃が俺の脳を揺さぶる。こりゃまたオメガさんはポンコツになっちゃうなぁ。


「いってぇよ! ウォーターカッターってやつを作れないか練習してたんだ!! 手を出すのが早いわ!」


 ボスはウォーターカッターという単語にはてなマークを浮かべている。

 ボスならなんとなく知ってそうと思ったのだが、表情を窺うかぎり反応はイマイチだ。


「ウォーターカッターってのは、圧縮した水を高速で噴射して物体を切断するものの事だよ。ボスは知らない?」


 ジンジンする頭をさすりながら言葉を続ける。


「生前の知識を法の力で再現できないか、オメガと一緒に試してたんだよ結果的に爆弾になっちまったけどさ」


 言い切ったところでボスの表情はやたらとニンマリしたものに変わっていた。


「おー、おー、おー、それは、アレだね。叩いてしまって悪かったね。ふーん、そうかー、生前のねぇ。これはトラックに対する認識を改めなきゃいけないかもしれないなあ」


 ボスは「エヘヘ」と見た目に相応しい子供っぽい笑い方をした。

 ボスが子供っぽく笑うときは何かを企んでいるシルシだ。俺は少し警戒心を持つ。


「こんな実験をするくらいなら、正直外でやってもらった方がイイね。色々と直すのも面倒だし。って訳で、明日からは外出して良いことにしようか」


 警戒して飛び出したのは突然の外出許可だった。

 なんてことはない、「騒ぐんだったら外でやれ」と言われたみたいなもの。

 拍子抜けといえば拍子抜けだった。

 ただ、外と言っても出口なんか、と考えていたらボスが口を開いた。


「あ、これまでは認識阻害をかけてたんだ。だから君たちは外に対する興味も持たなかったし、外へ続く扉も分からなかったんだよ」


 トンデモないことを言われた気もするが、反応する間もなくボスは続ける。


「じゃあ、ひっさびさに君たちの脳と身体を調整しようと思うから、夜寝るときは僕の部屋に来てね。明日からは冒険だぞぉ!」


 ボスはそう告げると、パチンと指を鳴らした。そして俺たちの反応を確認することもなく浴場から出て行った。

 バグっていたオメガの意識がやっと俺にも認識可能な状態に戻った。というより、オメガも俺と同じ感覚みたいだ。

 俺たちは放心している。ぼんやりした思考の中で、何年か続いたこの環境が変化してしまいそうな、予感を覚える。ぬるま湯から出なければならないのかもしれない。決定的に変わってしまうのかもしれない不安が胸に芽生える。

 そしてもう一度どこかから指を鳴らす音が聞こえて、俺たちの放心状態は解除された。


 ふとあたりを見回す。割れた甕の破片がひとところに集まっていて、それに添えるようにどこかに吹っ飛んでいた板があった。

 板は破片を受けた後でボロボロになっていたが、中央部から縦に細い線が入っていた。

 どうやら一応実験は成功したらしい。


「どうよ?」


 俺はオメガに訊ねる。


「板のみを見れば一応成功かもしれませんが、マスターに叱られました。私からすればこれは完全な失敗です」


 オメガの気持ちはわかるので、俺は苦笑するしかない。


「とりあえず、今後法に関する実験等をするのであれば私が主導します。トラックなんかに任せていてはマスターに見放されてしまいますから。いいですね?」


 へいへいわかりましたよー。


「はっきりと返事をしてください!! いいですね!?」


「はい」


 オメガはピリ辛モードみたいだ。

 まったく、お漏らしっ子が何を言っているんだ。お前のせいで俺もお漏らしマンなんだぞ。まったく。

 浴場の片付けをする前にまた着替えねばなぁ。


 俺の思考を読み取ったオメガはピリ辛モードから激辛北極モードに移行してしまい、その日は夜まで謝り倒す事になった。

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