空の町 鬼人蛮勇碌

此の人

手で模した銃とシンクロ

約半年前。

地獄の蓋が機能しなくなった。

一日に12時間開きっぱなしというガバガバ設定である。

そしてあの世の空気が流れ込み、何やかんやで人ならざる者が見えるようになった。

よくわからないけど一番強い妖怪と閻魔様がこの世にある地獄の蓋付近を占領しているんだと。

それだけで人間には攻撃してこないからそのまま冷戦状態ってわけ。

「はぁ。何か面白いことないかなぁ」

「何よ。半年前にあったじゃない。すっごく面白いこと」

彼女が僕の目の前の席に座った。

「あったけどさ…。結局僕たちには何もなかったじゃないか」

「そうでもないわよ?」

僕たちと同じ学年に一人の男がいる。

その男は諸星夏樹といい、人外との戦争にも一役買ったそうだ。

彼だけはこの軍人育成学校でも特別な、右半身がまるで見えない制服をしている。

オーダーメイドっぽい。

「諸星だけじゃないか。あいつは数にいれないよ」

「それもそうね…。」

再び静寂が訪れる。

「まぁ、僕は戦線にはあまり出たくはないけどね」

彼女が呆れた顔をしている。

「そうだったわね、空くんは確か。医療と機械だっけ?」

「そうさ。僕からしたら何故きみが戦線に出たいというのかわからないけどね」

「ででもいいじゃない。私にはそれくらいしか能はないわよ。それすらも危ういってのに」

それくらいしか能はないって…。

君は自分の価値を軽く見すぎているよ。

彼女は深い闇を抱えているような顔をしていた。

僕は何も言えず、顔を眺めることしかできなかった。

「さぁ、つぎは対戦演習だよっ。はやく!」

「あ、うん。待ってよ」


対戦演習場第15会議室にて。

僕は彼女とその他の2人と班を作って対戦に関しての策を練り始めた。

フィールドは長方形。

遮蔽物は形が様々なキューブが十数個置いてあるだけ。

「男二人と女二人か…。」

僕はそうつぶやいた。

「まずは私がいつもどうり先陣をきるね!!」

僕の目の前にいる女が胡坐をかいて僕に言ってきた。

彼女の名前は金田という。下の名前は忘れた。

「そうだね。金田と秀人は開幕速攻で行ってくれ。」

秀人は僕の隣で欠伸をかましているでかい男だ。

「おうよ。いつもどうりサクッとやって勝とうなー。頼むぜ空よ」

「うん。任せておいて。」

僕は胸をとんと叩いた。

「私は何をすればいいの?」

「そうだね。決め手にするから僕の近くで待っておいてね。」

「うん、わかった」

僕はマップを広げた。

「今日のマップは真ん中にどでかい石が一個とリスタート位置に隠れられる程度の石がある。向こうもだ。今回も僕が狙撃を行う。合図はゴーとステイのみで…。大丈夫?」

「「「大丈夫」だ」まかせといて」







「3」

「2」

「1」

「START」

開始のサイレンが鳴った

監視用のドローンが飛び回る。

「よっしゃいくぜええええええええ。かますぜえええええええええ」

金田が先陣をきった。

ついでにグレネードを投げた。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

秀人も行った。

「よし、俺たちも行くぞ。」

「うん、わかってる」

ドガァンとグレネードが爆発する音がした。

僕と彼女は拳を合わせた後手前のキューブを避けて真ん中へ走り抜けた。

秀人がキューブの近くに来る…。

大きく息を吸い込み僕はは叫んだ。

「秀人ォ!!お前そっちじゃねぇだろうが!」

走りながら叫ぶのはやっぱりつかれる。

「うるせぇ!!こまけぇことはいいんだよ!」

「そうだぞそらぁあああああああああ!」

秀人に付け加え金田まで叫び返してきた。

そうこうしている間に中央のキューブについた。

先に彼女が着いていた。

「いくぞっ」

「うんッ」

僕は彼女の手の上に足をのっけてキューブの上へあがった。

すると秀人から

―――狙撃手、一人。居たぞ。さっさてやってくれ―――

ふふ、了解。

やっぱりチームに一つしかないグレネードを投げたら石の上に登るか。

安全だもんな。グレネードの心配がなければ。

「そのまま待機しておいて」

「わかった」

登った僕はその場に伏せパンパンという乾いた音を聞いていた。

よして僕は心を鎮めるための一言を言った。

「ブレインリセット」

僕は立った。

一発外せば不意打ちができなくなる。

まだ相手はこの高い石の上に人がいるかもしれないという認識なのだが、僕が一発撃つとそれは確信に変わる。

相手の警戒心が薄いうちに

「一発で仕留める。」

そしてキューブの上面にいる相手の狙撃手が目に入った。

相手はこちらを見ていた。

だがとても驚いているようだった。

「いけるな」

僕は引き金を絞った。

思い描いていた軌道を沿って弾が相手へ飛ぶ。

その後の展開は見ていなくても相手の断末魔が教えてくれた。

