信じあった仲間 信じられない現実

目の前の壁が割れ

僕の目に光が差し込んだ。

「亜美ともう一人!大丈夫か?」

僕の声が言った。

「私たちは大丈夫!でも花梨ちゃんがいない!」

花梨とは金田の下の名前である。

「何だ!どうなってんだ!」

秀人が叫んだ!

(それはこっちが聞きてぇよ)

「金田はたぶん捕まった!諦めろ!」

止めろ。そんなこと言うな。

「捕まるとどうなるんだ?」

「拷問か、もう普通には生きられない!そうなりたくなかったら逃げろ!」

そんなこと言うなよ。

金田がもう捕まったとか。

僕だって考えないようにしていたのに。

「そんなんだったらッ。助けないといけないだろうがッ!門の近くだろッ!行くぞッ!」

秀人の靴が擦れる音が聞こえた。

彼は後ろから来ている大勢の人間に挑むつもりなのだ。

というか、やっぱりお前も知っていたのか。

「諦めろと言ったはずだ!お前まで死ぬぞ!」

「テメェに聞いてんじゃねぇよ!空を出せ!空を!」

人の群れが近づいていた。

あと10秒もしないうちに追いつかれる。

(なぁ!俺の体を返せ!助けに行くぞ!おい!)

僕は思いを伝えた。

何度も、何度も。

だが

「空も諦めろと言っている。はやく来い」

亜美は黙ってこちらを見つめていた。

「そうか…。だったら先に行ってろ。」

秀人はこちらに背を向けたままその言葉を紡いだ。

その声は震えていた。

(おい!返せ!俺の体!!)

「了解した。幸運を祈る!」

僕の体も秀人に背を向けようとしていた。

(何してんだ!おい!)

眼中から消えかけた秀人の手は拳を上に掲げたあと銃の形を手でもしていた。

あれは

"信じてる。諦めずに戦え"

秀人…。

粋な真似するじゃねぇか。

僕の目から涙がこぼれた。

「おい、櫻井。泣くんじゃない。目がかすむ」

(すまない。でも門を獲られた以上、これからどうするんだ?)

「それは大丈夫だ。気付いていなかったか。お前たち以外は妖怪やら幽霊やらの織神になっているのを」

(え?)

「お前たちは凄いよ。よく人間の体で織神と対等に戦ったな。おっと、お前と彼女は人間じゃないか」

驚愕の事実だった。

というかそこまで分かっているのなら僕たちがマークされていることぐらい気づけよ。

確かに、地獄の蓋が開かれてから少ししたらみんなが格段に強くなっていて苦戦したものだ。

夏休み明けだったから、頑張って納得していたが。

そういうことだったのか。

これで気づかない僕も僕だが。

(でも何でそれで門が無事ってことになるんだ?)

「私の主人が門の近くで待っていてくれるからだよ。私の主人には力の弱い妖怪や幽霊は近づけない。本能が拒否する」

(へぇ、凄い神様なんだね)

「妖怪よ…。最上位の」

(それで…。どうするんだ?こっちは門とは逆方向だぞ?)

「そうね…。今日は曇りだし。門は袋小路のところにあるのよ。あの位置に何人も織神を配置されていたらきついわね。鬼の織神も彼だけとは限らないし。それに今追いかけてきている奴らは狂気を操作されている。脳みそもあってないようなものだわ、目標を見つけたら原型がなくなるまで殴り続けるんじゃないかしら。自分の腕もつぶれる覚悟で」

僕たちはしばらく走り続けた。

どれくらい走っただろうか。

走っても走っても門に近づく道には織神達がいてとても通れる状態じゃなかった。

しかもみられるたび奇声を発して走ってくるのでこちらも心身ともに疲労がたまっていた。

「どうする。このままではいずれ捕まってしまうぞ」

亜美がその問いに答えた。

「この配置は誰かが裏で指示しているとしか考えられないわ。すこしも門に近づいていない」

突如、スピーカーが鳴り響いた。

「―――あー、あー。聞こえてるか。空に乗り移っている奴と悪魔とただの人間。一人捕まっていることは知っているんだろう?話がある。グラウンドに来てくれないか?そうすれば殺しはしない。約束しよう。来なかった場合は保証しないが。君らの賢明な判断に任せるよ―――」

ブツンと音が途切れた。

「誰が行くもんですか」

亜美が頬を膨らませながら言った。

「まぁ、行っても殺すでしょうね」

(そうだよな。でも早くしないと金田が)

「諦めろと言ったはずです。」

(でも…。)

直後、グラウンドから拡声器を使ったと思われる声が聞こえた。

「あー、あー。諸君、聞こえているかね。」

秀人!?

「馬鹿かあいつ!」

僕の体は窓を開いて秀人を探していた。

秀人は国旗掲揚台に仁王立ちしている。

足元には何匹もの犬がグルルとのどを鳴らして威嚇していた。

その体には何かが巻き付いている。

「爆弾だわ…。」

亜美が言った。

(何だって!?)

