放課後

学校帰り、今日、俺は珍しく寄り道をした。理由はなんとなくだ。まぁ、なんというか。その…お洒落なカフェみたいなのを見つけて、なんとなく覗いてみたらケーキ類がどれも美味しそうだったし、紅茶専門店と看板にあったりで、気になったのである。甘いものが好きだから。

別に、学校のカフェテリアにもケーキはあるし、紅茶もある。紅茶はたくさん種類があるし、お菓子もケーキだけでなく、スコーンやクッキー等、紅茶にピッタリなものが揃っている。

でも、考えてみてほしい。放課後に女子生徒がお茶をしていたり、賢そうな男子が読書をしていたり、生徒会や委員会がミーティングしてたり、そんなちゃんとした雰囲気の中で背の高い男が一人で紅茶とケーキ。別に気にしなきゃいいじゃないか、と言われてしまうとそれもそうなのだが…さすがに耐えられない。次の日にいろいろ言われそうだし。

それに比べてここのカフェは個人の空間と錯覚できるほど、落ち着ける場所だった。一人なのは俺だけじゃないし、少し広い店内には俺以外だと、三人くらいしかいなかった。それぞれ自由なことをしている。

だから俺も遠慮なく、紅茶をゆっくりと味わい、ケーキも美味しく頂いている。うん、さすが専門店。紅茶はストレートでもミルクを入れても美味しいし、ケーキは一番安かったショートケーキにしたが、クリームの甘さもほどよい上に軽く、イチゴの甘酸っぱさがケーキの甘さをまとめあげている。そして、また紅茶に合う。ちなみに、紅茶はポットに入って運ばれてくるから三杯飲むことが出来る。

こんなに美味しいならけちらずにもう少し高い紅茶やケーキでも良かったと思えるが、今日は初日だ。次の楽しみにとっておこう。


会計を済ませて外に出る。そうそう、このカフェは大通りではなく、あまり、目立たない所にあるため、注意してないと気づけないだろう。俺も気まぐれで通った小道で偶然見つけた。こんなに素晴らしいお店なんだから勿体ない気もするが、人が少ないのも気に入ったポイントなので、複雑なものだ。

それにしても、心も小腹も満たされたのだが、天候があまりよろしくない。少し急ぎめに帰った方がいいだろう。残念なことに今日、折り畳み傘を家に忘れてしまった。食後の運動も兼ねて普段よりペースを上げて歩く。


大通りではないため、少し道が込み入っているし、狭い。道を間違えたりしたら確実に迷うような所だ。注意深く進まなければならない。…ならないのだが、しくじったらしい。さっきもここを通った気がする。カフェは良かったのに俺は今日、あまりツイていないのかもしれない。

とりあえず、さっきとは違う道に入る。そこなんかもう、見知らぬ光景しか広がってない。大通りからさっきのカフェに行くまでの道は家まで遠回りになるが、ちゃんとそっちを進むべきだったのだろう。近道はあまり知らない土地でするものじゃないな。


知らぬ道から知らぬ道へを繰り返していると、人の声が聞こえた。よし、小学生以来で少し恥ずかしいが人に聞いてみるとしよう。

人の声がする方へと進んでいくと、どんどん暗く、そして、狭くなってきた。本当に声をかけて大丈夫なのだろうか?少し心配になってきた。高校生で大人の恐い世界に入りたくはない。かといって、このまま迷子という方が大変だ。うむ…、少し覗いてみて、怖そうな人だったら止めておこう。それがいい。

そんな風に思い、歩みを進めた俺だったが、数分後、俺は思った。あのまま、引き返しときゃ良かった、と。


人の声がハッキリと聞こえてきたところで、角から少し様子を見てみると…そこには、知っている人物があり得ない姿でいた。少し声が似てるな、とは思ったんだ。本人だとは思わなかった。


見慣れた制服に茶色い天パの髪の毛。お人形さんの様に小さい顔にパッチリとした二重の目、桜色をした唇。女の子なら誰もが羨むようなその顔の持ち主を彼女以外に知らない。間宮夏海。彼女だった。

まだ、彼女がそこに居て誰かと話しているだけなら声をかけることなど容易いのだが、彼女は、普通の格好をしていなかった。いや、服装は普通に制服なんだけど…その、立ち姿が異様だった。


彼女は自分の手でスカートを捲り上げていた。


しかも、男の目の前で。


その場から逃げられるなら逃げたかった。正直。でも、足が硬直したかのように動くことが出来なかった。せめて、除くのを止めて目をそらすべきだったのかもしれない。けれど、俺の目線は彼女のスカートに向いたままだった。

思考回路はまた、訳がわからず高速フル回転である。目の前の男は何だ?誰なんだ?

彼氏だよな?彼氏なんだよな?

視界は目の前の光景のまま、現実逃避をせざるをえなかった。


それから数分後。


俺は捕まっていた。警察にならまだ良かっただろう。俺は間宮に捕まっていた。

「見てたでしょう?」

第一声がこれである。当たり前だがばれていたらしい。あんなに凝視してたらばれるのも当たり前だが。

「………ごめん。」

我ながら情けないことにその一言しか言えなかった。美少女として有名な間宮夏海の痴態。彼女の痴態など、まずあり得ないものなのである。世の中に存在しえないもののはずだった。それを見てしまった身としては本当にどうしたらいいのか…。

「それで?どうするの?」

「え?」

「皆に言うの?」

あぁ、そういう心配か。

「別に言ってもいいよ。」

「はぁ!?」

いや、待て。まだ、誰にも言わないでって言うのなら納得だが、言ってもかまわない?

何の目的があるんだ、こいつは。

「別に誰にも言わないけど…。」

まず、俺が言ったところで信じるやつなんかいないだろう。そんなことをすれば、確実に血祭りにされてしまう。

それよりも…

「さっきの男は?彼氏か?」

そこが一番気になっていた。まぁ、こんなに可愛い子なのだから彼氏が居ても不思議ではない。特殊な性癖を持つ彼氏さんだった、ってだけで。

「違うけど。」

「違うのかよ!」

つい、ツッコミを入れてしまった。え?違う?違うのか?彼氏じゃないの?

そうすると考えられる可能性はもう一つあるのだが…いや、まさかそんな。

「あの…てことは、その…。」

「そうね、その通りなんじゃない?」

何も言えない。冗談でもないのだろう。にしても、学校でのあの、朗らかな明るさはどこへ行ったのやら…見た目は同じなのに同一人物に全く見えない。

「それより、ここで何してるの?家、反対方向でしょ?」

「あぁ、道に迷ったんだよ。そうか、こっちは反対方向だったのか。」

なるほど、そりゃ家に着かない訳である。

「案内しましょうか?」

「お、良いのか?」

それは心強い。それに、断る理由もない。

「雨、降りそうだし。早く行こう。」

「あぁ、ありがとう間宮。」

「………………。」

嫌われているのだろうか?スルーされた。まぁ、もしかしたら、本人も顔や態度には出さないが気まずいものがあるのかもしれない。

とりあえず、どんどん進んでいく間宮の後ろをついていくのだった。



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