銃弾と右腕はその身を貫く

対戦演習場第15会議室にて。


「さて、最後の一勝は諸星が相手だ。彼は並外れた身体能力と戦闘センスを持っているらしい。気を付けるべきところがたくさんありすぎて困るくらいだ。」

秀人が銃の組み立てをしながら言う。

「転校初日から美女たちに囲まれて幸せそうだな。俺には何がいいのかわからん!金田もああいうのがタイプだったりするのか?M代表として。ドSっぽいぞ」

「いや、私ああいうの苦手なんだ。なんていうか、良いドSと悪いドSがあってな。いいドSが空っちで悪いドSがあいつだよ」

僕は苦笑した。

「僕はSじゃないよ?」

金田がやれやれという顔をした。

畜生!一度殴ってやりたい。

「そういう顔がいいのさ!!」

「どうでもいいからー。空、話し続けて」

亜美が言った。

声のトーンが若干低かった。

「あ、ああ。」

僕はマップを広げた。

「今回のマップはキューブの上方を制したほうが有利になると思う。」

「うわぁ、すごいマップだね。」

金田が覗きこんできた。

「そして今回はこれを使う。」

僕は紙袋を4つ取り出した。

「何だよ、これ」

秀人が早速紙袋の中身を出した。

「マントだ。今回は誰が誰なのか相手に悟られないようにしてくれ」

「何でだ?」

「相手に誰が誰かわからなくするためだ。今は何も言わずに僕の作戦に従ってくれ」

秀人、金田、亜美の三人は真っ黒のマントを羽織った。

「今までのように作戦通りにはいかないと思う。諸星の班は他の3人も学校最強クラスだ。だから作戦が失敗した時は各自で考えて動いてくれ、というか今回はバラバラに動いて相手の分散を図ってくれ。だが諸星は僕が相手をする」

「了解だ」「わかった」「了解ッ」

金田がペイント銃の安全装置を外した。

軽い金属音が響く。

「今回を勝てば10連勝報酬で金一封だ、頑張ろう!」

「「「おー!」」」



男子トイレ

僕はトイレに行った。

「急がなきゃ、始まる」

僕はさっさと済ませようと小走りで向かった。

途中、諸星とすれ違った。

「あ、諸星」

「やぁ、空君」

何で彼は僕の名前を知っているのだろう

「君はすごい技を使うよね、次の対戦お互い正々堂々戦おう」

何を言うかと思えば…。

君の班は強い人たちばかりじゃないか。

よくもそれで正々堂々なんて言えたな。

「うん、そうだね。僕トイレに行ってくるよ。それじゃあ、後でね」

「あぁ」





「3」

「2」

「1」

「START」

開始のサイレンが鳴った

監視用のドローンが飛び回る。

僕たちは近くのキューブに一斉に飛び乗った。

向かい側には僕たちと同じように行動している敵の姿が見て取れた。

次の瞬間

右の頬に冷たい感触が走った。

!?

「ッ、あんな距離で!スピードでかよ!」

「二射、来るよ!」

亜美が僕を押して動かした。

押されながら僕は腰に背負っていたスナイパーライフルを構える

「秀人!シールド!」

「わかってる!!」

秀人が僕の前に出て薄い赤色で透明な板を広げた。

「亜美、下から進んで!金田も!」

「「了解」」

二人の黒いマントがなびく。

「秀人!進め!走れ!」

「どこにだ!」

「狙撃手だ!!」

「了解だ!」

秀人が走り出した。

僕もそれについていく。

すると秀人が足を滑らせた。

「うおっ。」

よく見ると足元に黒いペイントの跡があった。

それに足を滑らせたのか、多分相手の狙撃手が撃ったのだろう。

化け物め・・・。

秀人のシールドも黒いペイントでとても前が見えるようなものじゃなかった。

仕方ないか。

秀人が下へ落ちて行った。

「ブレインリセット」

目の前には黒い弾丸が迫ってきていた。

だが、遅い。

あんなものに標準をあわせるのは簡単なことだ。

ズドン

重低音がなる。

相殺成功だ。

薄かった意識がすぐに戻ってきた。

「まだまだ…。オーバードライブ!」

僕が強めに地面を蹴ると体が大きく持ち上がった。

着地のことを考えずに行った。

照準を合わせるのは先ほどの余韻が残っていたのでさほど難しくなかった。

命中ッ!

ふぅ

落下する途中左の方向から発砲音がした。

僕を狙ったものだ!!

