鍛冶職人の研子

 カーン、カーン、カーン、カーン!

 金槌が熱した金属を叩く音が、テントに響いていた。

 熱した金属に金槌を振るうのは、紺色の前合わせの服を着た女性だった。整った顔つきで、美人だった。目は杏仁形で、大きめの瞳を湛えている。肩まで伸びた髪をうなじで纏め、バンダナを頭に巻いていた。

 彼女の名は、研子(とぎこ)と言った。短くは表せない複雑な境遇で生まれ、紆余曲折あって、今は鍜冶師をしている。

 

 シャリ……シャリ……シャリ。

 「……ん、良いかな……良い出来だ」

 金槌で叩き、伸ばし、鍛え上げ生まれたのは、ショートソードだった。研がれたばかりの銀色の刀身が、光を浴びてクリアーグリーンの輝きを返した。

 「う~ん……銀貨十二枚、かな」

 そう言って、研子はショートソードを柄に嵌めて茶色い革の鞘に納めた。

 木の札に『銀貨十二枚』と書いて、重石にするようにショートソードを置いた。その左右には、ズラリと包丁や剣が並べられていた。

 「うーん……」

 『目玉商品』と書き足した。


 「安いよー!多分相場より安いよー!冷やかしでも良いから見てってー!」

 研子は、元気よく客を呼び込もうとしたが、あまり人は立ち止まろうとしなかった。  

 「中々人が来ないなー……。あっ!そこのお兄さん!武器新調していかない?」

 研子に呼び止められた若い男は、苦笑いしながら足早に去っていった。

 「そんなに怪しいかな?私の格好……」

 その後も、老若男女問わずに声をかけたが、何も売れなかった。

 

 

 

 

 

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