スクランブル交差点

尚人

第1話



人が溢れる大都会。その中心とも言えるスクランブル交差点で、別れた彼女とすれ違った。


運命というのはあるもんだ。これだけ多くの人で溢れるこの場所で、彼女の姿を見かけるなんて。

でも、彼女は俺の知ってる彼女とは、もう別人だった。気づいたのは本当に偶然。当時からつけていた、あまり可愛くないクマのマスコットをぶら下げていたからで。


真っ黒なショートカット。キツめのアイラインに真っ赤な唇。モノクロのTシャツにズボン。チョーカーにシルバーアクセサリー。


俺の知っている彼女は、ゆるふわ茶髪にピンクの頬と唇。ハートのネックレスにパステルカラーのワンピース。そんな子だったはずだ。

あまりの変わりように、俺は思わず目で追ってしまう。

でもきっと、こちらが本物の彼女なのだろう。当時は、ただ俺の好みに合わせてくれていたのだろう。彼女はすごく健気で優しい子だったから。

真っ赤な唇な楽しげに弧を描き、黒ぐろとした目は真っ直ぐ前を見つめている。ただ純粋に、綺麗だと思った。俺の記憶の中の彼女はいつも曖昧な笑みを浮かべている。


彼女はきっとまた誰かに恋をするだろう。そしたら、また彼女は誰かの色に染まって、この真っ直ぐな彼女は失われてしまうのだろうか。だとしたら、それは少し惜しい気がする。これは嫉妬だろうか。彼女に対する未練だろうか。分からないが違う気もする。

少なくとも彼女は俺に未練などないのだろう。当時はなかった耳元に光る、大きすぎるピアスを見て思った。


スクランブル交差点では誰も立ち止まらない。立ち止まれば、それこそ命取りだ。人の流れに呑み込まれてしまう。だから、彼女も、俺も、立ち止まらない。


彼女とすれ違うその瞬間、一瞬だけ、視線が絡んだような気がした。が、きっと気の所為だろう。どちらにせよ、確かめる術は、もう俺にはない。


スクランブル交差点では、誰も立ち止まれないのだ。



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スクランブル交差点 尚人 @cheshire246

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