くっそ、諸星にもまだ会ってないのに

「空!!」

下から黒い板が飛んで来た。

秀人のシールドだ!

「ありがとう!」

ぎりぎりの防御

その後

僕は着地に失敗し、思い切り足をひねった。

ついでに弾のインクが少し漏れ出している。

「がぁ!」

痛ってぇ

―――空!大丈夫?―――

無線機から亜美と声と発砲音が聞こえた。

僕は足の具合と銃を診ながら言う。

「―――あぁ、僕は平気だ。そっちは誰と好戦してるんだ―――」

―――こっちは…―――

通信が途絶えた。

それとともに仲間の脱落を知らせる赤いランプが一瞬光った。

亜美…。

「―――金田!秀人!―――」

―――金田は交戦中だ、一対一の格闘をやってる。支援もたぶんできない―――

「―――そうか、秀人は亜美がいた方向へ進んで―――」

―――分かった―――

この時、僕の銃の整備が終わった。

まだ使えるようだった。

僕が狙撃手をひとりやって亜美がやられたから今は3対3か。

そして、これだけ音や居場所を知らせるようなことをやってもいまだに諸星が来ないところを見ると…。

あいつ、どこかに隠れてやがるのか。

舐めやがって。

そう思っていると…。

後ろのほうから足音がしていた。

畜生、もう一人は俺のところに来るのかよ…。

僕は咄嗟に下らない作戦を閃いた。

足音が近づいた。

シールドを設置。

相手がシールドに気づいた。

ダダダダと銃を発砲する。

暫くして相手が地面を見て何かに気が付いたらしい。

「着地に失敗して足でも怪我したんだろう、はやく手当をしたほうがいいんじゃないか?そして、そこのキューブから足が見えているぞ!」

相手がキューブのほうにグレネードを投げた。

今だ。

僕はシールドから身を出すと、標準を相手に合わせて…。

撃った。

「ッ…!?」

命中。

ドスッ



ん?

今の音は…ッ!!!!!!!!!!!!



熱い!

腹が猛烈に熱い!!!

30メートル先にいる敵は倒れていた。

それは、どうでもいい。

僕は、目線を落とした。

そこには僕の腹部に手を突っ込んでいる諸星の姿があった。


なんで諸星。

あ…。

やばい。

これ

死ぬやつ…


普通ペイント弾で体を一定量撃ち込まれると少しの間体が麻痺してしまう。

それが被弾の判定代わりになる。

僕も何回か喰らったことはある。

割と痛い。

でも、この痛さは…。

その比じゃねえや。

「ガアッ」

僕は血反吐を吐いた。

「お前は、悪魔に魂を売った。」

「ぐぅ…。何の…話だ……。」

僕は継続的な強い痛みで何度も気絶しかけた。

「お前は脳内処理速度を異常なほど速くすることができると見た。それはいい、お前はその才能を持っていた。本来ならばその能力を使う代わりに毎回脳に多大なダメージが入るはずなんだ。でもお前は平気だった。」

「…?」

「お前は人間が持つはずのない霊力で頭を修復していた。俺には見えるんだよ。俺も、悪魔に魂も体を売ったからな」

何を、言っているんだ。

「言えよ。近くにいるんだろう?悪魔が…。安心しろ、お前の仲間は全員気を失っているぜ、確認してきた。俺の仲間も一人しか残っていないがな」

秀人も、金田も、亜美も…倒しただと?

しっかりと確認しているといいな。

ここまで切羽詰まった状況は想定していなかったが。

作戦が成功していれば…。

次の瞬間。

黒い弾丸が僕の髪の毛をかすめていった。

「やっぱりお前かああああああああああああああああああ」

亜美だ。

作戦は成功していたようだ。

ざまぁ見やがれ。

死体を偽造してもばれなかったな。

だが亜美の様子が変だ。

黒いはずの髪が、燃えるように紅い。

眼も。

「返せ!その腕!」

亜美の怒声が響く。

僕の腹部から腕が抜かれた。

僕はひざから崩れ落ちた。

「お前か…。悪魔め!奪ったもの全て!返せ!!」

何だ。

何が起こっているんだ。

僕の胴体と地面が勢いよくぶつかった。

赤と黒のインクの海に赤黒い血が流れ込んでいく。

でも、俺はもうだめだ。

意識が…遠のいて。


嗚呼。

南無三。

諦めかけるそのとき。

頭の中で音が鳴り響いた。

その音はこのように聞き取ることができた。

(生き残りたいでしょう?)

馬鹿か…。

そんなこと

「聞くまでもないさ…」

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