秀人がメガホンを掲げて言う。

「狂気を操れるのがお前らだけだと思ったら大間違いだぞゴラァ!」

秀人の叫びとともに周りにいる何匹もの犬が吠えだした。

(秀人…。お前ができるのは軽い催眠術だろうが)

「何をしているんだ、あの人間は」

秀人の向かいの校舎に人影が見えた。

「本当に来るとは思っていなかったぜ。ほかの奴らはどこだ!」

「誰がいうか!ハゲ!」

狂気に操られた織神が彼を見たが、今までのように目の色を変えて走るということはなかった。

「はは、こいつらは俺に魔力がないからこんなにゆっくり来るのか?馬鹿みてぇだな。俺悪魔なのに、爆破魔法だって使えるんだぜ!」

秀人が手をかざすと。

秀人の右手側の後者が爆発した。

(あいつ…。)

あれはただの遠隔爆弾だ。

僕の五感は完全に研ぎ澄まされていた。

吹き飛ぶ校舎の中に爆弾の破片があることに気付いたのだ。

「そして諸星!お前の仲間、一人が偽物だってことに気付いてるか!?今の爆発で本物は死んだぜ!」

中途半端な脳で理解した織神達は秀人を一刻も早く殺すべく走り出した。

同時に何百頭もいる犬が走り出した。

うちの学校は猟犬をたくさん保持していたからだ。

その猟犬たちは織神と一斉に交戦を始めた。

「そして空!!」

秀人がまたメガホンで叫んだ。

「金田を救ってくれよ!頼んだぜ!」

猟犬と織神の交戦は多勢に無勢、猟犬が次々と倒されていく。

それと同時に爆発が起きる。

猟犬の死とともに腹の爆弾が起動する仕組みのようだ。

しばらくするとその爆発も終わり犬と織神の死体で一面が赤色で染まっていた。

だが、織神はまだ何百体も残っていた。

金田はメガホンさえも目の前の亡者ともいえる織神達に投げつけ、叫んだ。

「金田ァ!!」

あと20m

「俺ァ…」

あと5m

「お前の事が…」

秀人が織神に捕まった。

―――好きだったんだぜ―――

無線から秀人の声が流れた。

その声は震えていた。

(ぁ…。あ…!!!!)

ひときわ大きい爆発音が響いた。

衝撃波は校舎まで届き窓がビリビリと揺れた。

「行くぞ…。彼の死を無駄にするわけにはいかない」

僕は唖然としていた。

まだ救う方法があるんじゃないかとか、秀人は幽霊にはならないのかとか。

そんなことは考えず、考えることができず、ただただ唖然と…。

(秀人…。僕はお前ほどの漢を知らないよ。)

僕の体は拳を掲げた後に手で銃の形を模した。

僕の体を使う彼女もまた、一人の漢に敬意を表したのだ。

そして彼女は僕の声を使って言う。

「泣くな。前が見えん」

亜美は、

無言で涙を流していた。


校舎の中にはあまり織神は残っていなかった。

僕たちは無心で走った。

しばらくして、門がある袋小路についた。

前には5人の男女がいた。

その中には諸星もいる。

だが、その5人は戦っていた。

一人の女と。

その女は金田ではなかった。

だが左足がちらりと見えた時に鬼の織神だと直感した。

その女が何故一人だけ戦っているのかはすぐに分かった。

秀人のペンダントを首に下げていたからだ。

そして門の近くに金田が倒れているのが見えた。

「ッ、避けて!」

僕の体が亜美を抱えてしゃがんだ。

すると手が門から出てきて。

次の瞬間

馬鹿にでかい球体が出現して鬼の織神達を押しつぶした。

(は?)

押しつぶした後、その球体は一瞬にして消えた。

「よし、行くぞ。」

「はい」

地面には押しつぶされた鬼の織神達がうめき声をあげていた。

僕の体は女の織神から秀人のペンダントをもぎ取った後、金田を担いで門をくぐった。


門の先には透明の茨があった。

それをにぶつかってしまうと身を固めたがぶつかることはなくそのまま通過した。

「ぐっ」

腹に何かが当たった。

体が区の字に曲がる。

そして僕はそのまま崩れ落ちた。

本来なら体が自然に動いて立ち直るはずだったが。

「痛ってぇ。」

僕は呟いた。

喋れるようになったことに僕は気付いていた。

しかし、そのことについて深く考える余裕はなかった。

「いてぇよ…。」

秀人が死んだ。

「なぁ、神様よ…。秀人を生き返らせることはできねぇのかよ…。」

何も声は帰ってこなかった。

隣では亜美の物と思われる泣き声が聞こえた。

「なんとか言ってくれよ。さっきまで話していただろう…?」

静寂。

頭の中にも何の音も響かない。

すると目の前から声がした。

それは声と定義できる代物ではなかった。

顔をあげてみると着物の男が居た。

口を動かしていたので、その声(と呼ぶにはあまりにも違いすぎるがここではこう書いておく)は彼が発しているものだとわかった。

その声は聞こえているようで聞こえてこない。

それは世界に消されている、聞いているだけで虫唾が走るような。

実際には聞こえているのか聞こえていなのかさえ目の前の僕でさえ分からない。

だが、その声は世界に否定されている声だとはっきりわかった。

僕は世界に恐怖を抱き、同時に目の前にいる彼にも畏怖の念を抱いた。

「な、なんなんだ。…あんた」

男はその声は話し続けた。

彼は怒っているようだった。

一瞥した後僕たちに背を向けて手でついてくるように合図をした。

「いくよ…。空」

亜美が僕にそう告げた。

彼女は僕の手を取った。

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