私立華牢学園

『別に言ってもいいよ。』

彼女の目的は何なのだろう?まず、俺らは確かにもう高校生だが、あれはダメだろう。いや、大人になってもやってはいけないことだ。それに、彼女がそんなことをやってる人物だった、というのが衝撃的過ぎてなんといえばいいのやら…。今日、一回も学校では会っていないけれど、会ったらどんな顔をすればいいんだ…。

「…じ!おい!仙次心春!」

「ん?」

あ…いっけね…。

「ん?、じゃないだろ!早く取りに来い!」

授業中だった。しかも、テスト返却。取りに行った際、軽く小突かれたがこれくらいで済んで良かったと思うべきだろう。ちなみに、今、返ってきたテストは国語である。92点、前回よりは下がってしまったが、まぁ、良いだろう。すぐに挽回も出来そうだ。まぁ、周りの目から見れば75超えていりゃ挽回なんてしなくても良いのかもしれないが、俺は残念なことにそうはいかない。俺はここの学校に奨学金をもらって通う一般人だ。クラスの連中みたいに裕福な家庭ではない。

ここは私立華牢学園。社長子息や令嬢など、裕福な家庭の生徒や、社長とまではいかなくとも、お金持ちに部類される家庭の生徒が通っている。ちなみに、奨学金をもらって通う一般生徒は俺を含めて四人。入試の時に基準の成績を取れれば入れる。人数制限はないため学年によっては、一人だったり、五人だったり。一番多いのが確か三年生で驚くことに十人、しかも全員生徒会。まぁ凄いわけではないが、四人ならそこそこだろう。奨学金がいらない生徒はある程度の成績さえあれば入れる。最初はいろいろ不安だったが、家柄関係なしに皆仲良くしてくれている。そして、再び奨学金のことだが、いくら学校がお金持ちだからとはいえ、入ればこっちのもん…というわけではない。定期考査での成績以外に学年末にある奨学金をまたもらうためのテストがあり、そこで基準を満たす成績を取らなければならない。結構厳しい現実だが、それを乗り越えると他の生徒にはない特権をもらえる。まぁ、先生いわく、勉強を頑張っているご褒美だとか。それはまた後で話すとしよう。

とりあえず、退屈な解説授業も真面目に受けておき、休み時間となる。さて、ここからも少し大変だ。

「おい、心春!点数いくつだ!?」

がっついて聞いてきたのは隣の席の野島陸斗。

「がっつき過ぎだよ、リク。シンなら大丈夫でしょ。リクじゃないんだから。」

落ち着いた声でリクをたしなめるのは寿葉月。名前を聞くと女の子みたいだけど、男だ。

「大丈夫だよ、ちゃんと90は超えてる。」

二人ともテストが返ってくる度に俺のことを気にしてくる。一年以上経つのだからそろそろしなくてもいいと思うのだが…。

「うん、さすがシンだね。野鷹さんも大丈夫みたいだし、クラスは来年も順調かな。」

「よし!今日はシンのお疲れ様会と頑張れ会で遊び行くぞ!」

テストの後は大丈夫でも大丈夫じゃなくともその日一日、二人は絶対俺を連れ出す。前回は確かハヅキが家で食事を取り寄せてくれて、三人で朝まで楽器とかゲームをしたはずだ。今日はどこへ行く計画となっているのだろう。そろそろ先生も来そうだし、というか、足音聞こえるし、全員座って待っていると来たのは先生ではなかった。

「失礼します。」

一気に教室でどよめきが起こり、俺だけは動悸が激しくなっていた。もちろん、皆さんお察しの通り、学園一の美少女、間宮夏海の登場である。しかも…

「仙次心春君、いらっしゃいますか?」

俺をご指名である。クラス全員の視線まで集まってくるし…。何だろう、昨日の運のなさが今日も続いているのだろうか。とりあえず、居心地が悪いため廊下に出る。

「何の用だよ?」

普通、間宮にこんな乱暴な感じに話しかける男はいないだろう。恐らく全員敬語か多少砕けた感じ。昨日通り、ツンツンした感じが来るのかと思えば…

「いきなりごめんなさい。少し用事があるのだけど…もしかして、忙しかった?」

全然違う。ハキハキとした明るい声に丁寧な話し方。昨日のは一体なんだったのか…。ていうか、こいつ、こんな話し方できたのか、と一種の感動を覚える。

「いや、別に平気だけど。」

「なら、良かった。」

なんか、語尾に音符がついてそうな感じがするのは俺だけか?

「あのね、今日、放課後時間あるかな?ちょっと話があるから家に来てもらいたいのだけど…。」

なるほど、昨日はあんなことを言っていたがこいつももしかしたら気にしていたのかもしれない。ここで変なことを言うと聞き耳を立てられていないとは言えないので。

「悪い、今日は用事があるんだ。」

そう言って断っておくとしよう。

「そうですか…なら、明日は?どう?」

「まぁ、明日なら平気だけど…。」

明日は休日だしな。

「じゃあ、明日で。後で連絡しますね。」

「あぁ。」

やれやれ、まさか学校で呼ばれるとは思わなかった。しかも、家への誘い…。後ろを振り向いてドアを開けるとやはり、と言うべきかほとんど全員が興味津々にしていた。何と言い訳をしようかと考えていたらすぐに先生が来たし、HRが終わるとリクとハヅキが急いで俺を引っ張り出してくれたおかげで助かった。本当にあいつは何を企んでいるんだ…?

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