僕の特技はブレインリセット。

頭の中の作業をすべて中断し一つの物事を成し遂げるために2,3秒を10秒くらいに引き延ばすというものだ。

これは訓練しているうちに偶然習得した技だ。

「―――狙撃手クリア。ゴーサインだ。―――」

―――了解―――

―――了解―――

「よし、降りるか。」

キューブは思ったより高かった。

思わぬ難所。

「はやく降りなさいよー」

「わかってるって」

くそっ。

ドサ。

「ひゃー怖かった。」

「ほら立って、いくよ」

「おう。」

その時、仲間が倒れたことを示す無線機のランプが赤く点滅した。

―――空、二人クリアだz…―――

「―――どうした秀人―――」

―――だめ、金田さんもやられてる―――

「―――亜美か、どうなってるんだ―――」

―――だまって集中して!うわっ―――

装備がガチャガチャと音を立てていた。

くそっ。

「おおおおおい。でてこいよおおおおお」

ッ!?

「空とかいったっけか?そんなちんけなことしかできねーのか?上に登ってちょっかい出すだけかよ!!」

明らかな挑発だった。

まだ俺が上にいると思っているらしい。

「返事なしか!!早く出て来いよッ!!」

奴がグレネードを上に投げた。

「ブレインリセット!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

クレー射撃。

成功。

敵認識。

軸の傾きが許容範囲超。

左足による修正。細胞の活動低下許容範囲超。

酸素吸引。横隔膜活動開始。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「お、来てんじゃねーか」

奴はキューブの角でまち構えていて二方向を警戒できる体制をとっていた。しかも二丁拳銃。

キューブの陰になっていてわからなかったが割とひどい有様になっていた。

大量の赤と青のインクが混じり合い、気味悪い色だった。

「ならさっさと出て来いよおら!」

奴が僕に銃口を向けた。

そのときには僕の脳の働きはほぼ正常になっていた。

そして僕は思った。

逃げなくちゃ…。

正確には頭で思うより先に脊髄が判断していた。

ひとしきり弾幕を避けきることができた。

「次は僕の番だ。オーバードライブ!!」

僕がそう言うと胸の奥で赤い炎がごうと燃え上がるのがわかった。

力が湧いてくる。

これなら十分可能だな。

僕はおもむろに銃口を地面へ突き刺し、両手を広げて言った。

一方で

奴はまっすぐ僕を見ていた。

ポインタは僕の脳天に向けられている。

このままだと、僕はなすすべなく戦闘不能になる。

だが、構わない。

そして、僕は指で銃を模し…。

上から亜美が銃を構えて落ちてきて…。

「「BANG!!」」

奴の胸からインクが飛び散った。

「なっ!」

頭から足まで、赤色のインクが奴の青いスーツを染める。

奴は腰を抜かして座り込んだ。

「上からかよぉ…。」

上を見上げるとRED WINの文字がでかでかと掲げであった。

俺の腕の中で亜美はつらそうに肩を上下させていた。

僕はまた空っぽの心が満たされた気持ちになった。



対戦演習場第15会議室

「いやーお疲れさん。二人とも!!」

炭酸ジュースが入ったグラスが掲げられる。

金田の金髪が揺れた。

「ごめんね、いつも二人には汚れるような仕事ばっかりやってもらって。」

「いいよいいよ。わたし…あのインクでべとべとになる感じ。好きなんだ」

金田が僕に顔を近づけてきた。

僕はそれを片手で制す、慣れたものだ。

「俺はできればラストアタックとってみてーな。なぁ亜美と役…」

あっと言って秀人は話すのをやめた。

「なんだって?」

「いやなんでもねーって!いつもありがとな空」

「うん、秀人も…」

「なぁ、もっと汚れ役をやってもいいんだぜ!なんなら戦闘以外の汚れ役でもいいぜ!」

僕が話していたというのに

「じゃあ、トイレ掃除でもやっててもらおうかな…?」

「お前がそれを命令してくれるなら…。よ、喜んで。勿論、お前も来てくれるんだよな…。」

「いや、お前ひとりだ」

「あいかわらず仲いいね」

亜美が扉を開けて入ってきた。

まだぐずっていたが再びそれを制す。

「亜美もお疲れさま。体の疲労とか大丈夫?」

「大丈夫だよ、まあ、狙いながらの落下は意外ときつかったなぁ。」

「そうか」

「それより乾杯しよ?せっかく9連勝してるんだし。あと1勝ガンバロ―ってことで」

金田と秀人が頷いた。

「そうだな。」

無言の圧力。

「そ、それじゃあ。次の対戦は実戦経験者の諸星夏樹が相手だ。皆、気を引きしめてガンバロ―。乾杯」

「「「乾杯!!」」」

僕は躰の疲労と違和感を感じていたがあまり気にしていなかった。

ついでに…

亜美の様子も。

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