27日/52日(2)


「あら、瑞奈ちゃんじゃない。お久しぶり」

「シャリ―さん!」

嗚呼

この妖艶に光る紅い髪の毛とくりりとした黒眼。

すらりとした四肢、出るところは出た体躯。

そして何よりその黒縁眼鏡!

「眼福っす。ありがとうございます」

「人の嫁に興奮するな。俺がお前に興奮してやるぞ」

背筋が一瞬にして凍り付いた。

もはや絶対零度に到達するくらいに、

さっきまでそこに人の気配はなかったのに。

「何ですか、いいじゃないですか。この可愛さは共有の財産でしょう」

「いいや、違うね。絶対に俺の財産だ。これは譲れない。こう見えて俺は独占欲が強いほうなんだ」

「見たまんまじゃないですか。いや、顔隠してるからあんま分かんないですけど」

そう言ってきたこの男。

あまり趣味の良いとは言えない顔全体を覆う仮面を被った男。

仮面を被っているせいでどんな表情をしているのかも分からない。

何故こんな仮面を被っているのか、当の本人はそんな仮面を被るような性格をした者でないことは分かっている。

だから、私はそのことについて何も聞いていない。

なにか深い理由があるそうなのだ。

雲雀さん曰く…。

「あと、私に興奮するのは止めてください。私は好きな人以外に虐げられても単なる苦痛としか受け入れられないんです」

男はヒュゥと口笛を鳴らした後言った。

「局所的ドM」

私は反射的に男の体を殴った。

ボディーブローである。

だが、結果は私の手が痛くなっただけのようだった。

男は未だ愉快そうにはははと笑っている。

そして

今の硬さは人間じゃない。

無機物の硬さ、殴ったときコツンという感覚。

やっぱり何かあるのかこの人。

「それで、瑞奈ちゃんは何をしに来たの?」

おっと、本題を忘れるところだった。

「えっとですね…。」

私が言いかけた時

「お前たち、久方ぶりだな」

空亡様だ、後ろから千歳さんも来ている。

「こんにちは、空亡さん。彼の様子を見に来たんですが」

「彼というと、あの器の少年か」

「えぇ、おかげで今期はあまり人形が必要とならなかったですからね。従来なら疲労で寝込んでいるのですが、うちの夫も力が有り余っているそうで。遊びに来たのですよ」

人形

彼女たち、シャリ―と氷室(あの男)は人形を創っているそうだ。

その人形は霊や神が宿るほどの出来なので、まだ不安定な妖怪や神のなりそこないにとっては貴重なものらしい。要するに出来が良すぎて器にもなり得るのだ。

また、いつもならこの時期は沢山のなりそこない達を助けるべく人形をたくさん作っているそうなのだが。

今期は必要がなかったようで…。

「しかし、遊んでばかりもいられないようですね」

シャリ―さんが眼鏡をくいッと上げた。

鼻から血が出てきた。

隣の男は悶絶している。

「そうだな、あの様子じゃ魔導書を使う羽目になるな」

「魔導書って?」

私が聞くと空亡は座って

「そうだな、説明しておいたほうが…。その前にお前、自分が戦う手段は持っているか?」

「え?」

彼は右手を上げて

私の体が私の左手を中心にして舞い。

「ちょ、え!?高いィ!!」

背負い投げの要領で空中に投げ出された。

目の前には不気味な仮面。

氷室だ。あの男だ。

さっきまでの雰囲気とはうって変わった。

私では到底かなわない、力を纏ったオーラを仮面の下から感じた。

気付くと右手には剣、左手には拳銃があった。

向こうにも殺意が有るようだった。

本物の殺意のあるオーラだった。

私はパニックに陥った。

「うわあああああああああああああああああああああ」

左手の銃を投げ捨て右手の剣で目の前をはらった。

物凄い切れ味でその剣が男の胴体を切り裂く。

私はそのまま落下した。

「ぐおっ」

人の手で抱えられた。

私が落下したのち、男が落ちてくる。

それに血は伴わず、肉体。

いや、人形だけが地面を突く。

「あ、ありがとうございます」

目の前には先ほどの不気味な仮面。

「ヒィ!」

悲鳴をあげた。

怖い…ッ


ん?

「氷室…さんですか?」

「ハハハ、急に敬語になるとはな。さっきまでこの仮面の男と話していただろうに」

私は愛想笑いをした。

私はさっきその仮面の男に殺されかけたんですが…。

そうだ、さっきの男は!?

私が斬ってしまった。

死んだのか?

いや、現に話しているし。

地面を見ると大きな人形が転がっていた。

顔には例によってあの仮面がかかっている。

「俺は人形だよ。本体は別にあるがな」

人形…?

「そうよ、良くできているでしょう?夫は凄腕なのよ、人形作りだけはね」

「だけとはなんだ!他にもできることはあるぞ」

シャリ―さんと氷室さんが言いあっている。

本当に仲が良いんだなと見せつけてくる。

「そうだな。確かにお前は戦闘スキルもかなり高い。昔は何て呼ばれてたんだっけか言ってみろ」

空亡様が凄くニヤニヤしながら言った。

目の前の仮面の男はバツが悪そうに

「狂気の宿屋」

宿屋!?

宿屋

「宿屋wwwwwww」

「笑うなよ・・・。もう今は宿屋はやってないからな」

「まさか、その仮面被って宿屋をやってたんですか?」

「その通りだ」

ふふ、流石だ。

「さて、今からお前の刀を創りに往く。やはりお前にも戦争手段を持たせてやらんとな」

「何故ですか?」

ここなら争いはおこらなそうだし。

「あれだよ」

空亡様が指をさしたのは空、あの縛られている少年だった。

私が恋心を抱く、あの少年。

「もうすぐ47日だ。」

空は体に妖怪たちを宿した後倒れてしまった。

しばらくは布団に寝かせる形をとっていたのだが佳那ちゃんの助言で外に縛る形にしたほうが良いとのことだった。

目覚めた時に暴走してしまっていたらすぐ対処できるようにとのことだ。

今は金属でできた目隠しと同じように金属でできた胸当てを使って縛っている。

「お前も戦わなくてはならんかもしれん。それに、自分の実は自分で守れるようになっていろ。戦う術も持たずに敵に殺されでもしたら目も当てられない」

敵?

敵ってなんだ?

空亡様が踵を返した瞬間。

「ご主人。何故ここに来たのか忘れたんですか?」

あ、そうだ。

えっと、なんだっけ。

「あ、逃げ…速い!」

とてつもなく速い!

「恐ろしく速い逃亡、俺でなきゃ見のgッ!!」

地面にごろんと、生首が転がった。

いや、人形の頭。

これ、シャリ―さんが…!?

首と胴体がキレイに切れている。

手には何も持っていないようだ。

まさか…

「恐ろしく速い手刀!?」

シャリ―さんが手を口に当て

うふふと笑った。

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空の町 鬼人蛮勇碌 此の人 @Epi1629

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